触れられない光
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 進化を解いた皆と、闇の大陸を歩く。不安でいっぱいだったわたしは、俯いて泉ちゃんの横を歩いていた。
 皆、言葉数は少なかった。ただひとり、拓也くんだけが文句を言いながら列の後方を歩いていた。


「あと一歩で奴を倒せたのによーっ」
「……」


 拓也くんの言葉に反応する人は、誰もいなかった。わたしは一度、振り返って拓也くんを見たけど、結局何も言うことができずに閉口してしまう。拓也くんは機嫌が悪そうに、ふん、と悪態を付いた。


「あいつ、本当にまだ生きてるのかな?」
「間違いない。あいつの戦い方を、見ていただろう」
「まーいいよ、今度会ったときには、あの目玉野郎ぶっ潰してやる」


 純平さんと輝二くんの会話に、拓也くんが加わる。みんなで力を合わせれば――と拓也くんは言っていたけど、やはりその言葉に反応する人は、だれもいない。
 拓也くんのその前向きな考えはすごくて、いつも感心してしまう。けれど、そう簡単に割り切れる話じゃないのも事実だ。わたしはもう一回、拓也くんを見た。すると、拓也くんと目が合う。


「どうしたんだよ、想」
「……何も、ないよ。が、がんばろう!」


 拳を振り上げたけれど、我ながらこの手は弱々しかった。


「想……。大丈夫だよ、なんとかなるぜ!」


 見るからに元気のないわたしを、拓也くんが励ます。――わたしは、ダスクモンのあの紅が、忘れられなかったのだった。
 輝二くんの案で、安全な場所を探すことになった。けれど安全な場所、と言ってもここは闇の力が支配する大陸。ほんとうに安全だとは言いがたい。輝二くんの話を効いていた友樹くんが、足を止める。


「……本当に、安全な場所なんてあるのかな」


 わたしも思っていたことを、友樹くんが口にする。
 どこに行っても、そのうち悪の闘士に見つかってしまう。そうしたらまたボロボロになるまで戦う。ダスクモンは他の悪の闘士とは比べ物にならないくらい強かった。友樹くんの感じている不安が痛いほどに分かる。


「おい輝二、お前が変なこと言うからだぞ! 大体さっきの戦いだって――」
「何が言いたいんだ」
「弱気すぎんだよ、たまには攻める気持ちも必要なんじゃないのか!」
「お前は、何も感じなかったのか。ダスクモンと戦ったとき、お前は何も感じなかったのかと聞いているんだ!」


 ダスクモンの瞳に見つめられただけで、わたしの進化は解けてしまった。こわい、あの人がこわい。
 このままでは、拓也くんと輝二くんの口論が更に激しくなってしまう。――仲間割れも嫌だよ。
 拓也くんが輝二くんに反論しようとしたとき、ボコモンがぽんと手を打った。


「そうじゃ、メシにしよう! 腹が減ってるから、怒りっぽくなっとるんじゃ!」
「何だよ、人がしゃべろうとしてるのに……!」
「あ、拓也くん、わたしお腹すいたっ!」


 ボコモンに賛同して、実際は食欲なんかまるでなかったけれどお腹をさすって笑った。他の皆もそれに続いて、食事のために食料を集めることになった。拓也くんは相変わらず、不満そうだった。



*
  わたしは、ボコモンネーモン、そして輝二くんと水汲みをすることになった。桶に入った水がとても重く感じるのは、わたしの無力さの現れのような気がした。
 輝二くんは何も言わずに、じっと考え込んでいる。きっと輝二くんのことだから今後どうするかを考えてくれているんだろう。これからもわたしたちは戦う。だけど。わたしはどうしてもダスクモンが怖い。自分の情けなさに苛立って、手に持った桶に力を込めた。




「輝二、くん」




 桶を置いて、考えごとをしていた輝二くんの隣に並ぶ。思考の邪魔をするのは忍びなかったけれど、まともに二人だけで話をするのなんて、久々のことだった。輝二くんは「何だ」と言って、わたしを見る。




「……これから、きっと戦いが大変になるね」
「そうだな。想はもう平気なのか? ダスクモンが現れたとき、怯えていた」


 いきなり核心を突かれて、息がつまりそうになる。


「なんだろう。……闇の大陸に入ったときから、ずっと景色や空気が不気味で怖かった。ダスクモンを見たら、怖くて急に力が全部抜けちゃった。戦わなくちゃいけないのに、だめだね」
「だが、これからは今までとは違う」
「もちろん、それは分かって――」
「戦い抜かないと、死ぬかもしれない。……想、そのことを覚悟してくれ」



 輝二くんがわたしの肩をつかむ。輝二くんの瞳がわたしを見つめる。当たり前のことながら、輝二くんは真剣だった。
 死。闇の大陸に上陸して、ダスクモンと戦ってから急に現実味を帯びた“死”。いくら苦しくても何とかなっていた今までとは、違うんだ。


「もし、戦えないのなら俺が守る。だから、お前は危険なことはしないでくれ」
「……輝二くん」



 輝二くんが心配してくれているのは分かる。けれど、それはわたしが役立たずだとも言われているようで。わたしは、俯いて「わかった」と言うことしか出来なかった。

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