「それで、私の元を訪れたというわけか」
「はい、ロードナイトモンさんなら何とかしてくれると思いまして……」

 日々エリアの警護に忙しい私の元を訪れてきたのは、人間の娘だった。
 仕事の帰りに後をつけられているような感覚や、何もないはずのところで何らかの気配を感じてしまう、と典型的なストーカー被害に遭っているようだった。
 たかが人間の小娘の悩みなどロイヤルナイツであるこの私に頼むことはなかろう、と思っていると、私の視線を察したのか娘はスマートフォン型のデジヴァイスを突きつける。

「あの、これ……。ロードナイトモンさんなら、守ってくれるナイトモンデジモンランキング1位! というネットの記事を見たんです」
「ふっ。こんな記事をわざわざ書かせるまでもなく、私が1位というのは当然だがな。何せ私は全てのナイトモンの頂点に立つ者。ロード、ナイトモンなのだから」
「な、なるほど?」

 本当は当初そのランキングで1位となっていたのはダークナイトモンであったが、それは恐らく私の美しさに嫉妬した者による哀れなデータ改竄だろう。私は自分の部下のナイトモンたちに命じて1位へとリロードさせたのだった。

「で。私、副業でハッカーやってるんですけども、その仕事がらみでの被害かもしれないと思っていて。本業の会社にバレたらまずいなーと思って」
「何だ。ともすると、貴様は自分勝手な都合で私の力を利用したいと?」

 デジタルワールドとリアルワールドの往来が当たり前となった現代では、テイマー、ハッカーを名乗って仕事をする人間も多い。世界を守るためにと大義を掲げて動くものもいれば、この娘のように安易な気持ちでデジモンを連れている人間も、一定数存在しているのだった。
 私に頼ろうと思い当たるとは図々しいが、まあこの薔薇の城エリアまで辿り着けたスキルは評価してやってもいい。

「あー、あの。でも、連れてる子もまだこの通り成長期でして。ね、ねえ。ソーラーモンもロードナイトモンさんみたいに強くなりたい、と思ってるよね!?」
「!?!?!」

 突然に話題を振られたソーラーモンは、話すことができないなりにも明らかにうろたえていた。ふむ、パートナーの行動に振り回されるとは哀れな。
 ともあれ、彼女はこの崇高なる私の力を借りて犯人を突き止めたい、とのことだった。力のあるものは、美しくなければいけない。彼女が私を頼るのは身勝手な言い分ではあるが、弱きものに手を差し伸べてこその私。そう、薔薇の似合うデジモンランキング1位の私だ。

「貴様のスペースに私の配下にあるナイトモンたちを配備させよう。そして、これを貼ると良い」
「こ、これは……」
「デジ文字で我が主、ロードナイトモンと書かれている」

 グラディモンたちに書かせたステッカーだ。彼女は驚いた様子でそれを受け取った。
 ソーラーモンは文字が読めないのか、ひどく顔をしかめていた。哀れなことだが、成長期にも教養は必要だ。
 デジヴァイスにステッカーのデータを格納しようと彼女が端末に触れる。すると、あんぐりと口を開けて私の方を見上げた。

「わ、私のデジスタグラムの投稿。気づいたら、どの投稿も#ロードナイトモン様は美しいとか#ロードナイトモン様万歳とか書いてあるんですけれど……」
「ああ、貴様のアカウントを少しばかりハッキングさせてもらった」
「何故?!」
「ふっ、分からんのか。この文字列があることによって、貴様も偉大なるロードナイトモン様の配下にあると知らしめることができる。ストーカー犯にとっては脅威であるだろう」
「いや、ただの強信者にしか見えないと思いますけども」
「それは貴様の尺度での意見だろう」
「ロードナイトモンさんのその発想もだいぶだと思いますけどね!?」

 心遣いの美しいデジモンランキング1位(ナイトモン調べ)である私のささやかな慈悲が伝わらないとは何とも嘆かわしい。
 彼女は「相談するデジモン失敗した」とか言って、ソーラーモンと頷き合っていた。やはり変りもの同士のコンビであるようだった。

「貴様は私の元へ、毎日通うと良い。そうすることで、ストーカー犯とやらにも、私の心配りや美しさが伝わるだろう」
「えええ……」
「返事は、はい、だろう」

 不満そうな表情を浮かべる彼女。環境を変えるのには、まず自分から変わることだ。それを彼女に伝えたい。
 そう、正義とは美しさである。今日も私は、正義のために戦うのだ。

210519

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