正義を決めるものは
[2/4] そして、わたしたちは森の国へと移動をし始めた。 森の国、は、セラフィモン様がいたところだった。おもえば、あれがはじめて目の当たりにした死だった。 「想、むつかしいかお、してるですっ」 「え、ふ、ふつーだよ、ふつー」 わたしの考えが伝わったのか、パタモンがわたしの顔を覗き込む。大丈夫、亡くなった天使の生まれ変わりは、ここにいる。 それよりも、今は目の前のことを考えなくちゃ。――わたしたちの視線の先には、ロイヤルナイツとナイトモンがいた。 わたしたちは、木の中に潜んで、奴らの様子を伺っていたのだ。 デュナスモンとロードナイトモンは上空に行き、ナイトモンの大群が残された。 ナイトモンは、お城の中に入れずにいた。結界があるから入れないみたいだ。 「あの結界、誰が作ったの?」 「分かってたら苦労せんわい!」 考えても、ちっとも分からない。 でも、とにかく今は進むしかない。「よし、行くぜ」拓也くんが進化しようとデジヴァイスを構えたとき、輝二くんが声をかける。 「待て、拓也」 「なんだよ」 「ナイトモンたちは、俺に任せろ」 「どういうこと?」 「俺もナイトモンを倒したら、すぐに後を追う。拓也たちは、ロイヤルナイツを探せ」 「ひ、一人で……?」 いくら輝二くんが強いといっても、ナイトモンの数は多い。とてもじゃないけど、一人で倒すなんて、大変だ。 「想、そんなに不安そうな顔をするなよ。……俺達の目的は、この大地を護ることだ。言い争う暇なんてない」 「ああ、それに一人じゃない! オイラも戦う!」 ゴツモンさんが、輝二くんに近付く。ああ、そうか、二人で戦うのか。 そう言われたら、拓也くんも諦めたように頷くしかないみたいだった。 「……その代わり、とっととやっつけて、来いよ!」 「ああ。……来い、ゴツモン!」 そして、輝二くんはマグナガルルモンに進化し、ゴツモンさんと共にナイトモンの元へ行った。 「オレたちも行くぞ!」 「おう!」 わたしたちは、拓也くんを先頭に木々を抜けていった。 ――輝二くんとゴツモンさんが、どうか怪我をしませんように。 * 走りながら、わたしは、前にお城に入る直前に見つけた石碑のことを考えた。 あそこには、確か――、よのたましい、とか書いてあった。バロモンさんいわく、実際には世のスピリットはアメノミモン自身が持っていたみたいだったけど……。 デュークモンさんは、やたらと世の闘士について詳しかった。 他のデジモンさんが、世の闘士に語っているところなんてあまりなかったのに、彼は、世の闘士がアメノミモンという名前だったことまで知っていた。 ――もしかしたら、デュークモンさんもあの石碑に行ったことがあるのかもしれない。 皆がお城に向かって走っていく中、わたしはあの石碑があった木の方を見た。もう一度、様子を見てみたかった。 「アージェントフィアー!」 ――と、その時、お城のてっぺんの方から、叫ぶ声と爆発音が聞こえた。見上げると、そこにいたのは、デュナスモンとロードナイトモンだった。 「ドラゴンズ・ロア!」 二体は必殺技を放ち、お城の結界を崩そうとしているみたいだった。 「拓也! カイゼルグレイモンに進化よ!」 「ああ! ……ん?」 「……わたしのデジヴァイスも」 「なんじゃこりゃあー!?」 拓也くんがスピリットを受け取ろうとしたら、拓也くんと、わたしのデジヴァイスの画面が光った。わたしのデジヴァイスには、光の中で微かに、世の文字が見える。 前に、お城に来た時と同じだ。きっと、これは―― 「ねえ、これって……」 「呼んでるんだ。感じる。誰かが、オレたちを呼んでるんだ……」 「うん、わたしたちを、守ってくれてる……」 やさしい光だった。 その光のお陰で、門が開いた。わたしと拓也くんは、迷わずに進んでいく。 「行こう!」 「うん」 「ま、待ってよ!」 「ボ、ボクも!」 泉ちゃんと友樹くんが慌てて追いかける。 今回はロイヤルナイツよりも早くデータを護ることができるかもしれない! そしてわたしたちはお城の中を駆けていく。 近くを飛んでいたパタモンが「懐かしい」と言った。セラフィモンだったから、魂の奥底では覚えているのだろう。 それから、拓也くんがアグニモンになり、壁を壊した。 「隠し部屋とは!」 「すごいねぇ……って、ぎゃーっ!」 「ワーッ!」 部屋に入った瞬間、悪いケルビモンの顔がドアップで目に入った。えっ。 ボコモン、ネーモン、パタモンも同様にびっくりしている。 「これは……、三大天使デジモン!?」 「これがこのエリアのデータ……?」 ――何かと思えば、よく見たらきれいな三大天使さんのクリスタル像だった。うう、思いっきり悪いケルビモンに見えてこわかったよ。 拓也くんは進化を解いて、クリスタルに触れた。すると、デジコードが現れた。間違いなく、これがデータみたいだった。 「じゃあ、これを守ればいいんだね」 「でも……誰が呼んだんだ?」 純平さんがそう言ったとき、地響きがした。 天井には穴が空いている。――デュナスモンの攻撃が迫ってきていた。 「これで終わりだ! ブレス・オブ・ワイバーン!」 白い龍の影が、わたしたちのいるお城に襲いかかる。逃げよう、と考える暇もなしに、辺りが真っ白になる。 痛みは、なかった。無傷だった。辺りが真っ白なままなのは変わらず、ただわたしたちは宙に浮いていた。 お城は壊れてしまったけれど、わたしたちは無事、みたいだった。 「どう、なってるの……?」 「おれたち、生きてるよな……?」 「み、見て!」 友樹くんが指差すほうには、デジモンの影があった。 ――あれは、ソーサリモンさんだ。 「ソーサリモン!」 「……ソーサリモンさんが、まもってくれたの?」 はじめて目の当たりにした、デジモンの死。 それが、ソーサリモンさんだった。 その彼に残っていた意志が、わたしたちを護ってくれたんだ。 「ソーサリモンがあたしたちをここへ導いてくれたのね」 「死んでもまだ、この城を守り続けてたんだな」 「約束するぜ、ソーサリモン! この世界はオレたちが必ず守ってみせる!」 わたしも――、自分のデジヴァイスをぎゅっと握りしめて、心に誓う。 絶対に、世界を救うんだ。だから、わたしはもっと強くありたい。 「――あ」 その時、再びデジヴァイスに世のスピリットのマークが現れた。 わたしは、はっとして森のほうを見やる。あの森には、アメノミモンの石碑があった。 そして、上空にはデュナスモンがいる。 もし、デュナスモンが石碑のデータを狙っていたらどうしよう。 わたしがそう不安に駆られていると、目の前を強い風が襲った。わたしは、目をつぶる。 デュナスモンが、地上に降り立った。 NOVEL TOP ×
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