風はわたしに囁いて
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「トーカンモンだ!」


 拓也と泉が海水のなかをばしゃばしゃ駆けていく。が、拓也の足が何かに掴まれて、拓也は海水に倒れこむ。
 拓也の足をつかんだのは、ゴマモンだった。


「ゴマ!」


 一匹のゴマモンが海から顔を出したのを皮切りに、たくさんのゴマモンたちがぷかぷかと顔を浮かび上がらせた。

 トーカンモンたちが降り立った島は、ゴマ島という名前の、ゴマモン一族の島。断崖絶壁の島へ上陸できるのは小さな砂浜のみであったが、砂浜の目の前には激しい渦潮があるために、島へ渡ることは叶わない。


「じゃあ、お前たちはどうやって島へ帰ってるんだ?」
「……帰れないゴマ。前は、渦はなかったゴマ」


 買い物に出かけた日に、地震が起こった。そのときに渦が発生してしまい、――そして、それ以来ゴマモンたちは島へ帰ることができなくなってしまったのだった。


「地震とはおそらく、デジタルワールドが虫食いになったときに起こったのじゃろう……」


 つまりは、ケルビモンの魔力のせいだった。
 この話を聞いた想は、涙目になったが、純平や拓也は、想の表情には気づかず空からいけばいいんだ、と提案して、去っていこうとする。


(え、このまま、でいいの……?)


 想はゴマモンの力になりたい、と思った。
 とはいえ、自分は今熱を出しているために非力だし、勝手にゴマモンに手を貸すことなんてできなかった。歯がゆさが残ったものの、想はよろよろと立ち上がって、皆に付いて行こうとする。

 一方、泉は、ゴマモンたちを見つめていた。ゴマモンたちは、ゴマ島を眺めている。


「あなたたちも一緒に行かない? 島へ、帰りたいでしょ」
「私たちのことはお気づかいなくゴマ!」
「渦のちかくにいけば、島の仲間たちの元気な声が聞こえるゴマ!」


 だから、寂しくないゴマ――。ゴマモンはそう言い笑って、泉の提案を断る。


「――嘘よ! 本当は島に帰りたいんでしょう? 見てるだけでいいなんて、そんなの、さみしくないワケ、ないじゃない!!」


 学校では、馴染めずに浮いていた泉。群れているのは好きじゃない、だからといって常に一人でいるなんてイヤ。寂しくないわけない。
 泉がゴマモンに放った言葉は、泉自身のことをも指していた。


「ねえ――皆であの渦を消せないかしら!」
「デジヴァイスのない俺たちには……無理だ」


 デジヴァイスを持っていない輝二たち四人、そして熱のある想は何も出来ない。ならば。


「分かったわ。デジヴァイスのことは皆にまかせるから、あたしはゴマモンたちと行く」


 泉は、ゴマモンたちに手を差し伸べる。ゴマモンは、ほんとうに渦を消すことができるのか――と不安げな面持ちだった。


(泉ちゃんは行動力があって、優しくて、いいなあ……)


 想は泉を見ながら思う。自分も、泉のようになれたらいいのに、とも考えた。
 ――わたし、やっぱりゴマモンを助けたいよ。想がそう思ったのと同時に、拓也と輝二が泉のもとに歩いていった。


「渦がなくなれば、俺たちも島へ行けるからな!」
「デジヴァイスがなくても、お前をフォローするくらいは出来る」


 泉は、二人の顔をそれぞれ見上げた。
 二人に続いて、友樹、純平も協力の意志を示した。そして、想も。


「わ、わたしも、いないよりかはマシだよね……?」


 えへへ、と想は笑った。

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