彼の刃がわたしの闇に
ハクジャモンは、悪の闘士たちが集うアジトにいた。いびつな形の壁の隙間から、太陽の光が差し込んでいる。悪の闘士のアジトにいては不釣り合いなほどの、良い天気だった。[1/3] 闇にひそむ謎の闘士 ダスクモン! アジトの中を歩いていると、メルキューレモンとアルボルモンが話している姿が見えた。会話の内容は聞き取れなかったが、ハクジャモンは知っていた。――メルキューレモンが何か恐ろしいことを企てていることを。 呼び出しが掛かり、ハクジャモンは他の闘士たちとともにケルビモンの現れる間へ向かった。スクリーンのようなものに、ケルビモンの影が浮かび上がる。 『我が忠実なる部下たちよ、皆揃っているな』 「いえ、ダスクモンが……」 闇の闘士、ダスクモン。ハクジャモンも出席率は悪かったが、ダスクモンは殆ど来ない、と言ってもいいくらいだった。ラーナモン、アルボルモンはそのことに対して文句を言う。 ケルビモンは、グロットモンが人間の子供たちに倒されたということまで知っていた。伝えたわけでもないのに既に情報を得ていたことに対し、ハクジャモンは僅かに畏怖した。 「ケルビモン様、これまでに集めたすべてのデータでございます」 メルキューレモンが鏡からデジコードを差し出し、それがケルビモンに吸収されていく。 『しかしメルキューレモン、セラフィモンのデータがないようだが』 それを尋ねられたメルキューレモンは動揺しながらも答える。ハクジャモンは彼のその様子を苦々しく思った。今ここで彼を倒せたら、どれだけ良いだろうか。しかし彼を倒したが最後、今度は自分の身が危ない。 『人間の子供たちが、ビーストスピリットを得て力を増してきている――』 「所詮は人間、私たち真のデジモンに叶うはずありませんわ!」 ラーナモンの言葉に、ハクジャモンは僅かに眉を引きつらせたがすぐに表情を戻した。 『ハクジャモン、どうかしたのか』 「……いえ、何でもありません。ところで、私に闇の大陸へ向かう許可を頂けませんか」 ケルビモンには服従しなければならない。それが結局、アルボルモンと共に闇の大陸へ向かうことになった。 『お前には期待しているぞ、ハクジャモン』 ケルビモンが、冷たい声で言う。ハクジャモンは、彼に逆らうことができなかった。 ――想、私はあなたを守りたいだけなのにどうして上手くいかないのかしら。 * トレイルモンに乗って、海を渡る。水面には光がきらきら反射していてきれいだ。 「見えてきた、新しい大陸だ!」 拓也くんの言葉で、わたしたちは窓からトレイルモンの進行方向の景色を見る。けれど、その大陸は夜のように真っ暗だった。ハクジャモンが言っていた闇の大陸は、これのことなんだろうか。 「ねえ、ボコモン。あの大陸はどんなところなの?」 「ふむう、うわあっ、と! うわああっ」 「闇の大陸、かもっ!? わっ」 わたしとボコモンの声が重なった瞬間、車内が激しく揺れた。トレイルモンはここが終点だと主張した。けれど線路は先に続いている。 「ここ、駅じゃないわよ!」 「だって、行きたくないんだもん! ボクが行きたくないって言ったら行きたくないもん!」 「わがまま言うな!!」 えええ。現実世界だったらクレームどころのさわぎじゃないよこれ。 わたしたちは、無理やり電車から線路へ放り投げ出されてしまって、地面に倒れ込む。線路のすぐ隣は海。――海じゃなくて、本当に良かった。純平さんが「まともなトレイルモンはいないのか!」と言っていて、まったくもってその通りだと思った。 「ダークゲート……」 「え?」 ボコモンの言葉に、わたしたちは振り返る。 「間違いない、これはダークゲート、闇の大陸への入り口じゃ!!」 ハクジャモンの言うとおりだったんだ。闇の大陸のなかにあるバラの明星。どうしてオファニモン様はそんなところにわたしたちを誘ったんだろう。 ボコモンは、疑問に思う私たちに対して再び語る。 「どんなところか、何がいるのか全くわからない、暗闇だらけの大陸じゃから、昔から闇の大陸と呼ばれとるんじゃい……」 「そんな……。想は闇の大陸を知っていたみたいだけど、何か分かることはある?」 「ううん。わたしも、ハクジャモンが言っていたのを聞いただけだからまったく」 泉ちゃんの問いに、首を振りながら答えた。 「闇の大陸というページが、あるにはあるじゃが……」 「真っ暗!」 開いたボコモンの本のページは真っ暗に塗りつぶされているだけで、謎だった。過去に闇の大陸を調査しに行ったデジモンはいたが、それっきり戻ってくることはなかったという。――怖い。 怯えるわたしに気づいてくれた泉ちゃんは、こっそり「大丈夫よ」と耳打ちした。 「でも、この大陸をまっすぐ行ったほうが近いぜ?」 拓也くんは、大陸のほうを見据えながら言う。確かに、そうなんだろう。回り道をしているあいだにも、またデジタルワールドが欠けていってしまうかもしれない。 「今まで色んなことがあったけど、その度に皆で力を合わせて乗り越えてきたじゃないか!」 「いざとなったら進化すればいいもんな!」 「伝説の闘士が六人もいるんだもんね!」 拓也くんの言葉にハッとしたのか、皆闇の大陸へ行く気になっていた。 わたしはそういうふうには思えなかった。どうしてだろう、闇、が怖い。それはわたしが弱いからなのか。闇は悪、悪ならばわたしには倒す力があるはずなのに、闇が怖かった。 「決まりだな! しゅっぱーつっ!」 わたしの不安をよそに、拓也くんは歩き出して、他のみんなもそれに続いた。わたしとボコモン、ネーモンはそこに立ち尽くしていた。 ネーモンは、歩き出す皆を見て走って追いかけ始める。わたしも、行くべき、なんだろう。 「想、はやく来いよ!」 「え、あっ……、」 なかなか来ないわたしを見て、拓也くんが走ってきた。わたしの腕を取り、無理やり歩き出す。 「大丈夫だろ、怖くてもオレたちがいるからさ! な、輝二!」 「何故俺に振るんだ……」 拓也くんはにかっと笑った。その笑顔を見て、かつて兄のように慕っていた人を思い出してしまって、わたしは嬉しいのに悲しい、複雑な気持ちになった。 『想ちゃん。これは、ある世界の話だよ』 お兄ちゃんみたいに思っていた。拓也くんはやっぱりあの人――綿津夕樹に似ている。拓也くんが笑いかけてくれるたびに、夕くんがわたしを呼ぶ声を思い出してしまうのだ。 「拓也くん、お兄ちゃんみたい」 「……前も、それ言ってたよな。想って、一人っ子っぽいなって思ってたけど、兄ちゃんいんのか?」 「ううん。一人っ子だよ。でも、昔優しくしてくれた年上の男の子がいたから」 頭に思い浮かぶのは、かつての時だった。 NOVEL TOP ×
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