寂しいとか、逢いたいとか。そういうことを言いすぎると、重い女になってしまう。だから、私は彼には何も言わなかった。笑顔で、見送った。

「……で、あたしに話に来たわけね」
「あ、ごめんね。愚痴っちゃって」
「別にいいわよ、そのくらい」

 泉ちゃんは微笑する。泉ちゃんにありがとうと言って、私はため息を付いた。私の杞憂の原因は、彼氏とその兄弟にある。

「家族が大事、ってのは分かるけど、二人で行っちゃうなんて」
「あの二人って、もうブラコンの域に達してるものね、仕方ないんじゃない?」
「分かっちゃいるけど悔しい……! 彼氏取られた気分」
「……寂しいとか、少しくらい言ってもいいんじゃない?」
「うーん……」

 そうは言っても簡単には割り切れない。私の彼氏には双子の兄弟がいて、仲がとてもよろしい。親が離婚して一緒に住んでいないからなのか、普通の兄弟の仲の良さの何倍も、彼らは親しげだった。そして、今日もその仲良しっぷりが発揮されていたのだった。
 今日は、九月十八日。彼と、その兄弟の誕生日。そんな彼らは、二人で大学の夏休みを利用して旅行に出かけている。

「せっかく、プレゼントも用意したし、当然デートするつもりだったし、ケーキだって作るつもりだったのに」

 去年は、私と一緒に過ごしてくれた。だからこそ、去年とのギャップがもどかしい。
 泉ちゃんは、あの兄弟だからねえ、と言ってから、ストローに口を付けた。

「それでも、さあ。一昨日急に言ってきたんだよ、今年は兄弟で旅行って」
「急に? あー、確かにそれはもっと早く言ってほしいかも」

 今日も誕生日おめでとうから始まって、短いメッセージのやり取りはしていたけらど、だんだん途切れてしまった。最後に私が送ったメッセージには、既読のサインが付かないままだ。今頃、二人で旅行エンジョイしてるんだろう。

「既読付いてないし」

 私がため息をついて携帯を見ていると、携帯が揺れた。彼からの電話だった。

「わ、電話きた」
「よかったじゃない」

 泉ちゃんが笑う。私は急いで、通話ボタンを押して耳に携帯をあてがう。

「もしもし?」
「ああ、彼氏じゃなくて、俺」

 電話に出ると、聞こえてきたのは片割れくんだった。後ろで彼氏の声が聞こえる。旅先で、一息ついた頃なんだろうか。

「ごめん、やっぱり謝っておこうと思って」
「な、何が?」
「俺がから彼氏取ったから。寂しいだろ」
「えっ、あ、まあ、うん」
「あいつのことが、大好きだからさ」

 代わるよ、と言って片割れくんは携帯を離して、物音が聞こえた。それから少しして、私の想い人が聞こえてきた。

「もしもし、。今ホテルチェックインしてきたよ」
「そうなんだ、お疲れ」
「お前は今日の為に準備してくれたよな。ごめん」
「い、いや、別に気にしてないけど……」

 気にしてない、なんて早速嘘をついてしまった。本当は、泉ちゃんにわざわざ愚痴を聞いてもらっていたのに。

「本当?」
「……いや、まあ、もっと早くに言ってほしかったとか、ちょっと思ったよ」
「あー……そうだよな、ごめん」

 彼が謝ると、その声の後ろで家族も大切だけど、あいつのことも大切だって惚気てた、そんな声が聞こえた。彼は少し照れたように片割れくんを諌める。

「ふふっ。ありがとう」

 気付いたら、私は笑っていた。私は身勝手にも片割れくんに嫉妬なんかしていたのに、その人は私のことも気にかけてくれている。
 彼も家族が大切なんて、分かりきったことだったのに、自分はなんて勝手な愚痴を言ってしまっていたんだろう。

「と、とにかくさ。次のの誕生日には、二人だけで旅行しよう」

 彼の声が、やさしく響く。その言葉が嬉しくて、私はありがとうと、愛してるを告げた。
 すぐ嫉妬したり喜んだりする単純な自分が、悔しいけれど。嫉妬しつつも、私にとっては二人とも大切な人だ。だから、帰って来たときには、精一杯お祝いしよう。

「二人とも、二十二歳おめでとう」

 片割れくんと、そして誰よりも大切なあなたへ。




130923
やっとまともなお祝いできた(^o^)(その割に双子の登場は電話だけ)
あえて彼氏がどちらなのかはぼかしました。輝一くんか輝二くんかはご想像にお任せします。

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