終わりを知らない無限の空は暗闇に包まれ、月の光は里を何処までも優しく照らす。
ぽつりぽつりと灯る街灯の光が、道行く人の手助けをする。

そしてわたしはと言うと、約束も取り付けずに任務終わりにカカシの家に押し掛けた。

それは日常茶飯事で、以前なら文句の一つもあったけれど、今では何も言わなくなった。

誰の物かも分からない、乾き切った血痕の付く任務服を脱ぎ捨てて洗濯機へ放り込む。
ピ、とボタンを押すとゴウンと音を立て軽快に回りだす。
血痕何てものは簡単に落ちるものでは無いけれど、何故かカカシの家の洗濯機は良く落ちる。
理由を尋ねると、オレのだからと自慢気に返された時は、呆れて物も言えなかった。

洗濯機へ放り込む前に漁った、任務服のポケットにあった飴玉を口に入れる。
うん、あまい。
そしてカカシの家に常備してある、自分用のTシャツとスウェットのズボンに着替えて、もぞもぞと布団に潜り込む。

あったかい。


「こら、」
「…いないと思ったのに」


と言うのは勿論嘘で、カカシがベッドに居る事を分かって居て隣に潜り込んだ。
右腕で頭を支えてわたしに呆れ顔を向けているカカシ。いつも近くで見ているとはいえ、どうしてこの人にこんなにも見惚れてしまうのだろう。
魅せられて、時が一瞬止まったかの様な錯覚を覚える。
悔しい位に綺麗な指がわたしの額をつん、と突く。


「痛い、」


痛く無いけれど意味無く痛いフリして、これでもかって位気を引こうとする自分が嫌になる。
それでも、カカシにずっとわたしを見て居て欲しい気持ちには勝つ気がしない。


「分かってて入って来たでしょ、分からない訳ないよね」


カカシはふ、と柔らかく笑みを零してから体を起こすと寒い。と言って上着を羽織る。
そのままキッチンに向かい、カタン、と音を立ててカップを取り出す。
男らしく引き締まった背中を眺めて、どきり、と高鳴るわたしの胸の鼓動を必死に抑える。
気が付けば、ほろ苦い珈琲の香りが鼻の奥まで浸透してゆく。


「飲む?」
「ううん、要らない」


あそ、と力無く笑うカカシは、二つ出していたカップの内の一つを棚に仕舞う。
その後、何で飲まないのと問い掛けながら戻って来た。
別に、と答えれば、カカシはカップを机の上に置いてからギシ、と音を立ててベッドに腰を掛ける。
静寂な部屋に響くその音は、カカシとわたしの視線を合わせる合図だった。

右手をす、とわたしの頬に触れるカカシの掌はほんの少し冷たく感じる。
左手でゆっくりと口布を下げ、互いの距離は無くなってゆく。


「…ね、何か食べてる?」


近距離、後3センチ程の所でカカシの動きが止まり、物凄く嫌そうな表情を見せた。


「飴舐めてる」
「すっごい甘い匂いするよ」


はあ、と大きな溜め息を付いた後、カカシはぱっと顔を上げて体の向きを変えてしまった。


「いつもと違う味を味わいません?」


ふふ、とからかう様に笑ってカカシを誘ってみれば、数秒の間が開いた後、力無い声で遠慮します。とまた大きな溜め息を付く始末。

偶にはいいんじゃない?
飴玉みたいな甘いきすも。
苦いのばかりじゃ舌も狂うよ。
いつも苦いカカシのきすが苺味に変われば世界も何か変わるのかな。







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