綿津見も知らない
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 そういえば、あたしはこうして女の子と水着選び――なんて、一度もしたことがなかった。イタリア時代はともかく、日本に来てからはこうしてずっと長々と女の子と関わるなんてことはなかった。
 スクール水着をすすめたら慌てたりする想の反応が面白くて、もっといじりたくなった。――性格、悪いかしら。
 泳ぎ方を教えて、またひとつ仲良くなりたい、そう思った。
 それからあたしは、想が戻るよりも先に着替えを済ませておこうとして、服を脱ぎ始めた。


「きゃあああっ!」


 ふと振り返ったうしろには、“誰か”がいた。



*


「わ、わたしのデジヴァイス返して!」


 はあはあと息が荒くなる。一生けんめい息を吸っても、全然足りなくて、すぐに息を吐き出し、吸う、を繰り返す。
 わたしの存在に気づいたトーカンモンさんは「やなこった!」と言って、空をとぼうとした。


「サイテー! 逃げないでよ!」
「うっさいわ! これをハクジャモン様にやって、更には愛しのラーナモン様とデートしてもらうんだい!」
「女の子のシュミ悪いよ! 返してよ!!」


 ハクジャモンにもラーナモンにもいいイメージはないよ。美人系とかわいい系ではあるけれど性格悪そうだよ。フェアリモンのほうが性格良さそう!


「ラーナモン様はオレの天使なんだい! ……あ、ハクジャモン様だ!」


 トーカンモンにそう言われて、わたしは後ろを振り返る。そこには、確かにハクジャモンがいて、わたしを見ていた。
 トーカンモンは「これがこの娘のデジヴァイスですう!」とか、高い声で言った。


「ふうん。なら、頑張って水とデートするんだよ。他の仲間の所へお帰り」


 ハクジャモンは、わたしのデジヴァイスを受け取ると手をひらひら振って、“あっちへお行き”の動きをした。水、ってたぶんラーナモンのことだろう。
 トーカンモンは、素直にハクジャモンの言われたとおりに来た道を引き返す。
 あっ、他のトーカンモンは同じようにみんなのデジヴァイスを狙ってる――!?


「他の鳥の三匹、デジヴァイス狙ってるよ」


 やっぱり! で、でもそれを仕向けたのはハクジャモンじゃないの!?
 わたしがそう言うと、ハクジャモンは「いや、違うけど」とだけ返す。
 ――結局協力してるから、ハクジャモンも同罪だよ。


「ところで。あそこに、水が見えるけど」
「あっ……!!」


 指さされて、見た方向には確かにラーナモンがいた。砂浜には、皆もいて、あの辺だけ、竜巻と嵐がひどくて――。
 ハクジャモンはラーナモンの元へ向かっていった。わたしはふたたび、砂浜へと駆けだす。
 みんなが危ない。今はみんなのところに戻らなくちゃ! 靴の中に入った砂が、重たかった。


「想ちゃん、ハクジャモン!!」
「誘拐とは卑怯だぞ、ハクジャモン!」
「無事だったか!? 変なことされてないか?」
「え、ゆーかいって……!」


 戻ってきた時の、みんなの第一声はそれだった。純平さん、輝二くん、拓也くんがそれぞれ言う。
 ……あれ、ハクジャモンが誘拐したとか誤解されてるっぽい!? で、でもハクジャモンはわたしのデジヴァイス、手に持ったままだし。


「何よ、アンタ! 手柄を奪う気!?」
「あそこの海の家の焼きそば、ソースかかりすぎだった」


 ラーナモンはハクジャモンもにらみながら言ったけど、ハクジャモンは涼しい顔をしていた。
 というかこの二人、会話がまったく噛み合ってない!!

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