オレには昔から想いを寄せる女が居る。
この想いを告げる気など皆無に近い。
否、既に明白に告げている(態度で示している)筈なのだが、彼女は何処かしら可笑しい奴で、伝わる事が無いのだ。

以前、オレの為にご飯を作ってよ、と意を決したつもりで言った事があった。
そして彼女の反応はオレの予想を遥かに超えていた。


「いいよ!明日作って持ってくね」
「あ…、うん、有り難う」


にっと笑う彼女にオレがどうにも出来なかったのは言うまでも無い。
確かにオレの言い方が悪かったのかも知れないと思い、そこにはもう触れたくなくなった。過去の記憶から消したいと思った。
勿論、忘れたい記憶程忘れる事は出来無い。
だからこうやって今でも鮮明に思い出してしまう。

次の日、彼女は約束通りご飯を作って持って来てくれたのだが…ならオレの家で作ってよ、とその時は下心何て関係無しに心からそう思った。
チャイムが鳴ったドアを開けた先には彼女の満面の笑みが待って居て、両手に持つ紙袋の中には大量のタッパーが嫌と言う程オレの視線をかっさらった。
一人用にしては多くないですか。寧ろ二人で食べるにも厳しいと思います。


「カカシ!作ってきたよ!」
「……」


此処まで天然だと何を言っても無駄だな、と自然と感じる。
まあ、そんな所に惚れたのだろうと、認める要因に成るだけだが、何処か腑に落ちない。


一先ず、彼女とタッパーたちを家に招き入れ、一応、彼女と自分の珈琲を用意する。
オレの家に初めて招き入れた彼女はそわそわとして落ち着かない様子だ。
可愛いなあ、そんな事を思うオレは本当にどうしようも無い男だ。

珈琲を半分程飲んだ所で紙袋をガサと漁り、タッパーを一つ取り出す。
蓋を開ければ美味しそうな煮物が姿を現した。
見た目は合格。いや、これは美味しそうだ。
箸を手にして、頂きます。と一言断ってからそれを摘む。


「お、美味しくないかも…」


彼女が不安そうにオレの表情を伺う中で、オレは箸をゆっくりと口に近付ける。
左手で口布をく、と下げて口に放り込めば、美味しい煮物が口内を包む…

だが、オレはその時の現実の記憶が無くなってしまう。
瞬間的に花畑が見えて、オビトが手を振っている幻覚を見た。
気が付けば冷や汗がオレを襲って居たのだ。


「っ、フォロー出来ない…」
「やっぱり!?」


…やっぱり?


「わたし味音痴みたいで、昨日友だちに味見して貰ったらみんな意識無くなって…」


君は何処までも飽きさせないでくれる。
オレはどうにも笑うしか無くて、腹を抱えて笑い出す。
彼女は何で笑うの〜!と口を尖らせてオレに抗議するが、そんな顔も面白くて楽しくて仕様が無い。
それ以前に可愛くて可愛くて仕方が無い。
今直ぐこの腕で抱き締めたい。
抱き締めたら君はどうするだろうか。
それを試したい気持ちは遥かに勝る。
それより先に料理を上手く作れる様になって貰おう。
オレが調教してやらなきゃ。




「何で!何で砂糖と片栗粉間違えるのよ!?」
「えっ?違うの?」


はあ〜…
あれ以来溜め息が出ない日は無い。
彼女に料理を教える事に成ってからは、任務が無くて休みの日や、暇さえあれば料理を教えて居るのに、一向に進化の兆しが見えない。
まあ、十回に一回は成功する様に成っただけはマシか。


「何で出来ないのかな〜…」


一生懸命やっているのは充分解る。
落ち込む彼女の頬には片栗粉の粉が付いていて、可笑しい位に愛おしい。
三十路にも成って未だに信じる、恋は盲目って奴でしょうか。
ふ、と口元を緩ませて、掌で彼女の頬を拭ってやる。


「有り難う、」
「どう致しまして」


以前と変わる所がもう一つ。
彼女が頬をふんわりと紅色に染める事。
もう我慢出来ません。





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100217.

END.
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