にげちゃだめだ
(逃げて、いいの――?)[2/4] 友樹は、悩んでいた。 ボコモンが逃げるぞ、とは言っていた。だが、本当に逃げていいのか。このまま、ヴリトラモンが暴走したままで。 友樹の脳裏に、今まで、いじめられていた子を助けられなかった記憶がよみがえる。 (あの子は、ボクと同じだった) 友樹も同じようにしていじめられていた。しかし、当時の自分は何もできずに、走って逃げてしまった。 今も、いまも、本当に逃げていいのか。ブリッツモンが痛め付けられるのが目に映る。 逃げちゃいけない――!! 「やめて! 拓也お兄ちゃん! お兄ちゃんはそんな人じゃないよね!?」 友樹はヴリトラモンの前に現れると、そのまま静かに言葉を続けた。友樹は、暴走してしまったヴリトラモンを――友樹を恐れてはいなかった。 「怖いんだね、怖いから、暴れてたんだよね……」 そう言って、少しずつ友樹はヴリトラモンに歩み寄る。 ガルムモンやブリッツモンが止めても、友樹は怯まなかった。 「大丈夫――怖がらないで、拓也お兄ちゃん!」 ヴリトラモンは友樹を掴み、締め上げようとする。しかし、友樹はしっかりとヴリトラモンを見つめていた。 「拓也お兄ちゃん、言ってくれたよね、」 強いデジモンに進化していじめっこをこらしめることが本当の勇気なのかって。友樹はテレビの森での出来事や――更にデジタルワールドに来る前の自らのことを思い出す。 「ボク、気づいたんだ……本当の勇気はいじめっ子に仕返しすることじゃなく、いじめっこに嫌だって言うことだって!」 震えた声で友樹は言った。――友樹の瞳から涙が溢れる。その滴がヴリトラモンの、赤い瞳に落ちていく。 「友樹……」 ヴリトラモンは、本来の姿の、空色の瞳に戻る。そしてヴリトラモンは、コードに包まれて拓也へ戻った。 * 湖のほとりで、休憩タイム。 友樹君は、逃げないであんな怖いヴリトラモンに立ち向かっていった。 わたしは逃げてしまった。そう、いつもわたしはそうなんだ。皆が話してるのも耳に入らず、わたしは湖を見つめていた。 「想のスピリットも、どこかにあるぜ!」 「えっ!」 「……はなし、聞いてなかっただろ」 拓也君に急に話題を振られて、気の抜けた声が出る。手に入れたスピリットについて話していたらしい。 でも、わたしなんかのスピリットが、本当にあるんだろうか。逃げてばっかの弱虫なのに。 もしかしたら拓也君、励ましてくれたのかな。自分も今大変な目にあったばかりだったのに、いい人だな。 それから、湖のそばの森の中へ入っていった。ずうっと森ばっかりだから、きっと森のターミナルも近いんだろう。にしても、これ、どれもすごい大木だ。 先導を切ってボコモンが歩く。手には例の本がある。こ、こけないのかな……って、 「えーっとじゃなあ、うわあ、っと」 「ぎゃーっ」 「あれ〜?」 ……ボコモンが木に引っかかって転んで、その後ろ歩いてたわたしが巻き添えくらって、ネーモンも以下同文。い、痛いよー。 あ、なんか拓也君とかめっちゃ白い目で見てるし! 「い、痛かった……って、なんだろこれ」 木の根は、あみだくじみたいになっている。それは全部で五つで、マルが一つあって、残りはバツみたいだった。 みんなはそれをやり始める――輝二さんも。うわあ、すごい! 少し前の輝二さんなら絶対こういうの参加しなかったのに。 なんか、勝手だけど丸くなってよかったね、とか言いたくなる。うわーおせっかいだけど。 NOVEL TOP |