01
冠を与えられ、彼女は世界に縛られた。 彼女は、世界を傍観し続けた。彼女が世界のすべてを知り尽くしていても、彼女を知る者はいなかった。 この世界には何度も危機が訪れて、その度に異界から来た者の手により世界は救われた。救われるごとに歴史は塗り替えられ、世界は変わっていく。 原始の世界の生命は知能を持たなかった。何千年も月日が流れるうちに、生命は進化していき、いつしか争いが起きるようになった。それを、十の闘士がそれを止めた。更に何千年も経ち、再び世界に危機が訪れたとき、火の壁の向こうよりやって来た者たちが闘士の力を得、世界に安寧の時が訪れる。 戦いは即ち、勝利か敗北かの二択のみである。敗北した者は消え去るのみ。しかしながら敗北した者の念が習合し、強大な力になったことがあった。しかしそれは、希望の光を信じる力によって滅び去った。 異界とは人間界のこと。そこからやって来た人間。世界を救った人間は皆、決して最後まで諦めることはなく、夢を見続けた。人間はこの世界に住まう生命体、デジモンと融合したという記録や、人間自らが悪のデジモンを打ったという記録さえもある。 しかし、それらはすべて遙か古代の話だった。夢を見る者がいなくなった世界と歴史は変えられ、過去のこの世界に普遍的に起こり得た進化という現象を知る者はいない。 「」 彼が彼女を呼んだ。彼女は、崖の上から空と海の交わる彼岸を見ていた。 進化の光がない、変わることがない生命が住まう世界が、終わりを迎えようとしている。 彼女は、いかなる時にあっても、その様子を傍観するのみであった。 永遠の存在者 乾いた大地を大行進するデジモンの群れが見える。あの群れは紛れもなくバグラ軍のデジモンたちだった。 この世界のコードクラウンを全て手にし、支配しようとしている軍、バグラ軍。 ここ、デジタルワールドではもうずっと戦争が続いていた。その主犯がバグラ軍なのだ。世界が壊れかけてしまってから、ずっと争いが続いている。 はパートナーであるタイガーヴェスパモンに寄り添い、崖から行進を眺めていた。 「、人間のガキがいるぜ、三人も!」 「新しいクロスローダーを持つ子ども……?」 オメカモンの声に、は驚いて目を凝らす。と同年代のように見える子どもが、三人いた。 どうやら三人は、唐突に空からデジタイズしてしまったらしい。落ちた先がバグラ軍の群れのなかだなんて、運が悪いとしか言えない。 「、どうする」 「どうする、じゃない。分かってるでしょう、タイガーちゃん」 額に刻まれている印がある以上、自分はどうすることもできない。デジエンテレケイアのデータが埋め込まれた自分は、流れに身を任せるしかないのだった。 タイガーヴェスパモンがわざわざこのような聞くのは、彼が戦いを望んでいるからだ。だが、はそれには気付かないふりをしていた。 突如現れた三人に、バグラ軍が発砲を開始する。は咄嗟に目を閉じる。だが、タイガーヴェスパモンが「安心しろ、状況が変わった」と言ったのではおそるおそる目を開く。 三人のうちの、ゴーグルをかけた少年が、赤いクロスローダーを空に掲げてデジモンをリロードしたのだった。赤いクロスローダーと同じ、赤いデジモンだった。 赤い恐竜のようなデジモンは、あっという間にバグラ軍のデジモンを蹴散らしていく。は安堵して、そのデジモンの方を見る。その時、今度は別のデジモンが現れた。 それはクロスローダーから現れたわけではなく、元々このゾーンに住み着いていたデジモンのようだった。その青く機械のようなデジモンは、赤い恐竜デジモンと同じようにバグラ軍のデジモンを打っていく。 しかしそれでも、力の差に開きがあるのは当たり前だった。バグラ軍の幹部であるマッハレオモンが現れ、二体のデジモンはやられていく。このままあの人間の子供もろともやられるのか――がそう思ったとき、ゴーグルの少年が叫んだのだった。 「――モン、――モン――デジクロス!」 デジモンの名前を聞き取ることは出来なかったが、そのすぐあとに叫んだ言葉ははっきりと聞こえた。――デジクロス。 それは、進化の光が失われた世界で新たに登場した概念。デジモンが合体し、新たな形を成すことだった。ジョグレス進化と似ているが、また異なった概念だった。 デジクロスで一回り大きく変貌したデジモンは、 あっという間にマッハレオモンを飛ばしていった。――強い。 「おい見たかよ、デジクロスだってよ!?」 「……新たな希望が生まれたな」 「……うん」 デジクロスの力を使う少年が、また新たに現れた。の心は、希望に染まったように感じた。だがそれもすぐに冷める。――は、この世界が本当に救われるとは思っていないのだ。 / NOVEL TOP ×
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