郵便受けには赤い薔薇の花束。更に花束にはメッセージカードが添えられていた。
『いつも応援しています。これからも頑張ってください。 あなたのファンより』
なんじゃこりゃ。ストーカーか。あなたのファンよりってつけるなら紫の薔薇にしとけよ。色々突っ込みたい。
次の日。郵便受けには今度はローズヒップティーの缶が入っている。
『おいしいお茶です。どうぞ皆さんで召し上がってください あなたのファンより』
――警察に行った方がいいんじゃないか、これは。背中に悪寒を感じる。
「二日連続でこんな……ひゃあ!」
「ごっ、ごきげんよう、かっ、可憐なお嬢さん」
ぶつぶつ独り言を言っていると、いきなりロードナイトモンが出てきて、話しかけてきた。
「え、ご、ごきげんよう……」
「きょっ今日は、いい日和、ですなあ」
「そうです、ね」
なんなんだ、この人。さっきからどもりまくりだし。
ロードナイトモンはひとつ咳払いをし、
「結婚してください」
と言った。何言ってるんだ!身の危険を感じた私は、全速力で駆け抜けた。途中で電柱にデュナスモンがいて超怖かった。
*
俺はまださんの住所と誕生日、血液型、趣味、平均の就寝時間と家族構成、通っている学校とクラス、くらいしか知らない。もっと彼女のことを知りたいと思った俺はデュナスモンに相談してみるがあまり良い答えは見つからなかった。
俺は自分のことをあまりよく思っていない。正直ナルシストの気持ちが理解できない。それでも美しいものを愛でる趣味はある。薔薇、さん。さんと恋愛映画を見に行きたい。
そうぐるぐる悩みつつ街を歩いていると、さんが買い物袋を背負っているのが見えたので、追いかける。
「お、お嬢さん、よろしけれ、ば、鞄、お持ちしますよ」
「え」
俺がそういうとさんは大きく眼を見開き、フリーズした。何か異常が発生したのか……?
「わ、私急いでるんで!」
「だったら尚更」
しかし、さんは素早く去っていってしまった。
ざ、残念だ。
もしかして、俺のこのピンク色が嫌なのか? いやしかしピンクという色は基本的に女性に好まれる色であるし俺自身も外見だけで女性と間違われたこともあるし現に海外のロードナイトモンの種族は女性が多いらしいし……。
何度考えても、気弱な俺に分かることではなかった。
さんの家の近くの電柱に身を潜めた。
アプローチするのがだめなら、せめて見守らせていただこう。俺はそう思ったのだ。
さんが家から出て、電柱の前を通り過ぎようとしている。
「な、何してるんですか」
怪訝そうなまなざしで、さんは俺に声を掛けた。
そ、そんな嬉しいことがあっていいのか……?
俺は若干興奮しつつ、さんに近づいた。
「俺はあなたのことが知りたいのです」
「え。じゃあ、せめて友達から、で」
ぎこちなく笑いながらさんが手を差し伸べてくれた。ああ、やはりさんは思ったとおりの素晴らしい女性だ。
俺は力いっぱいその手を握り返した。さんがいたいいたい! とか叫んでいた。
その楽しそうな笑顔を見て、やはり俺は彼女と結婚しようと思った。そう、君と出逢えたのは運命だったのだ!
090828