触れられない光
その後、晩ご飯を食べても、おいしいと思うことができなかった。舌が麻痺しているかのようだった。[3/3] わたしは膝を抱えて、焚き火の暖かさを感じていた。空気に煽られて動くそれを眺めていると、拓也くんと友樹くんがこれからの作戦についてを話し始めた。 「一斉攻撃? それがすごい作戦?」 「さっきのとどう違うの」 「オレ様の考えた作戦は、さっきのとは違うんだなー?」 一斉攻撃が、拓也くんが考えた案だった。拓也くんも友樹くんも。ニコニコして話している。 友樹くんが助手となり、お人形を用意して机に広げた。それは、ご丁寧にどんぐりと葉っぱで作ったお人形。ちゃんと全員分あって、シキモンもかわいくなっていた。 「友樹くん、器用だね!」 「えへへー」 「で、オレがアグニモンになって、想以外のみんなはビースト進化!」 「……スピリット、奪えないままでごめんなさい」 「気にすんなよ! 想はシキモンになって、ガルムモンとシューツモンと一緒に後方に回ってくれ!」 それからも、また拓也くんは話を続けた。どうやら、アグニモンが合図した瞬間にビースト闘士の皆とわたしで、一斉に技を放つ――ということらしい。 話だけ聞いていたらいいかもしれない。けれど、本当にうまくいくんだろうか。 「ダスクモンの動きを止めるって、言ってたけど」 「お前、さっきダスクモンにやられてたじゃんか!」 「……さっきは油断してたんだよ!!」 ――もう一度“油断”したら、大変なことになってしまうんじゃないか。 わたしがそう思ったのとほぼ同じタイミングで、輝二くんが「俺は反対だ」と反論の意を示す。いつも冷静な輝二くんだから、そう言うのも納得できるような気がした。 「ダスクモンは今までの相手とは違う」 「だから逃げろってか?」 「そうだ」 「逃げ切れる保証はどこにもないんだよ!」 わたしは、二人の顔を見比べた。二人の意見は全くの正反対だ。 「……話がある」 二人は睨み合ったかと思うと、輝二くんは拓也くんと建物の中に入っていった。 大きな問題になりませんように。仲間割れしませんように。そう祈って、わたしは二人の消えていく背中を見つめていた。 ダスクモンが現れたのは、二人がいなくなってすぐのことだった。ダスクモンの剣の衝撃波で地面はえぐれてしまっている。 皆はビースト進化を、わたしはシキモンになって、臨戦態勢になった。――こんなに来るのが早いなんて。 えぐれた地面の何十メートルも先にダスクモンがいた。あかい瞳。こわい、けれど皆が頑張っているのにわたしだけ何もできないのは嫌――! 「待たせたな!」 わたしたちが進化してから数分もしないうちに、話し合っていた二人が現れた。 さっきの作戦どおりに、二人は人型と獣型に別れて進化した。 「後は頼んだぜ!!」 「待てッ!」 「……こうなったら、やるしかないでしょ」 結局、さっきの作戦を実行するのか。ガルムモンは不満そうだったけど、ボルグモンとブリザーモンはこの作戦にかけようと言っていた。 「今更引き下がれぬ故、私もこの作戦を信じるでござる」 勿論不安は大きい、けれど、ここまできて他に良い作戦があるわけでもなく。となると、やっぱりこの作戦にかけてみようと思った。 アグニモンがダスクモンめがけて走る。必殺技も得意技も避けられてしまった。けれど、技の炎こそ当たらなかったものの、アグニモンの蹴りは確実にダスクモンの顔に届いた。 「当たった!」 「……あれ?」 でも、顔面を蹴られてもダスクモンは涼しい顔をしていた。 「それで終わりか」 「……ウオオオオッ!」 アグニモンはダスクモンを、何度も何度も打つ。けれど、ダスクモンにはその技どれもが一切通用していなかった。 今まで倒してきた相手の比じゃないくらい、ダスクモンは強い。 このままじゃらちがあかない、と思った時、アグニモンがダスクモンを羽交い絞めにした。 「今だ!!」 その言葉に、五闘士は走ってダスクモンを取り囲んだ。 「これが、本当の終わりだぜ。……お前の、な!」 シューツモンが先達となり、その次にガルムモン、シキモンが続く。それからボルグモン、最後にブリザーモンが必殺技を放った。 技がダスクモンに向かったのを確認し、アグニモンはダスクモンから飛び引いた。五闘士の力が向けられた核には、すべての必殺技の色が交じり合った光彩が煌めいていた。 やったか――と思ったけれど、ダスクモンは少しも苦しそうなそぶりを見せることなくそこにいた。 「技を吸収しとる!?」 「そんな……バカな!」 「まずは、お前からだ」 絶望したダスクモンが歩み寄る。アグニモンは、逃げることができなかった。 あかい刃が降りかかろうとしている。シキモンが加勢しようにも、これでは間に合わない――! 「死ねッ!」 シューツモンたちがアグニモンの声を叫ぶ。けれど、痛みがアグニモンに降りかかることはなかった。 ダスクモンの刃を、アグニモンでないデジモンが受け止めたからだった。アグニモンのまえには、ガルムモンが、いた。 「輝二!!」 デジコードに包まれて人間に戻った彼の名を、アグニモンが呼ぶ。何度も、何度も。 嫌だ、嘘だよ、どうして、輝二くんが、傷ついてしまっているの。 ダスクモンが急激に動揺しはじめたことなんて、どうでもよかった。ただ、わたしは輝二くんのことだけが心配だった。 「輝二!」 シキモンの姿のまま、気を失った輝二くんのもとへ走った。いくら彼を揺すっても、彼の目は開かない。 戦い抜かないと死ぬかもしれない。そう言ったのは輝二くんだ。呼吸する音は聞こえる。だから、生きている。けれど、彼は目を覚まさない。ねえ輝二くん、わたし、優しいあなたにまだ何もできてないよ。 シキモンの瞳から涙が溢れたのと同時に、闇がひろがる。これはわたしの心の闇なのかと思ったけれど、違った。ダスクモンのおそろしい、深いふかい闇がひろがっていく。闇に呑まれていく。目の前のアグニモンが消えゆくのを見ながら、シキモンのわたしは輝二くんの手を握っていた――。 121217 NOVEL TOP ×
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