※2027年以降



 パパと火田さんへ。
 お元気ですか? です。
 さいきん、三年前のことを思い出します。
 三年も経った今だと、恥ずかしいことばかりです!
 これが届くころ、私はたぶんデジタルワールドにいます。
 私はパートナーに出会えて、皆と一緒に冒険しています。
 この冒険でやっと、火田さんの言っていた言葉の意味が分かったような気がします。
 火田さん、ありがとうございました。


―――
 火田さんはパパの古い付き合いのお友達らしい。パパのほうが、少し年上だけど。
 火田さんとは、亡くなったひいおじいちゃんのお葬式で親戚がわーわーしているときに知り合った。
 火田さんはベンゴシで、イサンソウゾクとかの問題を片付けてくれたらしい。イサンソウゾク自体が何なのかちんぷんかんぷんなわたしには、よく分かんないことだったけどね。
 わたしは、困りごとがあったらいつも火田さんに相談する。

「火田さん、友達とケンカしちゃいました」
「またですか?」

 受話器の向こう側で、火田さんは苦笑する。火田さんのやわらかい声は、なんだかとても安心する。火田さんと話すと、わたしのかなしい気持ちなんかすぐにどっかに行っちゃう。
 わたしは火田さんみたいな人がパパだったらいいのにな、といつも思う。

 久しぶりに火田さんと逢えることになった。嬉しくなって、買ったばかりのワンピースに合わせるクツを考えてたら、パパに早くしろと怒られた。
 パパと一緒に行った待ち合わせのお店には、火田さんとわたしと同い年くらいの女の子がいた。
 パパと火田さんはお久しぶりです、とか、なんか話してた。
 わたしは女の子を見る。女の子はにこ、と笑う。

「あなたが、お父様の御友人の娘さんですね?」
「えっ、う、うん。、って言うの……」

 その女の子の大人っぽい立ちふるまいに、わたしはびっくりした。そして、ショックだった。
 せっかくお店の大好きなオムライスが出てきても、きんちょうして味がぼやけちゃっておいしくなかった。
 女の子は楽しそうに笑う。わたしは一生けんめいそれに合わせる。女の子の横にいる火田さんを見つめた。火田さんは女の子そっくりの笑顔を見せて、パパと会話を続ける。ああ、そっか。
 ううん、わたしは火田さんが好きなんだろうなあ、きっと。心の中で、サイダーがパチパチとはじけるような甘いシゲキがわき起こった。
 だからきっとこの子がうらやましかったんだ。火田さんによく似ている、この子が。
 わたしはその子みたいにおしとやかにはなれない、ふるまえない。パパがイーカゲンな人だから仕方ないのかもしれないけど、さあ。
 ああ、なんか涙出そう。だめだなあ、泣いたらまた火田さんもこの子も困っちゃうしパパに怒られちゃうや。

「う、うわあぁん。ひ、火田さんちょっと来てください……!」
「ど、どうしたんですか」

 わたしは、火田さんのウデを引っ張ってお店の外に出た。
 パパが止める声なんか、むししちゃって。


「ほら、泣かないでください」
「……」
「どうしたんですか?」
「わ、わたし、火田さんが好きなんです。こどもだけど、火田さんが大好きなんです」

 泣きながら言った。もう自分でも何がなんだか、よく分からなかった。
 火田さんはいっしゅん、びっくりしたような表情になった。
 でも、わたしはしっかりと火田さんを見つめて。

「……さんに涙は似合いませんよ」

 火田さんはポケットからハンカチを取り出してわたしの目のいちとおなじところまでかがむと、涙をそっとぬぐう。その仕草がやさしすぎて、なんだかまた泣きたくなる。

「それで、なんかかなしくなったんです。わたしはパパそっくりだから、上品とかほどとおいから」
さん、あなたはそのままでいいんですよ。その、自分の個性を大切にしてください」

 火田さんは、わたしと同じぐらいのときの自分のことを話し始めた。むかしの火田さんは、今よりもっと真面目だった、って。

「君みたいに、無垢じゃなかったよ。さんは、いい子だ」

 その言葉は、敬語じゃなかった。
 きっと、それは火田さんの素の言葉なんだ。

「むずかしい、です」
「いつかきっと分かりますよ」

 そう言うと火田さんは、またわたしの大好きな声で、大好きな顔で笑った。

「今度、僕の娘と一緒に遊びに行きませんか?」

 火田さんが、手を差し出す。わたしはその手をとった。
 まだ遠いけれど、叶わないかもしれないけれどいつかきっと火田さんの言葉が分かるように、わたしも頑張るよ。だから、それまで少しだけ待っていて。
 2024年、火田さんが大好きな本宮より。

100312



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