パートナーデジモンを持つ人間は、年々増え続けている。今の増加していくペースを考えると、あと約二十年後には全人類にパートナーデジモンが現れるそうだった。とは言っても、幼なじみの一人である氷見友樹くんは例外で、彼と、彼の仲間は自らがデジモンに進化する。
対して、もう一人の幼なじみ、自身はデジモンとの関わりをもたなかった。本人はパートナーがいたらいいのに、と口にしているけれど僕は正直、不安な気持ちがあった。パートナーを持つということは、それだけデジモンとの関わりが増える。戦う力を持つということは、それだけ危険に晒されやすくなるのだ。
「ほんとに、こないだヌメモン襲われた時は大変だったんだよ」
「そうだね。でも、さんが無事で何よりです」
僕の前にいる子の机と椅子を勝手に借りて、さんはそんな話をする。夕暮れの教室は、僕と彼女しかいない。
……それにしてもヌメモンに襲われたなんて。何も投げられたものがぶつからなくて良かった、と、そんな心配もしてしまう。
「でもさ、あの! チームフロンティアの人がね、現れたの!」
まさかその現れた人、が幼なじみの一人だなんて思いもせず、さんは笑っている。
そうだ。ある理由から、友樹くんは彼女に自分が進化できるということを隠していた。
だから、小学校三年のあの頃からずっと彼女は何も知らないまま、友樹くんも何も語らないまま。僕はそれを少し寂しく思っていた。
「それは、珍しい物を見たね。関心します」
「でしょ、えへへぇ」
嬉しそうに語るさんに対して、僕は複雑な気持ちでいた。
ーーかつて、デジモンを求めるあまりに、道を踏み外してしまった人がいた。
彼は大人でありながら、子どものように純粋に夢を見続けていた。
夢を見ることと、道を違えてしまうことの危うさ。僕はそういった心を抱える人々の支えになりたくて、一つの夢を追いかけている。
「そういえばさー、アルマジモンとかテントモンとかって、地方出身なのかな?」
「彼らは違うけれど、生まれながらにして方言をしゃべるデジモンは多いらしいですよ」
ふうん、と興味があるのだかないのだか分からない様子で、さんは相槌を打つ。それから、じっと僕を見つめた。
「……時々さ、伊織くんが別世界にいる人みたいに思えてくるの」
彼女のその瞳が、かつての戦いを思い出させる。
僕がまだ9歳だった頃。冬の空。暗黒の種。選ばれなかった、と思い込んでいた子どもたち。
さんの感じている寂しさは、きっとあの頃の彼らと同じ種のものだ。
「ねえ、さん」
僕は優しく語りかける。少しの沈黙からさんは「うん、」とつぶやいた。
「考えてみて。僕たちは同じマンションで育って、幼稚園からずっと一緒だったんですよ」
「そう、だね」
「こんなに一緒にいるのに、不安になる必要なんかないでしょう」
「伊織くんにはアルマジモンとか、タケルさんとかもいるのに……?」
……しかしながら、僕の想い人は意外と疑り深いようだった。
僕の想いにも気づかず、彼女は頭に疑問符を浮かべている。
「もちろん、その二人のことも大切だけれど、僕の心にはずっとさんがいたんだよ」
「そ、そーなの? 大げさじゃない?」
「いえ。だから、これからも僕は君の側にいますよ」
手を伸ばしてさんの頭を撫でると、彼女は珍しく顔を真っ赤にさせていた。
「い、伊織くんってば恥ずかしい」
「あなたが勝手に照れているだけでしょう?」
なんて、そんなことを言いながらも僕は少しだけどきどきしていた。
ーーいつかは彼女の元にもパートナーデジモンが訪れるときが来る。今、彼女の感じている不安なんてきっと一時のものだ。
けれど、それまでは、僕は、君のことを守るから。だから、安心して笑っていて。
ただ一人君だけを
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