折れた翼、この世界
それから程無くして、皆が集まってきた。[3/3] キーが見つかったか話し合ったけれど、双子くんの探している方にも何もなかったみたいだった。 わたしは純平さんと輝二くんが話している横で、輝一くんを見た。……。 拓也くんと泉ちゃんの探していた地下にもキーはなくて、とにかく、わたしたちはもう一度城内を探してみることになった。そうするしかない、と思った。 けれど、この輪のなかに輝一くんはいなかった。 「……わかったぞい」 小さな声が聞こえた。輝一くんと、ボコモンが、何か話したみたいだった。 振り返ったわたしの視線に気づくと、輝一くんは「なんでもないよ」とでも言う風に力なく笑った。わたしは、その笑顔がずきんと心に刺さった。 ふと、隣の輝二くんに目をうつす。彼も、やっぱり輝一くんを心配そうに見ていて−−。 その時だった。 「……誰か、来ました!」 「!? ……うわああっ」 驚いている暇もなく、わたしたちは爆風によって吹き飛ばされる。本棚に背中を打ち付けてしまって、痛かった。 そして、爆風を感じた先にいたのは−−デュナスモンと、ロードナイトモン。 「お前たち、逃げなかったのか」 「負けると分かっていても我々を待ち受ける……その勇気と健気さは買おう。だが……。お前たち、この花のように散れ」 「……っ、散るのは、お前たちかもしれないぞ!」 拓也くんは反論する。けれどロードナイトモンは、この世界は夜のように消えゆくのだと話し続ける。残されたエリアは、ここだけ。ここがなくなれば、世界は空になってしまう。そんなこと許されるはずがない。 「消えるのは、お前たちだ! 行くぞ、皆!」 その声で、わたしたちはデジヴァイスを構える。−−色は世に。世は、すべてに。わたしたちは、力のすべてをマグナガルルモンとカイゼルグレイモンに託す。 「無駄だ。我々は既にキーの在り処を知っている」 「闇を切り裂く巨大な力。聖なる力」 「……お前自身だよ、このエリアをロックしているキーは」 ロードナイトモンは、そうして頭上のネフェルティモンさんを見上げた。その瞬間、ぞくっと嫌な予感がした。 デュナスモンは光線を放ち、ネフェルティモンはそれをかわしつづける。デジモンさん自体にキーを……なんてとても危険なはずなのに。オファニモン様はそれを理解した上で、ネフェルティモンさんにキーを植えたのだろうか。 デュナスモンと、ネフェルティモンさんの攻防。けれど、デュナスモンの強大な力に、ネフェルティモンさんは吹っ飛ばされてしまう。 「……私を……倒してください。そうすれば、このエリアは護られるのです」 「……っ」 カイゼルグレイモンの元に飛ばされたネフェルティモンさんは、よろよろと身を起こしながらそう語る。 「お願いします、私は、此処を護る為に在るのですから!」 「出来ない! お前は逃げろ!」 「ここは俺達が護る!」 カイゼルグレイモンと、マグナガルルモンがロイヤルナイツに向かっていく。そうして、4体のデジモンは城の天井を突き破って上空で戦いを始めた。剣戟と爆風が激しく、ここからだと様子が分かりづらかった。 けれど、確実にマグナガルルモンとカイゼルグレイモンは強くなっていた。 「何故そこまで戦う? お前たちは、人間だろう」 「そうだ……スピリットは、デジモンなんだ!」 「ここは、オレたちの世界でもあるんだ!」 「マグナガルルモン、」 「カイゼルグレイモン!」 「お前たちの肩に、デジタルワールドの未来が掛かっている!」 「拓也くん――、輝二くん!」 上空からの戦いは、動きがとても速くて肉眼では分かりにくい。ただ一つ確実に言えるのは、この戦いは互角か、もしくはそれ以上のものだった。 「強い……お前たちは戦う度に強くなる。人間とはなんと面白い生き物なのだ」 「俺たちは勝てるはずだ、勝てるはずなのに!」 ロードナイトモンもデュナスモンも苦戦している。きっと、このままいけば――!! 「勝てるかも知れない!」 「ああ、頑張れ――!」 勝利を確信した瞬間だった。突如、地核が閃光する。そして、その光に二人は撃たれ――進化が解ける。 そして、ネフェルティモンが捕らえられていた。それはほんの一瞬だった。 「フハハハハ! お前たちにはこの世界は守れはしない。人間どもにはな!」 「白き花に囲まれた城。その花が朽ちるとき、この世界も消滅する」 「貰ったァ!」 目の前で、城が、大地が、花が、コードとなってロイヤルナイツの手中に消えていく。データが奪われる。世界が、失われていく。 恐れていたことが、ついに相成ってしまった。 わたしたちは、何も無くなってしまった虚無の空間に浮いていた。 わたしには、呆然と見ているほか、すべがなかった。 「消えた」 「デジタルワールドが……消滅した」 そして、遙か底の地核のほうから、爆発するような音が聴こえてきて――次の瞬間わたしの前にいたのは、天使だった。 「ルーチェモン様!」 「この少年が……!?」 純平さんが驚くように、わたしたちもその姿に違和感を覚えた。 そう、わたしたちの目の前に現れたのは、一見わたしたちとはあまり年が変わらないような金髪の少年だった。背中に六枚もの翼が生えていることから、かろうじて人ならざるものだということが分かる。けれど、まさか世界を滅ぼしたのがこんな子どもだったなんて。 「やっとこの時が来た。――ボクは、デジタルワールドの帝王。この世界は、ボクの手の中にある」 ルーチェモンは淡々と虚無を歩き、語り掛ける。見た目は天使だけれど、その語りはとても恐ろしい物だった。 「すべてのデジモンはぼくのために生まれ――死ぬのだ」 「何を言っているんだ! デジタルワールドは、お前のためにあるんじゃない!」 拓也くんは、臆することなく反論した。 けれど、ルーチェモンにはその言葉も全く届かないようだった。 「この失われたデジタルワールドから、新たな世界を創るのだ。ボクの、デジタルワールドを」 「何ですって……!」 「お前は、ただの我侭な子どもだ!」 「そうだよ!」 輝二くんの言葉に友樹くんが同意をすると、ルーチェモンはぐっと友樹くんに顔を近づける。友樹くんが怯む。 わたしの手は、震えていた。 「お前がアメノミモンのスピリットを受け継ぐものか」 「そ、そうだけど、あなたなんかには負けないよ……!」 「虚勢にしか聞こえないな」 するとルーチェモンは鼻でわたしを笑い、またもすたすたと歩いて行ってしまった。手の震えを抑えようにも、恐怖と怒りで止まらなかった。 「ルーチェモン様!」 「復活した暁には、我々が人間界に行けるキーをくださるとのことでしたが……」 ロイヤルナイツの二人は、あくまでも人間界に行くことにしか執着がないのだろうか。この世界をめちゃくちゃにしてまで、どうして人間界への侵略を望むのか――。 「ああ。その前に――こいつらは、消す」 「……っ、」 「ボクの世界に、こいつらは必要ないからね」 「お前たちは、世界の果てに行け」 「ウワアアアアッ」 そして、ルーチェモンの目が光った。わたしたちは訳もわからないまま飛ばされていき、空へと放り投げられる。もうダメだと思ったとき―― 「皆、乗って!!」 トレイルモンが、現れた。トレイルモンはうまく飛ばされたわたしたちを乗せてくれた。 トレイルモンは空に向かって走って行っていた。 「月まで、行くよ! 月まで行ける線路を引いたんだ!」 「そんな……」 「君たちが倒されたら、本当にデジタルワールドはおしまいなんだ!」 わたしは、その言葉にぎゅっと胸が締め付けられた。皆、命のコードも、住む場所のコードも奪われてしまった。 わたしたちを、瞳の力だけで吹き飛ばした――異常なまでに強いルーチェモン。 これで終わりだなんて思いたくはない。けれど、現実はあまりにも過酷だった。 151012 早く完結させたい(毎年言ってる) 2ページ目の夢主さんの回想は今までの話を読んでいただくと分かりやすいです…(^^) NOVEL TOP |