雷鳴に向かって
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 ホエーモンに大きく手を振って、別れを告げる。さようなら、ありがとう。

 ――にしても、恥ずかしかった。
 何が恥ずかしかった、って、シキモンのことだ。確かにこの手でゴーレモンを倒したり、アルボルモンと戦ったりしたから、少しは役に立ったんだろうけど、いまどき“あの”口調はないでしょ。


「……ござる、って」


 どうして、忍者イコールござるなんだ、にんにんしなくちゃいけないんだ。
 セラフィモン様の城で戦ったときは、必殺技以外の言葉は発しなかったから分からなかったけど、いざ喋ったら……ござる。
 進化してるとき実際喋るのは、わたしじゃなくてシキモンだから口調が変わるのは仕方ないかもしれない。で、でもアレは恥ずかしすぎる。


「にしても、シキモン怪力だったなー」
「普段の想からは考えられんな」


 拓也くん、輝二くん。ど、どうせ普段のわたしは貧弱だよっ。ふんっ。
 さっきはシキモンがアグニモンとヴォルフモンを掴んで逃げたけど――人間に戻ってからは、今度はわたしが二人に手をつかまれて脱出した、という。


「……スピリット、見つかってよかったな」


 輝二くんが、そう言って穏やかな眼でわたしを見つめた。わたしは、違った意味で恥ずかしくなってうつむく。


「あ、う、ありがとう……。そういえば、ね。気、失ってるとき夢に輝二くんが出てきたの」


 正確には、紅い瞳の、輝二くんそっくりな男の子。だけど、あれは多分輝二くんなんだろう。夢のなかで外見が変わって登場するなんて、べつに物珍しくはない。
 真っ暗闇で佇んでいて、あれは輝二くんなのに、輝二くんじゃないみたいで。


「俺は俺だろう」
「う、まあそうなんだけどね? ただ……すごくこわかった」


 あのとき、泉ちゃんの手がなかったら。もっと虚ろな心だったかもしれない。
 どうして夢の世界は、輝二くんはこわかったんだろう。


「なら、今度想が気絶したときは、全員で手を握ったり起きろとか叫べばいいんだな」
「全員で、はブキミだよ……ありがとう、輝二くん変わったね」
「え?」


 出逢った頃の輝二くんは、ひたすら冷たかったし、感じ悪かった。その輝二くんが、皆と一緒に行動し、わたしといてくれる。
 ――気付けば、わたしがピンチなとき助けてくれたのは、いつも輝二くんだった。
 それを伝えると、輝二くんの顔は赤くなって――あれ、わたしもなんて恥ずかしいこと口走ってるんだ!!


「え。あ。い、今の忘れて……恥ずかしい」
「べ、別に、俺は昔、からこうだ。それより、俺は想のことは最初はただのワケわからん奴だと思ってた」
「え、ひ、ひどい」


 ワケわからんて……!
 はあ、なんかわたしたち、お互いの第一印象わるかったんだ。


「ある意味似てるね、わたしたち……」
「俺のほうがマトモだけどな」
「え。だからひどいってば」


 輝二くんのそれが冗談なのはもちろん分かっていた。
 ――でも、わたしたち少しはお互い、成長できてたんだね。わたしはまた嬉しいやら恥ずかしいやらで、輝二くんの顔が見れなくなってしまった。


「……お前らさあ。仲良くするならヨソでやれよ。オレがすっげーみじめなんだけど」


 あ。た、た、拓也くん。そーいえばいたんだった!!
 輝二くんはふん、先行くぞとか言いながら歩いちゃったし――べ、べ、別にそういうアレじゃないのに、なんか拓也くんには勘違いされてるみたいで。
 ……余計に恥ずかしくなって、わたしはしばらく顔を上げることができなかった。

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