綿津見も知らない
[2/5] 「このどーみても麺柔らかめのラーメン!! うんめーっ!」 「このカレーの粉っぽさがたまらないわぁっ」 「このタコライスのアボカド熟しすぎ! おいしい!」 輝二くんにそれ、ホメてるのか? と言われたけども、だって、今までまともなもの食べてこなかったんだもん。こんなチープな味でも、ものすっごいおいしかった。 「ごちそーさまでした! んじゃ、そろそろ行くか!」 お腹いっぱいだあ。 皆も立ち上がって、お店を出る準備をする。――けど、その様子を見たトーカンモンさんたちは驚きまくって、わたしたちを引き止めた。 「ま、まだ帰るには早すぎます!」 「んだよ、もう食えねーぞ」 「あ、分かった! 変な高いツボの押し売り」 「ちょっと想黙れ」 拓也くんには怒られたけどさあ。え、詐欺とかでありそうじゃない? 店側がタダで何かをしてあげるけど、最後のほうには布団とかツボとか無理やり買わせる、ってヤツ。 トーカンモンさんたちは、どうしてかわたしをヘンな目で見た。わたし、何もへんなこと行ってないけど。 「せっかく海にやって来たんですから、まだまだ、海を楽しんでもらわないと!」 「夏と言えば海、海といえば海の家!」 「ああ、貸し出しね!」 「え、あ、は、はい……。海の家セット一式です!」 わあ泉ちゃんバッサリしてるう。 トーカンモンさんたちの背後の白いカーテン開く。そこには水着やらボートやら、浮き輪やらがいっぱいあった。 「想! 行きましょう!」 「あ、うん……」 わたしは泉ちゃんに手を引かれて、更衣室に行った。 「わ、いっぱいあるね」 「想はこれにしなさい。グラドルっぽいわ。輝二とか、多分こういうの好きよ」 「えっ」 泉ちゃんがそう言ってわたしに渡したのは、旧タイプのスクール水着だった。しかも、白いやつ。どういうセンスだ! だいたい、泉ちゃんの中の輝二くんのイメージひどすぎるし……! あ、明らかに泉ちゃんわたしで遊んでるよ……。泉ちゃんは本人は、レースクイーンっぽいのとか、真っ赤なビキニとかを選んで悩んでいた。 「ていうか、わたし泳げないや。犬かきしか」 「……微妙ねそれも。あたしが泳ぎ教えたげるわ。想も着替えて、着替えて!」 泉ちゃんはそう言ったけど、えっ……。 女の子同士とはいえ、人前で脱いだりとか恥ずかしいよ、大体わたし泉ちゃんみたいな体型じゃないし……! 一応、水着は選んだけど、うう、着たくない。 だけど、しぶしぶわたしは服を脱ごうとした。――だけど。 「ああああっ!」 「? どうしたのよ、急に」 「で、デジヴァイス……忘れちゃった。お店のなか……」 「え!? 早く取りに行きなさい!」 「は、はーい……」 うう、わたしダメだ。テーブルのうえに、置きっぱにしちゃってたんだった。 わたしは更衣室を出て、砂浜を駆けていってお店の中へ。 でも、テーブルには何もなかった。落としたのかと思って床を見たけど、何もない。 まさか、なくしちゃった――!? 「うわあ、どうしよ……って、トーカンモンさん!?」 トーカンモンさんのうちの一体が、わたしのデジヴァイスっぽい機械を持って歩いてるのが見えた。どういうことなの。 わたしは、そのトーカンモンさんのいる林に向かって、走った。 NOVEL TOP ×
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