正義を決めるものは
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「またお前らか。俺のブレス・オブ・ワイバーンを喰らっても生きているとは、大した生命力だ」

 拓也くんはデュナスモンを睨みつける。
 そして、泉ちゃん、友樹くん、そしてわたしはそれぞれスピリットを拓也くんに差し出す。

「ハイパースピリット・エボリューション!」

「カイゼルグレイモン!」


 それから、デュナスモンとカイゼルグレイモンの剣戟が始まる。
 わたしは、手にしていたデジヴァイスを見た。世のスピリットを拓也くんに差し出しても、わたしのデジヴァイスはなお画面に世のマークを浮かべていた。


「想のデジヴァイス、光ったままだわ……」
「まだ何かあるのか?」
「分かんない。でも、世って……」

 わたしはもう一度石碑のある森を見る。石碑のほうに、何か原因があるんだろうか。
 今は、拓也くんが戦ってくれている。今ここで見ているだけより、何かできることがあるなら――、わたしは、力になりたい。

「……っ、わたし、森のほう行ってくる!!」
「き、危険じゃぞい!」

 もしもこのデジヴァイスが世のマークを示すように、何かあの石碑に答えがあるとするならば。
 デュークモンさんを探すための手掛かりがあるとするならば。
 わたしは、走り続ける。

 少し進んだところで、手にしていたデジヴァイスが熱くなった。

「……っ!」

 あまりにも熱くて、わたしはそれを手放してしまう。
 画面の光がより一層強くなって、そして、また辺りが真っ白になった。
 そして、風が吹き抜け、今度は誰かが近づいてくるのが見えた。
 だんだんと視界がはっきりとしてきて、誰か、が見える。あれは、あのデジモンは――。


「……デュークモン、さん」


 ずっと探していた、彼だった。
 信じられなくて、目がチカチカしてる。
 デュークモンさんは静かにを見ていてた、けれど、彼は、ゆっくりと振り返る。

「……まさかここで出逢うとは、と言いたいところだが。いつか君には再び巡り合うだろうと思っていたよ、想」
「……、何で、」

 何でそんなに淡々と話していられるの。ここで何をしていたの。どうして今まで何もせずにいたの。
 聞きたいことがいっぱいある。けれど何を言えばいいのか分からない。
 わたしが何も言えずに口をぱくぱくさせていると、今度は背後から風が吹き付ける。振り返ると、デュナスモンがやって来ていた。
 デュナスモンはデュークモンさんにぐっと詰め寄った。


「デュークモン!! 貴様……!」
「おや、懐かしいな」

 デュナスモンはデュークモンさんを睨みつけていた。けれど、デュークモンさんは涼し気な表情だ。
 デュナスモンはどうしてかデュークモンさんを憎んでいるのに、デュークモンさんは何も感じていないんだろうか。

「どうして……っ!」

 何を問えばいいのか分からなくて、わたしが言えたのはただその一言。
 デジヴァイスが光っていたのは、きっとデュークモンさんがいたから。でも、どうして世のスピリットのマークを浮かべていたのかは分からない。
 デュークモンさんは、わたしを一瞥して、すぐにまたデュナスモンの方へ向く。

「デュークモン……! 裏切り、逃亡したお前が再び俺の前に姿を表すなど……! 今度こそ灰燼と化してやるぞ!!」
「待ち給え、かつての盟友よ。ほら、君の相手はあの十闘士の魂を受け継いだ坊やたちじゃないか」

 デュークモンさんはそう言ってわたしやカイゼルグレイモンの方を指差す。余裕があるような言い方だったから、わたしはむっとした。

「黙れ!!」

 デュナスモンはすっかり怒り狂い、デュークモンさんに襲いかかる。デュークモンさんは苦しげにそれを避けた。それに、今は輝二くんと戦っているけど、向こうにはロードナイトモンもいる。デュークモンさんが不利なのは当然だ。


「一体どうなってんだよ……!?」
「ロイヤルナイツ同士で争うとは……ハラー!」

「アメノミモンに固執しているのか。そんなものを信じて何になる!!」
「信仰が善と悪を超越したのだよ。今の君には分からないだろうがね」


 二人の会話は全く分からない。
 デュークモンさんはずっと攻撃をかわし続けながら答える。それにしびれを切らしたのか、デュナスモンはついに手を構え始めた。何度も見たことがある、あれは必殺技を放つときの構えだ……!!
 カイゼルグレイモンに目配せすると、彼も当然理解していたみたいで、二体のもとへ飛んでいった。

「ブレス・オブ……」
「やめろォォォ!」

 カイゼルグレイモンがデュナスモンに体当たりをした。
 デュナスモンの放とうとした攻撃は不発となり、地面にクレーターを作る。


「……ッ、邪魔をするな!」
「これ以上、デジタルワールドを壊すな! ここのデータも渡さない!」


 カイゼルグレイモンはそう叫んだ。
 デュークモンは、そんな二体からは少し距離をおいた。


「そうだ、君はそれでいい。後はすべて君に任せるさ。……老獪者は、これにて失礼するよ」
「どこに行くつもりだ!」
「どうしたところでルーチェモンを倒すことができるのは、君たち伝説の闘士のみだからね」

 デュークモンさんのそれは答えになっていない。
 自分の力ではルーチェモンを倒せないから、だから動かないままなのか。
 だからって、諦めるのはおかしい。皆、一生懸命戦ってるのに。炎のターミナルの皆だって、そして、今まさに戦っているゴツモンさんもいる。
 それから、彼はわたしの目の前へ降り立った。

「想……、君は、アメノミモンの三つのスピリットを、大切に護り抜くのだよ」
「何、で……。どうして、そんなこと言うの、分かんないよ!!」

 わたしは叫んだ。
 戦ってる人がいるのに、へらへらしてる神経が分からない。
 アメノミモンアメノミモンってこだわってる彼が分からない。
 デュークモンさんは、わたしのことなんかろくに聞かないで、立ち去ろうとしてしまう。


「待て、デュークモン……! ドラゴンズ・ロア!」
「レイジ・オブ・ワイバーン! ……仕方がないな」


 ドラゴンズ・ロアに、デュークモンさんの放った技がぶつかり、爆煙を残して相殺される。ただ、マントに攻撃がかすったみたいで、マントの切れ端がちぎれた。


「このデュークモンは、最後の地にいるよ」


 そんな声が、聞こえた。
 そして、爆煙が晴れたときには、もうデュークモンさんはいなくなっていた。
 ――わたしは、デュークモンさんの落ちたマントの切れ端を、きつく握りしめた。
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