ふしぎな
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「ぎ、ぎゃあああっ」
「重いわ、はあ」
「じゃ、じゃあ運ばなくていいですってばっ」


 必死に抵抗したけど、ここでヘビっぽいデジモンさんがちょっと怖くて、わたしは泣きそうになった。
 と、というかなんでこのデジモンさんはわたしに親切になってくれてるんだ。まさか、これも戦略とか……!?
 そう思って、わたしはヘビデジモンさんを見た。金色の眼が鋭いし、さっき喋ってたとき舌が割れているのが見えたし、二の腕辺りからはうろこが目立って、いかにもモンスター、って感じのデジモンさんだった。


「私の美しさに見とれたの?」
「……違います」


 性格は、かなり変わってるなあ、って思った。
 それから、しばらく沈黙が続いた。わたしは相変わらず実はこのヘビデジモンさんが悪いヤツだったらどうしようとか、そればかり考えていた。その間にも景色はどんどん移り変わっていき、辺りの緑は濃くなっていった。森だ。


「ここに待ってたらいいよ」
「へ、っ」


 すると、急にその森の中にあった切り株の上に下ろされて、デジモンさんはまたしゅるしゅると下半身を動かし、移動を開始した。唐突すぎて、気の抜けた声が出た。


「あ、あのっ」


 デジモンさんは行ってしまって、そのうち見えなくなってしまいそうになり、わたしは思わず声を掛けてしまった。自分でも驚いた。
 デジモンさんは振り返って、なあに、と言った。


「な、なんでわたしを助けようとしてくれたんですか……」


 それにデジモンさんは最初、連れていってあげるからお帰り、と言っていた。帰る、って、そんなことも言うなんて、アヤシイ。


「それは……」


 デジモンさんの唇が揺れた。長い舌がちらりと見える。

「その答えは、CMのあとで」
「へっ」


 やっぱり、ワケが分からない。
 呆気に取られてデジモンさんを見つめていると、右腕に付いた腕輪に文字が刻み込まれているのが見えた。それは漢字の“色”に似ていた。


「あと。危ないから、一人でうろつかないでね。スピリットも持ってないでしょ」
「そうですけど……っというかなんでそれを!」
「スピリットなんてあなたにはいらない、皆に守ってもらいなさい」


 答えになってない。なんで初対面なのにこの人は、色々な情報を知っているのだろう。……おまけに、スピリットは必要ないって、役立たずだからいらないのだと遠まわしに言われているようで。
 じゃあ、今度こそさようなら。デジモンさんは目の前からぼう、っと消えてしまった。残されたわたしは、さっきまでデジモンさんがいた位置をひたすら見続けていた。
 嬉しかったけれど、とても不思議な出来事だった。




「おーい、想ー!!」

 とおくからわたしを呼ぶ声が聞こえてきて、振り向けば拓也君たちがこっちに駆け寄ってくるのが見えた。よかった、皆いる。
 泉ちゃんはわたしに飛び込んできて、わたしはよろけそうになったけど頑張って体勢を維持した。

「想!! あんただけいなかったから心配したのよ!」

 皆は二手に別れたあとに、ちゃんと無事に合流できたみたいだった。輝二さんも、珍しく一緒にいる。

「い、泉ちゃん……心配してくれてたの」
「当たり前じゃない、友達なんだから!」

 ともだち。
 そうか、泉ちゃんにとってはわたしは友達なんだ。じゃあ、わたしも泉ちゃんを友達と思っていいってことだよね。
 それを思ったら、なんだか心のなかがしゅわしゅわしてきて、わたしは嬉しいような、寂しいような気持ちになったのだった。


110622

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