夕陽の約束
夜が明けて、ボコモンとネーモンの故郷である炎の街に辿り着いた。[2/4] わたしと輝一くん、パタモンは初めて訪れた場所だったけれど、皆には懐かしく感じられるようだった。――ここは、まだ無事でよかった。 「あっちもまだスキャンされてないぜ!」 純平さんが先に見える森を見て言った。 「間に合ったみたいね」 「ああ」 なら、ここは確実に守り抜けるようにしないと。 そう思って森を眺めていたら、それは急にコードになった。そして、あっという間にスキャンされていく。 「森が……っ!」 ひどいと思った。 そうして森が消えていく先には、デジモンがいた。でもそれは、デュナスモンでもロードナイトモンでもなかった。 「ロイヤルナイツじゃ、ない!?」 「あれは……スカルサタモンじゃい!」 「ルーチェモン様の元へ!」 スカルサタモンはそう叫んで、データをデジタルワールドの底へ送っていく。 あの二体以外にも、ルーチェモンの手下がいたなんて。 ボコモンもネーモンもパタモンも泣いていた。わたしも、恐怖で手が震えた。 「故郷の森が消えてしまったああっ」 「泣かないで」 その時、飛んでくるデジモンがいた。 「ピヨモン……!」 「泣いたってどうにもならないよ。もう、この街もおしまいだ」 「今度はこっちの炎の街がスキャンされる番だよ」 泣かないでと言ったから、てっきりボコモンたちを励ましてくれているのかと思った。でも、違った。ピヨモンさんたちは、既に諦めている。 だから皆逃げていった! ピヨモンさんたちの大群は、そう言って飛んでいった。逃げた先にも土地は残されていないというのに――。 「アンタの仲間もな」 また違う方向から、声がした。聞き覚えのある声だった。 わたしは、振り返った。そこにいたのは――懐かしいひと。 「エレキモンさん……!」 「想、久しぶりだな。輝二、純平も」 前に出会った、片目のエレキモンさんと、そこに住んでいたエレキモンさんたちがいた。 わたしは、彼らに駆け寄る。 「ああ、エレキモン、何故ここに……」 「……村は全てロイヤルナイツに、奪われた。結局俺は何も出来なかったんだ」 「そうだったのか……」 「……」 重苦しい沈黙。 ロイヤルナイツのデュークモンさんに村を滅ぼされ、ロイヤルナイツのデュナスモンとロードナイトモンに村のデータを奪われた。彼がロイヤルナイツを憎むのは、当然だった。 それでも、わたしはデュークモンさんに会うことを望んでいた。不安だった、けれど真実を知りたかった。――どうして、ルーチェモンの、デュナスモンとロードナイトモンの暴走を止めようとしないのか。 「残ってるのは、こいつらだけ。俺たちも、村を無くしてからここまで逃げてきたが――、」 エレキモンさんは悲しそうに目を伏せる。ここだって、スキャンされるか、分からない。 「あーあ、オマエラだったら何とかしてくれると思って、オレたち残っていたのに。頼りにならねえな」 上を見上げると、今度はパグモンというデジモンがそんなことを言う。輝二くんも拓也くんも一生懸命戦ってくれている。けれど、パグモンのように思うデジモンがいても当然だった。 「パグモン、ニンゲンをせめてもどうしようもないよ」 「そうだよ、ルーチェモンがよみがえるのも、じかんのもんだいだよ」 「はっ、こいつらがスピリットを手に入れた時は、皆期待していたくせに! ――おれも、さっさと逃げればよかったんだ」 皆は、既に世界が滅ぶものだと信じている。 わたしも、いくらこの世界にいることを選んだところで何も出来ない。だから、悔しいんだ。 「それは違うと思うよ。せめてふるさとの最期を見ておきたい。そう思ったから、ボクたちは残ったんじゃないか!」 「違う。いつか、ボコモンたちが伝説の闘士を連れてきてくれる、デジタルワールドを救ってくれる! そう思ったから、ここにいたんだ。どうせどこに逃げようと、平和には暮らしていけないからな」 パグモンはそう言ってわたしたちを見た。 「パグモンの言うとおりだ、逃げたって、何も解決しない」 「そうだ、この街を救う、デジタルワールドを救う。その為に俺たちは戻ってきたんだ」 「皆で戦いましょう!」 「そうだよ、皆は、その為の技を持っている!」 純平さんがそう説得しても、皆は乗り気ではなかった。あんなに強いデジモンに敵うはずがない、と。 けれど、この戦いにかかっているのは、自分たちの故郷。 「あなたたちの故郷でしょう、どうしてあなたたちの手で守ろうとしないの」 「故郷を愛する気持ちがないのか? こんな素晴らしい故郷に誇りを持ってないのかよ!」 「……でも、わたしはこの子たちの気持ちが分かるような気がする。わたしだって戦う力はあるのに、ね。敵わない相手だと思っているから、怖いんだよ」 「そうだ、責めないで。力のないデジモンは、仕方ないんだ……」 わたしの言葉に、ネーモンも続いた。 わたしはパグモンを撫でる。いくら戦おうとしても、あまりにも強い相手。少しでも戦ったら、死ぬかもしれないという恐怖。 「責めてるわけじゃないけど……」 「でも、たとえ強くなくても、勇気の心を忘れちゃいけないんだ!」 友樹くんの言葉に、わたしは伏せていた顔を上げる。――勇気の、心を。 「十闘士や世と色の闘士の力は、皆のパワーを集めて強くなる。小さくても、きっと勝てるさ! だから、想も安心しろって」 「た、拓也くん……」 「俺たちは、ひとりじゃない。想には、俺たちも、シキモンたちもいるだろう」 「こ、輝二くん……。皆、ありがとう」 拓也くんが、わたしの背中をぽんぽん叩いてくれて、輝二くんは困ったように笑った。 ――そうだ、それを教えてくれたのは、ずっと闘い続けた皆だったのに。 わたしは、それを忘れてしまっていたんだ。 NOVEL TOP |