風はわたしに囁いて
それから渦のもとへ行くためにイカダをつくりはじめた。それぞれが丸太を切ったり、運んだりして、準備は着々と進んでいっていた――だが。[3/6] (あれ――わ、わたし何もしてない! めっちゃいらない子!!) 想だけは何も出来ずにいた。熱があるから仕方がないとはいえ、一生懸命作業している皆に対し、申し訳ない気持ちがある。想は、純平の設計図を書く作業を見守っていた。 「想、大丈夫?」 「い、泉ちゃん……」 泉は作業を行う傍ら、想に近づいて、「ちょっと休憩っ」と言いながら想の隣に座る。 「泉ちゃん、すごいね……ゴマモンにああいう風に呼び掛けられるなんて。わたしなんか全然できないや」 想は俯いて、元々抱えていた膝を更にぎゅっと持ちながら泉を見た。 「すごくなんか、ないわよ。それに、想は熱あるんだから、しょうがないでしょ?」 「ううん、そうじゃなくって。泉ちゃんは優しくて、強いなって思ったの」 ――全然、そんなことないのに。泉はどう返したら良いのか分からず、曖昧に笑う。 「わたし……、さ。こんなバカだから、友達とか全然いなくって。だから泉ちゃんと話せて嬉しいんだよ」 もちろん、不安もある。友達を傷つけてしまわないか。つい、人の顔色ばかりうかがってしまう。 (望ちゃん……、ごめんね) ふと脳内によぎる過去の後悔。 だけども、この異世界を冒険して、旅を共有して、そこにいた、自分を除いたただ一人の女の子の泉を信じたいと想は思っていた。もう一度、友達を信じる。 「あたしだって、学校じゃ友達とかいなくて、一人ぼっちだった。だから、想がいて嬉しい」 だからもっと想と一緒にいて、優しくて強い女の子になれたら――と思ったのだ。 じゃあ、わたしたち同じようなことで悩んでたんだね。想が言った。少し、互いのことが分かったような気がした瞬間だった。 * 出来たイカダに乗って、海を渡る。純平の設計図は採用されなかったらしく、彼はひどく落ち込んでいた。 渦にたどり着いたのはすぐだった。渦は想が思ったよりも大きなものだった。 「海の底に異変があるのかもしれん……」 「もっと近づいてみよう!」 そうしてイカダが前に進んだ瞬間――津波と共にラーナモンが現れた。想が露骨に顔をしかめる。 泉はラーナモンに立ち向かおうとした。 「これはあたしがやらなきゃならない戦いなのよ!」 泉は純平の止めに対してもそう答えて、水柱のうえのラーナモンを睨んだ。 「スピリット・エボリューション!」 泉はフェアリモンになると、海上を舞い、必殺技を喰らわせようとする。しかし、何度しても水柱に妨害されてしまう。 ラーナモンは涼しい顔をしていた。 「くっ……!」 「それでも攻撃してるつもりぃ?」 想はフェアリモンを見つめた。このまま攻撃を続けても、フェアリモンの体力をムダに消耗してしまうだけだ。 熱、だからといって何も出来ない自分が悔しくてならなかった。 「想、よせ!!」 想は息の整わない身体で――更に言えば、涙目で立ち上がった。――進化しなきゃ、フェアリモンがまたやられちゃう! という思いが想のなかを駆け巡る。 「何よ、アンタ。そんなヨロヨロじゃなんもできないでしょ?」 「で、でも……!」 「バッカじゃないの!?」 「アンタの相手はあたしでしょう!?」 フェアリモンがラーナモンと想の間に入る。 「うるさいわね、レインストリーム!」 激しい雨水が、フェアリモンに当たり、イカダのうえの想にまでも当たる。そして、二人とも海の中に引きずり込まれてしまった。 NOVEL TOP ×
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