走り続けた世界
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感じろデジモンの力! 拓也渾身の作戦
 アグニモン――拓也くんは、ダスクモンの闇に呑まれて消えてしまった。彼の目の前にいたわたしが、呼び止めれば拓也くんはここにいたんだろうか。考えても仕方のないことだったけれど、わたしはあの時、何も出来なかった。
 拓也くんは消えたまま。そして輝二くんは倒れている。わたしは、どうすればいいの。
 あれからしばらく、わたしたちは抉れた大地で気を失っていた。わたしが一番最初に目覚めて、次々に皆も意識を取り戻した。けれど、輝二くんだけは気を失ったままだった。それから、純平さんが輝二くんを木陰まで運んでくれた。これからのことを話し合おうにも、拓也くんもいなくて輝二くんもこんな状況だったから、わたしたちは何も出来ずにいた。

 ハンドタオルを河川ですくってきた水で湿らせて、彼の顔を拭う。何でもいいから輝二くんのためにしてあげたくて、わたしはずっと意識を失った輝二くんの傍に居続けた。他の皆も気を遣ってくれたから、木陰にはわたしと輝二くんしかいなかった。皆は、今は薪を探している。
 輝二くんが傷ついて、とっても悲しかった。――いつから輝二くんがこんなに大きな存在になったんだろう。
 不思議だな、と思った。この世界に来る前は、人と関わることなんて、好きじゃなかったのに。


「輝二くん……」

 目を覚まして。はやく元気な姿を見せて。わたしも、ダスクモンが怖くても頑張るから。

「……、想? なんで……涙目、なんだ……」
「こ、こーじくん……!!」


 彼の顔を見つめ続けていると、輝二くんの瞳が開いた。よかった。
 それにしてもいけない、涙目になってたのか。わたしは慌てて涙を拭って、笑ってみせた。泣いちゃだめだ。だけれど、今度は目を覚ましてくれたのが嬉しすぎて、また泣きそうになる。


「よかった……! 目、覚ましてくれたんだね! あ、お水飲む?」
「ありがとう。……お前も平気か」
「わ、わたしの心配はしなくて平気だよ!?」


 輝二くんがゆっくりと身を起こす。身体を支えようと手を伸ばすけれど、それは叶わなかった。輝二くんが、わたしの手首をつかむ。


「他の皆は……拓也は、どうした」
「……拓也くんは、目の前で消えちゃった。他の皆は、薪を探してる」


 消えてしまった、と言うと、輝二くんの表情が険しいものに変わる。眉間にシワを寄せて、何やら考え込む。
 本当に、皆どうしたらいいのか分からなくなってしまっていた。残ったメンバーで戦おうにも、力の差が歴然としていたから何も出来なかった。


「……拓也を探してから、また作戦を練り直そう」
「そうだね。でも、輝二くんはもっと身体を休めてから、だよ」
「……お前に体調の心配されるなんて、思わなかったな」


 た、確かに。そう言われてしまうと、何だか情けないのだけれど事実だった。輝二くんがわたしの体調を案ずることはあっても、逆なんてはじめてだ。
 そういえば、前に気を失ったわたしの傍に、輝二くんがいた。それも、二回も。今は、その逆パターンなんだ。そう考えるととっても不思議だった。
 輝二くんはふ、と笑った。――ああ、輝二くんの笑顔だ。わたしも釣られて、自然と顔がほころんだ。


「はやく、良くなってね」
「ああ。……想、ありがとう」


 輝二くんの手が、わたしの手首から手のひらへ移動する。指を絡めて、輝二くんが口角を緩ませながらわたしを見つめている。――手のひらから、輝二くんの温もりが伝わる。無意識にやっているのか、わざとなのか。分からない、けれどとても恥ずかしくなった。


「こ、こーじくん。あの、手、が」
「あ、あぁ、悪い……」
「……そうだ、わたし、お水取ってくるね!?」


 わたしは桶を持って走った。――ものすごく、恥ずかしかった。


*


 森に入って、河川に向かう。そういえば、泉ちゃんたち帰りが遅いなあ。そろそろ戻ってきてもいいころだけど。



「はあ……」


 何となく空を仰いだ。どんよりとした空は、天候が分かりにくい。――けれど、雨の匂いがする?
 もし雨が降るなら早く水を汲んで戻らなくちゃ。そう思い、前に向き直ろうとしたけれど、わたしは空から目を離すことができなかった。


「……ヤタガラモン」


 見間違いではなかった。ヤタガラモンが、以前アキバマーケットで見たときと同じように空を飛んでいた。色あせたこの大陸でも、はっきりと分かるくらい金色の八咫烏の姿だけは輝いていた。
 前に、エレキモンの集落に迷い込んだときに、谷底へ落ちたわたしたちを助けたのはヤタガラモンだと聞いた。闇の大陸へ向かうトレイルモンで、拓也くんが教えてくれたことだった。それと、森の中で出会った女の子のことも。
 もしかしたら、その子が世のスピリットを持った子なのかもしれない。だけれど、何故理由もなくわたしたちを助けたのか。やはりそのことが気になってしまう。
 ――輝二くん、ごめんね。でも跡を追わなきゃ。どうしてわたしたちを助けたのか。味方なのか、敵なのか。聞きたいことがいくつもある。


「スピリット・エボリューション! シキモン!」


 木々を飛び越え駆け上がり、シキモンはヤタガラモンの姿を追った。


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