勝者の歴史
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終わらない死闘! ルーチェモン復活の序曲
 わたしたちは、何故か戻らない世界の手がかりを探す。
 何となく、手は繋がれたままで、輝二くんも、わたしも何も言わなかった。今の状況下では不謹慎なのかもしれないけれど、輝二くんの体温が好きだと思った。彼と出逢えて良かった、と素直に思う。
 そうして歩いていると、突然に地響きがした。音の方を見ると先ほどまであった山が消えてしまっていた。
 はっ、とわたしと輝二くんは顔を見合わせ、拓也くんたちの元へ駆ける。他に離れた場所にいたボコモンやネーモン、パタモンも同様に駆けてきた。


「うわあっ、」


 全員が集まると同時に、立っているのが困難になるほどの強い風が突き抜ける。どうして――!
 データがスキャンされたんだ! と輝二くんが叫んだ。

「ケルビモンが、まだ生きてる!?」
「そんなハズはない!」


 どうしてこんなことが起きてしまうんだろう――なんて考えられないほどの強風だった。わたしは、立っているのも困難になっていた。わたしは無意識に輝二くんの服の袖をつかんでいた。


「……行ってみよう!」


 拓也くんの一声で、わたしたち全員は消えた山の方へ向かいはじめた。ゆっくり大地を踏みしめるように歩いていると、いつしか風は弱まった。
 歩き続けた先には、遺跡のようなものがあった。わたしたちが更にそこに進もうとしたとき、目の前を赤い球体が横切る。ぶわ、とまた風が吹いた。助かったのは、さっきのあれよりは弱い風だったことだ。
 拓也くんが誰だ! と謎の球体を放った方に、叫んだ。


「我はバロモン。これ以上先へは行かせない!」

 すると、崖の上にはデジモンがいた。

「山をスキャンしたのはお前か!?」

 わたしたちは、皆デジヴァイスを構える。手にコードを出現させて、進化しようとしたのと同じタイミングで、バロモンが何か唱え始めた。けれど、わたしたちは全員で人型に進化する。


「スピリット・エボリューション!」


 辺りにはバロモンの技で出された赤い隕石が、数多くある。シキモンたちは颯爽とそれを避けていき、バロモンに向かった。あと少しで崖に辿りつく――というときに、バロモンの大声が響き渡る。


「やめるのだ! 伝説の闘士の意志を受け継ぐ者たちよ!」
「ッ!」

 シキモンたちは、はっとして動きを止める。どうして、わたしたちが闘士であると分かったんだろう――。


「俺はお前たちと戦う気などない! ――予言する! 恐ろしきルーチェモンの復活を!」


 バロモンは、額に手を当てる。すると、額の中央の刻印が光りだした。
 そして、ルーチェモンというデジモンのことを語り始めようとした。その瞬間どくん、と強く心臓が波打った。虫食い状態のデジタルワールドの核に、人型みたいなデジモンが身体を抱えてうずくまっているのが見えた。――あれが、ルーチェモンなんだ。
 そのヴィジョンが見えたかと思えば、全員、一斉に進化が解けてしまった。息切れをして、膝を付いた。


「拓也はん」
「みんな〜!」

 ボコモンたちが駆け寄ってくる。


「ルーチェモンが復活するって!?」
「ルーチェモン……って、ずっと前に封印されたはずなのに!」


 わたしも、バロモンさんに向かって叫んだ。
 前に聞いた話では、ルーチェモンは人型デジモンと獣型デジモンの戦いを止めた後に、自分が世界を支配するようになったデジモンだ。そして、それを封印したのが、伝説の十闘士と世の闘士だったはずだ。


「教えよう……。今デジタルワールドに起きようとしている真実を!」

 その時、目の前に広がっていた遺跡に赤い亀裂が走って、崩壊する。


「かつて我々が護ってきた聖なる山……。今はすべてが失われてしまった。聞くがよい、このデジタルワールドのすべてを」


 今のデジタルワールドは、さっき見えたヴィジョンのように虫食いのまま。せっかく世界が救えたと思ったのに、まだまだそういうわけにはいかないなんて。
 バロモンさんは、それからわたしたちを案内して扉を開けた。そこにはずっと長い階段が続いていて、薄暗いけれど不思議と怖くはなかった。


「ここは、デジタルワールドの歴史のトンネル」
「歴史のトンネル……?」
「そう、ここにはデジタルワールドの歴史のすべてが記録されている」


 少し奥に進むと、わたしたちが乗っていた物体がエレベーターみたいに動き出す。それはどんどん下へ向かっていく。辺りの空間には、スピリットのマークが浮かんでいる。


「そもそも、このデジタルワールドは十のスピリットにちなむ、十のデータで出来ている」
「あ……、色や、世は含まれてませんよね、確か」
「ああ。世は、スピリットのすべてを合わせたもの。色は、光と闇の先にあるものだ」


 バロモンさんは頷いてそう言った。
 以前、ボコモンにはデジタルワールドを構成するものについて聞いたことがあった。
 色も世も、それには含まれていないそうだ。だから、他のスピリットとはまた役割が異なるものなんだろう。


 それから、ある地点まで降下すると目の前の光景が変わった。十闘士と世の闘士、そしてルーチェモンのシルエットが見えた。彼らは戦いの後に、ルーチェモンをダークエリアへと封印したのだとバロモンさんは語る。
 映像が終わると、また降下してさっきのトンネルに戻った。

「誰だって知っとるわい」
「黙って聞け、あれを見ろ」

 わたしたちが見た方には、十闘士がいた。世の闘士らしきデジモンは、そこには見当たらなかった。

「その後十闘士は、十組のスピリットを解放した。そして、世の闘士はルーチェモンを封印した後に世と色の一組のスピリットを残した」

 そして、後に三大天使にスピリットを託した。
 ケルビモンに六つ、オファニモンに二つ、セラフィモンに四つ――。色の獣型はケルビモン。人型はセラフィモン。

「ただ、世のスピリットだけは世の闘士は誰にも託さなかった」
「えっ、じゃあ、どうして望ちゃんはヤタガラモンに!?」

 てっきり、オファニモン様かセラフィモン様が世のスピリットを持っていたのだと思っていた。けれど、そうではないらしかった。

「世のスピリットは、世の闘士がじかにスピリットに適合する者に与えようと考えていた。おそらく、彼女を見定めて授けたのだろう」
「それって、世の闘士が生きてるってことか!?」
「……どこか世界に眠っているという言い伝えがあるが――、今となっては忘れ去られた神だ」

 アメノミモン。デュークモンさんが語ってくれた、エレキモンさんたちの集落でかつて祀られていた世の闘士。その人が、直接望ちゃんにスピリットを授けたなんて――。信じられなかった。


「それからデジタルワールドに、しばらくの間平和が訪れた。しかし……、ルーチェモンは狙っていたのだ、いつの日か再び蘇ろうと……!」


 そして、それが今実現されようとしている。何としてでも阻止しなければいけない。
 ルーチェモンの映像が表示される。どう見ても、善の天使デジモンのようにしか見えない。


「やがて、その時はきた! ……三大天使デジモンのひとり、ケルビモンに悪のデータを吹きこみはじめたのだ」

 善のケルビモン様が苦しむ。もがく。わたしは心が痛くなった。
 そして、ケルビモン様にデジタルワールド中のデータを集めさせた。その結果、デジタルワールドは今のように虫食い状態になり、そして、ルーチェモンはケルビモン様の死によって、数多くのデータを手に入れた。


「なら、ケルビモンは何も知らずに、」
「ルーチェモンに利用されていただけだったのか!?」


 輝一くんと輝二くんが、わたしたちの気持ちを代弁して言った。バロモンさんは頷いた。
 ふいに、善のケルビモン様の姿がよみがえる。彼は沢山の罪を犯してしまった。けれど、彼ですらも被害者の一人でしかなかった。
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