折れた翼、この世界
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デジタルワールド消滅!? ルーチェモン暗黒支配
 わたしたちは、マグナガルルモンとカイゼルグレイモンの背に乗って、夕焼けの中を飛び続ける。
目指すはオファニモンさまの城だった。
 もうあの場所しかデジタルワールドの大地は残されていない。下の方を覗きこむと、ぽっかりと地の底の闇が広がっている。

「……あれが、オファニモンの城」

泉ちゃんが言った方角には、白いお城があった。

*

 たくさんのお花に囲まれて、その城はあった。


「き、きれい……」
「きれいですー!」


 久しぶりに見るお花は涙が出ちゃうほど綺麗だった。
 それは唯一残された地、唯一咲いた植物だった。

 わたしは、歩き出そうとして、ふと輝一くんの方を見た。


「輝一……、どうかしたのか?」
「……、ああ、いや、何でもない」


 輝一くんが、俯いて何か考えているようだった。それにはっと気付いた輝二くんが声を掛ける。
 こんな絶望的な状況なら、悩んで落ち込むのは当たり前だ。でも、輝一くんは、とりわけ一人で何か思いつめているようなーーそんな表情をしていることが多い。
 ダスクモンだった頃や、ケルビモンのことがあった輝一くんには、わたしには図りしれない辛い思いがあるのだろう。


「……輝一くん」
「ほら、行こう」
「う、うん……」


 わたしも、輝一くんを呼ぶ。輝一くんは曖昧に笑った。
 わたしは、心にまだ引っ掛かりがあったけど、輝一くんに促されてお城の中に入っていった。

 お城の中は図書館だった。
 何階も吹き抜けになっていて、壁一面には本がびっしり詰まっている。床には何冊も本が積み重ねられている。しかも、それは人間やボコモンたちみたいな小さいデジモンが読むには不向きの、かなり大きなサイズだった。


「わ。何だここ? 本だらけだ」
「……きっと、このお城のどこかにエリアのデータが封印されているんだ」
「探すしかない……」


 拓也くんがそう言ったとき、天井のほうから光の筋が流れた。
 わたしたちは、上空を見上げる。そこにいたのは、スフィンクスのような、翼の生えたデジモンさんだった。


「あなた方が、このデジタルワールドを護ろうとしている人ですね。あなた方のことは聞いていますスピリットを受け継いだ人間の子どもたちだということを」
「どうして……」
「あなたは……?」
「私は、ネフェルティモン。オファニモン様の命を受け、この城を守っています」


 なるほど、と納得がいったところで、肝心のキーの在り処を尋ねる。でも、それはネフェルティモンさんも知らないようだった。
 城を預かってるデジモンも知らないのか、と純平さんが残念そうに言った。


「……とにかく、探すしかない! ロイヤルナイツより先にキーを見つけよう! それをロックしてしまえば、永遠にスキャンされない!」
「よし、二人一組になって探そう」

 拓也くん、輝二くんが話を進めてくれた。ボコモンたちは、ここにいてロイヤルナイツがくるかどうか見張ることになった。


「じゃあ、俺達は上を」
「え。あ、うん」
「……どうしたんだ、変だぞ。何か合ったのか」
「……あ、いや、何でもないよ!」


 呼び掛けられても輝一くんは心ここにあらず、だった。やっぱり、今日の輝一くんはどこか様子が違う。輝二くんは、心配げに輝一くんを見つめ、そして上の階段に向かった。


「泉ちゃーん、奥の部屋を探そうよ―う!」
「えっ、じゃあ、ボク、地下の部屋……?」
「と、友樹くん泣かないでー!! わたしもいるよ!!」
「え……」


 わたしがそう言うと友樹くんはまた更に不安げになったけどきっと気のせいだと思う!!


「ならぁ、純平は想と友樹と一緒に奥の部屋を探してくれる?」


 泉ちゃんはそう言って純平さんの手を払いのける。友樹くんはぱああっと表情が明るくなり、純平さんだけががっくりしていた。ごめんね、って謝る友樹くんに、明るく振舞いなおしてみるけど純平さんはまた深い溜息をついていた。
 ともかく、こうして、わたしは純平さん、友樹くんと一緒に図書館内を探すことになった。……泉ちゃんつよいなあ。

*

「輝二たちのとこ行かなくて良かったのかよ」


 キーを探さなくちゃ、と思って本を手に持っていると、純平さんにそんなことを聞かれた。ちょっと、ぎくりとしてしまう。


「え。や、べ、べつに……。何か、今日の輝一くん、いつもと違ってたし、輝二くんも心配してたし、やっぱ、家族だけで話したいこともあるだろうし、さ?」
「……なんか最近のお前って、輝二の奥さんみたいだなー」
「お、奥さん!? 大体じゅんぺーさんこそ泉ちゃんと一緒じゃないし……」
「いいか? 好きな子を待つことができる男ってのも魅力的なんだぜ」
「純平さん、ちょっとかっこつけすぎだよお」
「ねえ二人共、そんなのいいから早くデータを探そう!」


 ーー怒られた。ううっ、年下の子に怒られるとショックだ。
 それから、目に映る本一冊一冊を見て回った。そうして歩いて行くうち、一番奥の部屋に辿り着いた。本棚を探していると、ばさりと本が崩れ落ちて友樹くんが驚く。


「あ……、少し、休むか?」
「大丈夫。……だって、ココを守るキーを探しださなきゃ!! ここが、最後の場所なんだから」
「そ。そーだよね、頑張らないと……!」


 とは言ってみるものの、あまりにも本の数が膨大すぎて疲れたのも事実だった。でも、わたしより年下の友樹くんが頑張ってるんだから、わたしはもっと頑張らないと。
 そう思って、また新たな本に手を伸ばした時だった。

「らーらーらー」

 純平さんだった。
 純平さんは、急に歌を歌いながら手からお花を咲かせてみせた。白いお花はぽこぽこ純平さんの手から舞って、そしてお花のお山ができる。
 わたしと友樹くんは、驚いてそのお花を見ていた。


「……あ。外しちゃったかな。二人共、緊張してたみたいだったからさ」
「え、いや……ありがとう!」
「おれ、こんなふうに空気よめないからダメなんだよなあ」


 そう言って純平さんは笑ってみせた。
 ーー純平さんは、落ち込んでいる人がいたら、すぐに元気付けることができる。


「ねえ……ボク、すごく怖いんだ。デジモンを、デジタルワールドを守りきれなかったらって思うと、怖くて……」
「友樹くん……」
「そんなことないさ、友樹はすごく強くなったよ。オレなんてなーんも考えてないしな」
「純平さんこそ……純平さんはとっても優しいし、友樹くんも強いよ。……わたし、皆がすっごく素敵な人だから、だから、頑張らなきゃ、っていつも思うもん」


 そこまで言うと、純平さんはぽん、とわたしの頭に手をおいた。
 時々泣きそうになるくらい、みんなは優しくて強い。引っ込み思案なわたしの手を引っ張って、そして道を示してくれてる、そんな気がする。そして、その道の先にはいつも輝二くんがいた。


「友樹、想。最後まで頑張ろうぜ」


 うん、と言葉を交わすと、少し勇気が持てた気がした。

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