雷鳴に向かって
突然に、洞窟の真ん中の池から水が勢い良く溢れ出す。それに当たって、純平さんと友樹くんは悲鳴を上げた。[2/5] 「友樹、大丈夫か!?」 純平さんは、自分よりも先に友樹くんの心配をする。 いきなりすぎたその光景に、わたしもみんなも戸惑っているばかりだったけど、またすぐに水が押し上げられた。――やっぱり、早く戻ったほうがいいんじゃないか。 「グオオオッ」 「く、くじら……?」 そこから、現れたのは、大きなくじらみたいなデジモンだった。ネットの海に住むホエーモン、だそうだ。――あれ、じゃああの水は海水なんだ。 ホエーモンはひたすら泣きわめく。イヤだ、イヤだ、イヤだ! そればかりを繰り返していた。 くじらみたいなデジモン、というだけあって身体はでかい。だから暴れるたびに、水がばっしゃばしゃ溢れ出す。 「スピリット・エボリューション!」 輝二くんと拓也くんは、それぞれ進化して、ホエーモンの上に乗った。迷惑だから暴れるなとか静かにしろ、と訴えたけど、ホエーモンはイヤイヤ繰り返してるだけだった。 「わがまま……」 「想さん、それ論点ズレてる……」 「わがままじゃないよお、おれは、おれは大海原に帰りたいんだあ!!」 少し前のホエーモンは、自由にネットの海を放浪していた。ある日、光る海草を発見してそれを食べた。そのとき突然発生した地震によって、波に引きずり込まれるようにして、こんなに狭いところに閉じ込められてた――らしい。 「そんなアヤシイもの食べるとか、食いしんぼう……」 「想さん、だから論点ズレてるってば……」 「図体デカいくせに、だらしないデジモンだな――いてっ」 純平さんがお腹をおさえる。やっぱり、さっきの波が痛かったんだ。友樹くんが純平さんに寄り添い、支える。ホエーモンはまたおれのせいだーとか泣きわめくし。 「あたしたちもここから出たいから、一緒に帰る方法を探しましょう?」 「……考えて!」 だめだこのデジモン。 「う、ウワアアッ!」 ――と思ったのもつかの間、今度は池にあった僅かな水が全てなくなってしまう。ホエーモンは当然海のデジモンだから、苦しそうにけいれんを起こす。 ドゴン、と大きな音がして、そこから現れたのはグロットモンだった。 「グロットモン!!」 「今度こそお前たちのスピリット、すべて奪ってやる! 特に色の人型のスピリット!」 「……わたしの?」 何で、わたしなの。すると、グロットモンはそんなことも分からねえのか! と言った。 「おめーはまだスピリットを手に入れたばかりだから、どーせ上手く扱えねえ。だから、ハクジャモンにやって、アイツに使わせんだよ! ハクジャモンはどーでもいいが、ケルビモン様のためだ、仕方ねえ!!」 「……はあ」 「なーに言ってんだよ!」 「そんなことはさせない! グロットモン、ビーストスピリットを失ったお前に勝ち目はないぞ! 泉のスピリットを返せ!」 アグニモン、ヴォルフモンがわたしたちの前に立つ。 それにしても、ハクジャモンは――あれは一体なんだったんだろう。―ーわたしがあれの立場だったなら、敵側のこどもを助けたりなんか、ゼッタイしない。 グロットモンは小瓶を取り出して、コルクの栓を抜いた。その中身を辺り一面に振りまく。ピンクの粒子が空間に舞う。 まいた場所から、無数の魔方陣が出てきた――これは、ゴーレモンとかいうデジモンを召喚するときにやってたヤツだ。 NOVEL TOP |