※全然夢っぽくないよ
どうしてあたしみたいなんがパートナー持ちなのかとかくだらんこと考えても意味のないことのようで、今ベランダにいるパートナーは意味もなくにやにやして楽しそうだ。
あたしが虫に耐性があったら、そりゃよかったのかもしれんけどさ、やっぱり女のコだし、虫とか普通にグロいなあとか思っちゃうわけよ。ゴキブリとか見たら、きゃあって悲鳴あげちゃうし芋虫も見たら逃げ出しちゃうわ。
だからあたしはパートナーのタイラントカブテリモンが怖いんだ、というかむしろ視界に入れたくないのよっっ。だからあたしはいまソファーの上で、テレビ観るふりして気を紛らわせとるよ、怖いもん!
タイラントカブテリモンは、一週間まえにデジヴァイスとやらと共にリアライズしてきた。最近はパートナーがいる人間はよくいるみたいだけど、やっぱりうちらみたいな、パートナーの姿がこわいよって悲劇とか、少なからずあると思うし。
「」
「ぎゃああ」
いきなり、だ。いきなり目の前に奴が現れた。マジ心臓に悪い。というかデカすぎるんじゃおどれは。
「は俺にあだ名なんぞを考えたりはせんのか?」
「は」
「イヤ、よくあるだろう、パートナーに名前を……というのは」
確かにそんなんもあるけど付けたくねえよ! キモ虫ちゃんとかそんなあだ名しか思い付かんわ!
というか何だ、いきなりそんなことを言うなんて……はッ。もしかして:名前付けられるの期待してる?
うわああああ、そりゃないわ。そんなんだったらあたしもなんて返答したらよいのやら……!
「あー、ウン、一応、考えとくわ」
一応相手に合わせてこう言ったあたしマジ偉い。
「楽しみにしているぞ。ところで俺は昆虫デジモンの王なのだ」
「はあ」
「何てったって全ての昆虫デジモンが俺にひざまずく」
うわっ、なんだこの自慢は……人間でも女のコに自分の武勇伝とかひたすら語る男いるけど、そういうアレなんですか……。
そんなタイラントカブテリモンにドン引きしていると、奴はベランダから飛び立ち、しばらく姿が見えなくなったかと思うとバッタを捕まえてきた。
「こいつも俺にひざまず……あっ」
バッタは、タイラントカブテリモンの手からするりと逃げていく。イヤ、口先だけってことかい。なんだこのデジモン。
一緒に暮らしてみて分かったのはこのキモ虫ちゃんはとんでもなく自信過剰、のわりには小物ということだった。
最近はあたしもこいつの扱いに慣れてきてようやくフツーに会話できるようになった。尤も、奴がくだらん武勇伝語ってるときは、あたしは話を聞くふりしながら耳栓装備してんけど。
「なあに、これ」
キモ虫ちゃんと一緒に住むようになってから、やたら奴の私物が部屋増えてきた。だからあたしは定期的に掃除してんだけども、そしたら見たことのない雑誌を発見した。
「うわあああ、やめろ、それだけは読んではならん!!」
あたしが雑誌を手にしたら、光の速さでキモ虫ちゃんが飛んできた。いや、ガチで心臓に悪いからやめてくれ!!
にしても、あんなに自己顕示欲の強いキモ虫ちゃんが嫌がるなんて、これは一体何の雑誌だろう。……女性型デジモンのあはんうふんなグラビア集とか?
あたしは全速力で未来も今も駆けながら、キモ虫ちゃんから逃げる。そして目次を開いた。
「昆虫型デジモンランキング……」
それは、なんてことはない昆虫型デジモンに関する特集だった。キモ虫ちゃんは一応昆虫の王(笑)なのになんでこれを嫌がるんだろう。
あたしは、キモ虫ちゃんが載っているであろうページを見た。こ、これは――。
「ふーん、そうだったんだあ」
どや顔であたしはキモ虫ちゃんを見た。雑誌には奴に関する、すごい内容が載っていたのだ。
「や、やめろ……」
奴はうろたえまくる。ははは。
ただの雑誌の編集のミスなんだろうが、こんなおいしいネタ、いじらないワケにはいかない。だって、奴はこんなにいかついのに、よ?
「あたし、これからあんたのこと、ラブちゃんって呼ぶから」
あたしのパートナーは、タイラントラブテリオンと言います。
グロくてならないパートナーが、可愛く思えた瞬間だった。
110725
息抜きに考えたひどすぎる話。