夕陽の約束
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「九頭龍陣!」

 カイゼルグレイモンの炎の攻撃がスカルサタモンに襲いかかったところで、スカルサタモンのデータがスキャンされた。

「やった!」
「ふるさとは救われたんじゃ!」
「よ、よかった……!」

 ボコモンもネーモンも、炎のターミナルの皆も喜んでいる。わたしも、自然と笑顔になることができた。
 でも、パタモンが急に叫んだ。何かと思って声のする方をみると、――空には、ロードナイトモンが浮遊していた。

「倒れた仲間たちの残り香は悲しき芳がする。スカルサタモン三兄弟。私の手向けの花だ」

 ロードナイトモンは、薔薇の花びらを散らした。真っ赤な花びらが、くるくる舞う。血の色みたいで、美しいと思えなかった。


「ロードナイトモン……!」
「炎の街のデータ、このロードナイトモン様がいただく」

 いけない、と思った。だけれど、わたしや皆が動くよりも早く、ロードナイトモンはデータをスキャンし始めた。
 どうにかしたかった。わたしは、何も出来なかった。マグナガルルモンが、わたしたちを抱えて空にのぼる。その間にも、大地は刻々と奪われている。

「ルーチェモン様の元へ! フハハハハッ!」
「どうしてっ、!」

 根本的に考えの違う相手だから、意味のない問いだった。けれど、わたしは叫ばずにはいられなかった。
 ロードナイトモンは高らかに笑って、――そしてどこかへ去って行ってしまった。


 空は、また再び夕闇に包まれた。
 切れ切れになって、小さな島のようになった大地にわたしたちは立っている。泉ちゃんは、デジモンが人間界に来ることができないか相談していた。
 わたしは――、皆とは少し離れたところで、片目のエレキモンさんといた。


「エレキモンさん。わたし、悔しいよ。何もできないわたしが、弱いわたしが」

 わたしは、エレキモンさんの隣に座って空を見ていた。山も建物もなくなってしまったから、空しか見えなかった。
 エレキモンさんは、わたしの背中を撫でてくれた。


「俺は、強くはない。進化してねえし、片目はもう視えねえし。でも、俺は、一人じゃないよ」
「……一人じゃ、ない」
「想にしたってそれは同じだろ、弱くてもいいんだよ。想に出来ないことを他のやつが補って、想が出来ることを他のやつにしてやるんだ」


 エレキモンさんは、そう言うと笑った。太陽の光も相まって、眩しかった。
 わたしができることを、他のみんなに――。前にも、似たようなことを問われたことがあるような気がする。
 輝二くんと拓也くんは、ロイヤルナイツと戦っている。それなら、わたしはどう動くべきか。

「エレキモンさん……。わたし、デュークモンさんを探そうと思う」
「デュ、デュークモンを?」
「エレキモンさんにとっては、赦せない相手かもしれない。でも、それでも、あの人がロイヤルナイツやルーチェモンを倒してくれるかもしれない」

 エレキモンさんは、少しの間沈黙していた。
 わたしは、エレキモンさんをじっと見つめる。時が、止まったみたいだった。

「……そう、か。それが、お前が選んだことなのか」
「うん。だから、わたし、一生懸命頑張りたい。この世界が、好きだから」

 戦うことは、こわくて当然。当たり前の事だった。当たり前すぎて、気付かなかった。
 けれど、輝二くんは、戦っている。いつ死ぬか分からないのに、戦っている。わたしも、その隣に立っていたかった。

「だから。わたしは、わたしなりに戦いたい」

 エレキモンさんは、何も言わずにわたしを撫でた。とてもあったかくて、安心できた。

 わたしたちは、真っ赤な空に包まれている。前に村でエレキモンさんと別れたときも、こんな空だった。
 今度は間違えないように、生きていたいと思った。



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