風はわたしに囁いて
深いふかい、海の中を、進化が解けてしまった泉は漂う。想はどこだろう。――あの子、あんまり泳げないのに。[4/6] そこまで考えて、自分がこの海の中で息ができることに気づく。 漂い落ちた海底には、大きな貝が口を開けていた。その傍らには、想が倒れていた。 貝のなかには、何か淡く光る物がある。 (あれは……ビーストスピリット?) 泉はデジヴァイスを取り出して、ビーストスピリットを呼んだ。それはあっという間にデジヴァイスの中に吸い込まれていった。 * 「泉ちゃんも想ちゃんも……!」 「よ、よせ、無茶するな!!」 純平が海に飛び込もうとする。落ち着いていられないのは、本当は輝二も同じだった。想が、消えてしまった。 泉と想が消えても、ラーナモンの態度が崩れることはなかった。 「あーあ。ビーストスピリットの威力を試そうと思ったのにい、つまんない!」 「よくも二人を!」 「……あれ、渦が消えた!」 友樹が言う。確かに、どうしてか先程まで海上にあった渦はすっかり姿を消していた。 だけども――今となっては、そんなことよりも泉、想のことのほうが重大だった。二人は、戻ってこない。 そんな時だった。急に、渦のあった場所から水が巻き上げられる。その瞬間、ラーナモンにそれが当たりそうになる。 「な、なんなのよ―!」 「……あれは!」 海から戻ってきたのは、気絶した想を抱えた泉だった。 「見つけたわ、あたしのビーストスピリット! スピリット・エボリューション!」 「シューツモン!」 風のビーストの闘士、シューツモンになった泉は、抱えていた想を輝二に託すとまたラーナモンの元へ飛んでいく。 シューツモンは獣型の闘士とは思えぬほどにスタイルが良く、冷たい美しさがあった。 「なっ、ちょっとキレーに進化したからって、調子に乗らないでよ! 何でアイドルのアタシより目立つのよ!」 「言いたいことはそれだけ? かかってきなさい」 シューツモンは獣型の闘士であるのに、とても冷静な性格であった。ラーナモンは何でも溶ける、という必殺技の”ジェラシーレイン”をぶつけるが、シューツモンには全く効いていなかった。 「ギルガメッシュスライザー!」 * ……目が覚めたら、海の匂いがして、輝二くんの真剣な顔が目に飛び込んできて。というかなんでわたしは輝二くんに抱きかかえられてるの、うう。 波が激しく揺れていて、見上げるとラーナモンと見たことのない美人さんのデジモンが戦っていた。あれは、風のビーストの闘士? 「想! 大丈夫か!?」 「へ、へーきだよ……」 わたしが起きたことに気づいた拓也くんが、さっそく心配してくれる。や、やっぱりお兄ちゃんみたいだった。何か拓也くんいわく海に落ちて気を失ったわたしを、泉ちゃんが助けてくれたとか、風の闘士の名前とかを教えてもらった。 ふと、輝二くんを見れば、ばっちりと目線が合ってしまって気まずくなる。 「……」 「あ、う、ご、ごめんね。よいしょ」 輝二くんは何も言わなくて、わたしは少し怖くなって身を起こす。……輝二くんは、また何も言わずにわたしの手を握った。 「心配……させるなよ。どうしていいか分からなくなる」 「え」 輝二くんが呟く。輝二くんの横顔が、少し赤いように感じる。 わたしは意味を聞き返そうとしたけれど、ラーナモンが海に落ちたから、それどころじゃなくなった。泉ちゃんがいつの間にか押してたみたいだ。 NOVEL TOP ×
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