風はわたしに囁いて
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 深いふかい、海の中を、進化が解けてしまった泉は漂う。想はどこだろう。――あの子、あんまり泳げないのに。
 そこまで考えて、自分がこの海の中で息ができることに気づく。
 漂い落ちた海底には、大きな貝が口を開けていた。その傍らには、想が倒れていた。
 貝のなかには、何か淡く光る物がある。


(あれは……ビーストスピリット?)


 泉はデジヴァイスを取り出して、ビーストスピリットを呼んだ。それはあっという間にデジヴァイスの中に吸い込まれていった。


*

「泉ちゃんも想ちゃんも……!」
「よ、よせ、無茶するな!!」


 純平が海に飛び込もうとする。落ち着いていられないのは、本当は輝二も同じだった。想が、消えてしまった。
 泉と想が消えても、ラーナモンの態度が崩れることはなかった。


「あーあ。ビーストスピリットの威力を試そうと思ったのにい、つまんない!」
「よくも二人を!」
「……あれ、渦が消えた!」


 友樹が言う。確かに、どうしてか先程まで海上にあった渦はすっかり姿を消していた。
 だけども――今となっては、そんなことよりも泉、想のことのほうが重大だった。二人は、戻ってこない。
 そんな時だった。急に、渦のあった場所から水が巻き上げられる。その瞬間、ラーナモンにそれが当たりそうになる。


「な、なんなのよ―!」
「……あれは!」


 海から戻ってきたのは、気絶した想を抱えた泉だった。


「見つけたわ、あたしのビーストスピリット! スピリット・エボリューション!」

「シューツモン!」


 風のビーストの闘士、シューツモンになった泉は、抱えていた想を輝二に託すとまたラーナモンの元へ飛んでいく。
 シューツモンは獣型の闘士とは思えぬほどにスタイルが良く、冷たい美しさがあった。


「なっ、ちょっとキレーに進化したからって、調子に乗らないでよ! 何でアイドルのアタシより目立つのよ!」
「言いたいことはそれだけ? かかってきなさい」


 シューツモンは獣型の闘士であるのに、とても冷静な性格であった。ラーナモンは何でも溶ける、という必殺技の”ジェラシーレイン”をぶつけるが、シューツモンには全く効いていなかった。


「ギルガメッシュスライザー!」



*


 ……目が覚めたら、海の匂いがして、輝二くんの真剣な顔が目に飛び込んできて。というかなんでわたしは輝二くんに抱きかかえられてるの、うう。
 波が激しく揺れていて、見上げるとラーナモンと見たことのない美人さんのデジモンが戦っていた。あれは、風のビーストの闘士?


「想! 大丈夫か!?」
「へ、へーきだよ……」


 わたしが起きたことに気づいた拓也くんが、さっそく心配してくれる。や、やっぱりお兄ちゃんみたいだった。何か拓也くんいわく海に落ちて気を失ったわたしを、泉ちゃんが助けてくれたとか、風の闘士の名前とかを教えてもらった。
 ふと、輝二くんを見れば、ばっちりと目線が合ってしまって気まずくなる。


「……」
「あ、う、ご、ごめんね。よいしょ」


 輝二くんは何も言わなくて、わたしは少し怖くなって身を起こす。……輝二くんは、また何も言わずにわたしの手を握った。


「心配……させるなよ。どうしていいか分からなくなる」
「え」


 輝二くんが呟く。輝二くんの横顔が、少し赤いように感じる。
 わたしは意味を聞き返そうとしたけれど、ラーナモンが海に落ちたから、それどころじゃなくなった。泉ちゃんがいつの間にか押してたみたいだ。


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