私の白い腕には縦に緑や紫の血管が薄く浮き出ている。そこに刃物を一振りすれば、あっという間に真っ赤な血が躍り出す。
残る傷跡も、同じく燃えるような赤。

「お前が傷付いても何の意味もねえんだよ、馬鹿」

もう私は二度と自らを傷付ける行為はしない。しかし傷跡だけは、消えずに醜く残っている。

「もう危ないことしちゃダメだよ」

ガーゼを消毒液で湿らせながら、私はコウキくんの切れた唇を見た。赤い血が滲んでいる。
喧嘩しても、いいことなんか何もない。それなのにどうしてコウキくんはいつも傷だらけになるんだろう。

「うるせえよ」

コウキくんは私を見ようとはしないでむすっとソファーに座っている。
日頃ただでさえ帰りが遅いのに、この一週間ぐらいますます帰ってくるのが遅く、コウキくんが家に戻るのは大抵日付が変わっていたときだ。
今まで、朝帰りしたということももちろんあった。それでも、やはり私は心配で仕方なかった。
傷付いたコウキくんのその姿は、過去の私を思い出させるには充分すぎて、痛々しかった。
他者を傷付け自分までもを傷付けるコウキくん。自殺を図り自らを傷付けていた私。
ただ想いの矛先が違っているだけで、根底に存している感情は同じなはずだ。

「ほら消毒しよう」
「寝る」

しかしコウキくんはガーゼを持った私の手を払いのけ、寝室のほうへ向かって行ってしまう。
ただ、心配しているだけなのに拒絶される。私はかわいそうなコウキくんを守ってあげたかっただけだ。過去に彼が私にそうしたように。
本当は、コウキくんはとても優しい人だったのだ。いつからだろうか、コウキくんがおかしくなっていったのは。
私が自傷をやめたのは母や父でもなく、コウキくんの言葉だった。

「お前が傷付いても何の意味もねえんだよ、馬鹿。誰かに何かされたら言えよ、俺がそいつをぶん殴る」

"ぶん殴る"。コウキくんが喧嘩をするようになったのはわたしにも、責任があるのかもしれない。
不良息子、と言って父や母は既にコウキくんを見放してしまっている。コウキくんも、姉である私を含めた家族のことになんか何も関心がない。同じ家族なのに、私にはどうしても理解できない。
明日きっとコウキくんはまた、たくさん傷を作って帰ってくるのだろう。
よく見るとガーゼには、払いのけたときに着いたのだろうか、コウキくんの血のしみが小さくあった。
当たり前ながらも、それはやはり真紅のような赤。


『あなたが傷付いても何の意味もない』

私は、過去にコウキくんに言われた言葉と同じ思いを彼に抱いている。
鈍く残る傷跡が、微かに痛んだ。



100816 ――
かなり前に書いたやつ


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