近頃、カカシの様子がおかしい。
話し掛けても全て曖昧に返されるし、目すら合わせてくれ無くなってしまった。
当たり前なことだけれど、任務で組んだ時も任務以外の事は話さない。
何処か余所余所しくて良い気はしない。
今までなら任務の事は勿論、プライベートな事も話して来た。
だから自然と仲は良い方だと思っていた。
気兼ねなく何でも話せて居たのはわたしだけだったらしい。

一度流石に我慢出来なくなって、カカシの顔を掴んで無理矢理視線を合わせようとしたけれど、痛いな、何よ?と掴んだわたしの手をす、と払い除けてしまった。
一瞬視線は自然と合わさったけれど、結局意味は無かった。
カカシは今まで見た事も無い様な冷たい顔で、静かな口調だったから、その後は何も言えなくなったのは言うまでも無い。

それ以来、必要最低限の会話は無くなり、それでも諦めずに何度か声を掛けてはみたものの、進歩無し。
わたしは嫌われたのだ、そう思うようになって居た。
カカシと他愛も無い話しをして居るだけでわたしは凄く幸せだった。

「すき」だった。

カカシにそんな態度をとられて初めて自分の気持ちに気が付く何て。
今となってはあの頃がとても懐かしく思える。




「報告書出せだって」
「…ごめん、今から行く」


待機所で珈琲の入ったカップを手に、僅かな時間の休息をしている時だった。
後ろから声を掛けて来たのはカカシで、振り向けば既に椅子に座って本を読み始めて居た。
残りの珈琲をく、と喉に流し入れる。
コトン、とカップをテーブルの上に置いて、近くに置いておいた報告書を手に取る。

カカシをチラと見て様子を伺えば、カカシの視線は本に向けられたまま。
いつも眠たそうな、けれど優しいその瞳でわたしを見てくれる事は無い。

ふう、とカカシに聞こえない位の小さな溜め息を付いて、その場を離れる。


「ヒロイン、」


久し振りにわたしの名を呼ぶカカシの声。
少し戸惑っているようにも思えるその声に躊躇いも無く、ぱ、と後ろを振り返る。


「ブラック飲めるようになったんだね」


カカシが顔を上げて小さく笑って、その指差す先にはわたしが置いたカップがあった。


「、うん」


一瞬言葉を詰まらせ戸惑うわたしを余所にカカシは、本当に久し振りに視線を合わせて、以前と同じ笑顔を向けてくれて居る。

何てカカシは狡いのだろう。
わたしはどうしたってもうこの気持ちは抑えられなかったのに、あのまま突き放されれば忘れられてた筈だった。
また気持ちは逆戻り。
わたしの心にブレーキは利かない。


「成長したんだね」


本に視線を落として、意地悪そうに鼻を鳴らすカカシ。
ページを一枚捲る小さな音にも異常に反応してしまう。


「久し振りだね、話すの」
「…そう?」
「うん」


手に持つ報告書、掌が汗ばんでシワが出来そうだ。
どうしてこんなにも緊張するのだろうか。
散々会話して来た筈なのに、初めて出会った人みたいに。
顔が火照って仕方無い。
声が震えているのが自分の耳にも嫌と言う程響いて聞こえる。


「俺さ、嘘付きなんだ」
「え?」


ぼそりと呟くカカシの声は、今にも掻き消されてしまいそう。


「俺…ヒロインが好きだった」
「…!」
「だけど、俺と一緒に居てはいけないんだよ」
「どういう、こと?」


突然のカカシの告白に脳内の処理能力が追いつかない。
視線を合わせようともしない彼の横顔を必死に見つめる。


「……俺は狡い男だからお前と一緒に居たらお前に甘えてしまう」


そう言って手に持つ本を少し強く握ったように見えた。


本当にこの人はいつもいつも一人で何でも抱え込んでわたしを頼ろうとしてくれない。
そんな彼を好きになったのに、分かってあげられなかった自分が本当に悔しい。
口下手な彼がこんな言い方をする何て。
どれだけ悩んで考えてこの結果になったのか。
理由もなくカカシがこんなことする筈もない。
わたしが一番分かってあげなくてはいけなかったのに。
いつもカカシの優しさに甘えていたのはわたしの方だった。


「カカシ!…っ…わたしは…!」


真っすぐ声に出そうとしても溜め続けて来たわたしの心の声は言葉として直ぐには出せなかった。
何故だろう。
こんなにこんなにこの人がすきなのに。
ただ泪が溢れて止まらない。
目の前が全て歪んでしまって何も見えない。
言葉にしなければこの想いは伝わるはずも無いのに。
手に握っていた報告書は力強く握り締めもうしわしわになっている。


ガタ、と人が動く気配がした瞬間、奇麗な長い指でわたしの顎をくっと優しく上に上げられた。
視線のすぐ前にはカカシの顔が。
でもやっぱり滲んで上手く表情が捉えることは出来ない。
堪えようとしても止めどなく溢れるこの感情を抑えられない。


「…ヒロイン…泣かないで」


大切な物に触れるようにわたしの頬を撫でてくれていた手が力強くわたしを引いた。
カカシは逆側の手で自身の口布を慣れた手つきで下ろす。
そしてわたしの唇はカカシの唇と触れ合っていた。


「なんで…」
「俺…本当狡いでしょ?」


ゆっくりと離れた唇に息を吸うのも忘れ驚き状況が判断出来ないわたしの頬から一筋の泪が零れ落ちた。
カカシは小さく笑ってそれをすくい取った。


「俺は…ヒロインがすきなんだよ」


どうしてそんな悲しそうに、けれど優しく笑うの?
目尻を下げて笑うカカシの瞳は潤んでいるようにも見えた。


どうして年を重ねるごとに言葉を失ってしまったのだろう。
思うままに気持ちを表現出来ないことがこんなに悲しいこと何て思いもしなかった。
本当に大切に想うものこそ言葉にしなくては伝えられないのに。
ただ、すきだからこそ。
こんなにも狡くて優しいこの人に。



「…わたしも、すきだよ」



そう言ってカカシの唇にそっと口づけた。






伝えたいことがたくさんあるのに
言葉に出来ない


150112.
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