03
 わたしは、きっと彼に呪いを掛けている。
 闘争本能のみに突き動かされるはずの彼が、ただわたしと共に世界を見ているだけとは、きっと苦痛でしかない。
 それにも関わらずわたしは彼にそれを望んでいるのだ。「わたしのそばにいて」と。
 いつか終わりが来ることも分かっているのに、いや、だからこそ。わたしは彼に依存して呪詛を吐く。



永遠の存在者
03.


 キリハの視線が痛く、は目を逸らした。そして、「行こう、タイガーちゃん、オメカモン」と言って吹雪の中を再び歩き出そうとする。
 二体のデジモンは、その言葉に素直に応じ、と共に踵を返す。

「じゃーな! クソ雑魚共!」
「オメカモン、うるさい」
「おい、キリハ、アイツラ行くぞ!!」

 タイガーヴェスパモンも、オメカモンも。高阪の言葉に何の疑問も抱かずに、奴の言うこと全てに従うのだろうか。
 ふとそんな考えが浮かび上がった。そうして、一介の小娘に従い、傍観し続ける道を選ぶ。それは、デジモンとしての生き方に背いているのではないか。
 ――奴らには、自分の信念がないのか?
 そう考えると、キリハは妙に苛立ち、を戦場に引きずり込みたくなった。
 キリハは、去ろうとする一人と二匹に、声を掛けた。

「俺はこれから工藤タイキの元へ行く! お前も知っているだろう、赤いクロスローダーの男だ!」

 キリハの言葉に、オメカモンが振り返る。――オメカモンは、まだ反応があるだけマシだ。
 しかし、は、タイガーヴェスパモンは無反応だった。
 その様子に苛立ちを覚えた者は、キリハだけではない。グレイモンが、突如雄叫びを上げながらタイガーヴェスパモンに突進していった。

「つくづくオレは、お前らが気に入らん!」
「……だから突撃するのか?」

 不意打ちのことではあったが、タイガーヴェスパモンは即座に振り返り、腕の装甲で衝撃を受け止めた。雪煙が、舞い上がる。
 身のこなしから察するに、やはりタイガーヴェスパモンは戦い慣れしている様子だった。
 は、間近で行われたやり取りを見上げる。――面倒なことになりそうだ。
 そして、がそう思っていたとおりに、キリハがに近づいた。
 
「お前も来い、高阪。逃げるのではなく、戦いに身を落とす覚悟を見せてみろ」
「……はあ」
「おいクソ堅物野郎、に軽々しく触るなよ!!」

 キリハは、の腕を強く掴んだ。
 オメカモンは不満そうにキリハに文句をぶつけるが、は驚いて何も言えなかった。
 ――が最後に“ヒト”に触れられたのは、三年前だった。
 この三年間、ずっとデジモンだけと共にいた。しかし、今わたしの目の前にはヒトがいるのだ。――そうだ、彼だってわたしと同い年の生きた人間なのだ。
 今まで遭遇した際には全く意識していなかった“ヒト”の存在を、は確かに感じた。
 軍師としてのキリハの才は秀でたものだった。そして、彼は、デジモンと共に、この世界で懸命に生きている……。

 はどうしたら良いのか分からず、後ろにいたタイガーヴェスパモンの方を見た。

「……行こう、

 タイガーヴェスパモンはそれだけを言うと、を抱えた。は「う、うん……」と頷くしかなかった。


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