風はわたしに囁いて
独りが好きだった。誰かと関わっても、いつかは独りになる。だから、人と関わることに意義が見出だせなかった。[1/6] 強いだけじゃだめなのよ! 美しき闘士シューツモン 海で泳いでいたとき、泉の悲鳴が聞こえた。更衣室には泉一人で、想の姿はなかった。 デジヴァイスを忘れたから、取りに行くと言っていたそうだが、海の家の中にも、砂浜にも想の姿はなかった。 「……誘拐されたんじゃないのか」 「なんだって!?」 ふとその考えが頭をよぎる。 ボーッとして、大人しくて、だが、何か暗いものを心に秘めているのではないか、と思わせる儚さがある想。 俺がそう呟いた後に、デジヴァイスが盗まれたことが発覚した。その為、俺達は想とデジヴァイスを取り戻しに、トーカンモンたちの跡を追うのだった。 走り続けてトーカンモンたちに追いついた。しかし、そこに想の姿はなく、トーカンモンたちは逃げてしまう。 さらに愕然としているなかラーナモンが襲いかかってきて――そして、想とハクジャモンが駆けつけてきた。 『誘拐とは卑怯だぞ、ハクジャモン!』 『え、ゆーかいって……!』 現れた想は驚いた表情で、何故か俺たちと想の間には温度差があった。それは後に“誘拐”は俺の誤解だった、ということが分かったのだが――。 今度は安心したと同時に、どうしてこんな思い違いをしてしまったのかと考えた。普段の俺なら、ありえないことなのに。 トーカンモンを探しつつも、俺は脳の片隅でその疑問について考えていた。 * 「トーカンモン、いないね……」 想が落胆しながら呟いて、もう一度トーカンモンを探そうと歩く、そのときだった。想がまたふらついて、倒れそうになった。 横にいた泉が想の肩を掴もうとするよりも先に、輝二が反射的に想の身体を支えた。その為、なんとか直接砂浜にダイブすることは避けられた。 「想、お前熱があるじゃないか」 「うわ、やだなあ……」 元々丈夫ではない想の身体は、ついに限界を迎えてしまったようだった。 輝二が想の額に手を当て、想は照れくさくなった。 あの二人の仲は、どうしてか特別な気がする、と泉は思う。最初出会ったときも二人は一緒にいて、何故か輝二が想を横抱きにしていた。泉が想に声を掛けようと思っても、彼女は輝二の跡を追っていってしまった。 泉は、ほんの少し、二人を羨ましく思った。 「あいつら、一体どこに行ったんだ……」 拓也がベンチに横たわって、うなだれていた。 探しても、トーカンモンたちはとっくに海辺から姿を消してしまったようだった。 いくら拓也たちがトーカンモン、と叫べども、トーカンモンたちの姿は見当たらないまま。 一旦、休憩することになった。純平がさっそくはあ、と息を吐いた。デジヴァイスが取られたことに落ち込んでいるのかと思えば、そうではなく。 「泉ちゃんもビーストスピリット手に入れたら、あんなふうになるのかな、って――」 泉以外の全員の脳裏に、カルマーラモンのように、ケバくなったフェアリモンが見えた。……キツいものがある。 泉がすかさず失礼ね! と、ケバいフェアリモン、を想像して怯えるネーモンと想をどなる。 「だ、だって……あんな怖くなったら……ああっ」 想が苦笑いしながら言いかけているなか――トーカンモン四匹が空を飛んでいるのが見えた。 NOVEL TOP ×
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