みてるだけしか
[4/4] 「くっ!」 すると輝二さんはその落ちていく鎌の元まで土を蹴って飛んで、縄を切った。どんなシ身体能力の持ち主だよ、とか、腕怪我したらどうするの、思った。けれど、身体の自由が完全に効くようになったその瞬間、輝二さんはデジヴァイスを手にかざして――。 「スピリット・エボリューション!」 ヴォルフモンに進化した。ヴォルフモンは一直線にグロットモンの元へいき、グロットモンもろとも家へ突っ込んでいって、見えなくなった。輝二さんひとりだけでも強いのに、ヴォルフモンになった輝二さんのシ身体能力は、小学生の範囲を超えていた。 わたしたちはカラツキヌメモンに助けてもらった――けど、やっぱりカタツムリはニガテだった。カラツキヌメモンはひたすら謝り続けてくれた。でも、それより、ヴォルフモンが心配だ。 「うわぁあ!」 ちょうど心配していたさなかに、ヴォルフモンの悲鳴が聞こえる。 その方向を振り返ってみると、グロットモンにヴォルフモンが抑えつけられていた。そのまま引きずられるようにヴォルフモンは落ちていく。ヴォルフモンは必死に崩れかけた家の壁に捕まっていた。でも、グロットモンは更にそこに追い打ちをかけるようにヴォルフモンの手を踏みつけた。グロットモンのやつ、余裕こいてる……! 「ヴォルフモン!!」 「よし、オレたちも進化だ! 想はここでカラツキヌメモンを守るんだ!」 「そ、そんな……」 わたしだけ何もできないのはいやだ。カタツムリは気持ち悪い。戦うのはこわい。どうしたら、いいの。 一人がちがち震えていても、拓也君たちはわたしの前に立ち、そして、デジヴァイスをかまえた。 「スピリット・エボリューション!」 輝二さん以外の進化していくみんなを見るのは、はじめてだった。みんなの身体にコードが浮かび上がったかと思えば、パーツが身体に付いて、あっという間にデジモンへと姿を変貌させる。 「アグニモン!」 拓也君は、火の闘士アグニモンに。 「ブリッツモン!」 純平さんは、雷の闘士ブリッツモンに。 「フェアリモン!」 泉ちゃんは、風の闘士フェアリモンに。 「チャックモン!」 そして友樹くんは、氷の闘士チャックモンに。 アグニモン、ブリッツモンはグロットモンを倒しに向かい、フェアリモンとチャックモンはヴォルフモンを救出しに行った。 遠くのほうで見守ることしかできなかったけれど、みんなかっこよかった。そうか、みんな、いつもこんな風に進化して、そして戦ってきたんだ。 わたしにもスピリット、とかいうのは手に入れることができる日は来るんだろうか。ひとりだけこの世界に来るのが遅かったし、そもそもわたしはあのメールを削除したし、手に入れたところで戦える自信なんて皆無だった。 十二あるスピリットのうち、味方は火、光、雷、風、氷の五つ。敵は土の一つ。じゃあ、残りの六つはどうなんだろう。もう敵とか、あるいは他にわたしたちのようにデジタルワールドに迷い込んできた子供が手にしていたりとか、するのかな。 最初はただ家に帰りたかった。けれど、皆は、戦っている。――わたしにも、何かできることはないのか、わたしだって、何か――。 「……雨だ」 雨が降り始めた。一滴雨水が頬を濡らしたのがはじまりで、雨は次々と降り始めていく。音も最初はぽつん、だったのにザアッ、という風に変化した。 「へっくしっ」 「想はん、風邪かまき?」 「カゼって、フェアリモン?」 服にも雨が染みこんで重くなっていくし、くしゃみも出てしまう。ボコモンは心配してくれているのにネーモンはノンキに風の闘士の名を挙げた。 一応山壁の盛り上がってるところの下に隠れて、雨に濡れないようにする、けどもうあんまり意味がないようなきがした。 「ミョルニルサンダー!」 ブリッツモンが土砂で崩れかけている部分にアタックして、それをグロットモンのいる場所に落ちるように仕向ける。グロットモンはそれに巻き添えになり、谷へ落ちて行くのがみえた。 「やった!」 「これでカラツキヌメモンたちの危機も去ったな!」 「あ、これは!」 さっき落ちていった山壁のしたには、デジコードがあった。どうやらこの地層まるごとがデジコードだったみたいで、グロットモンは山壁から顔を出して、にやっとした。 「お陰で見つかったぜ! いただく!」 「そうはさせるかぁ!」 ブリッツモンたちは、それを食い止めようとする。 ところが、グロットモンは「ビーストスピリットォ!」と言って、小さなコマみたいな物を突き出した。スピリットは分かるけど、け、獣って何、どういうこと! 「グロットモン! スライドエボリューション!」 どういうこと、とか、新たな進化ができるの、とか、違和感でいっぱいだった。 「ギガスモン!」 グロットモンの姿は、デジコードに包まれ変わっていき、筋肉ムキムキのモグラみたいなデジモンになっていった。 な、なんで!? 二つスピリットを持っている、ってこと……!? 「ハリケーンボンバー!」 「うわぁっ!!」 グロットモンは自分の身体ごと回転させて、みんなに襲いかかってくる。そして、みんな吹き飛ばされていく。 「みんなっ!!」 「ボクにつかまって! ツララララー!」 チャックモンは身体を氷のようにして、大きなツララになった。 ギガスモンはわたしとボコモン、ネーモンのところまで飛んできて、二人は一気に落下した。 「うわあああああ!」 「ボコモン! ネーモン!」 隣にいたボコモンとネーモンが落ちていく。わたしのいた柵の部分だけは、奇跡的に無事だった。二匹を受け止めてくれたのは、フェアリモンとブリッツモン。なんとか助かった様子をみて、とりあえず安心した。 ギガスモンはもう一回スライドエボリューションしてグロットモンになると、スピリットを手にしていながらその程度か! と高笑いし、再びスライドエボリューションでギガスモンになる。 「……っ、そんなに見せびらかさないでよ! 最低!」 そんなあんたの進化なんか何回も見たくないよ!! とわたしは思った。 「ケルビモン様の名において、このデジコード貰った!」 ギガスモンは山のデジコードを取り込んでいった。山はめきめき崩れていく。そんな、せっかく助けたのに――! 「うわあああっ」 ギガスモンがデジコードを取り込んだために、山は消えてなくなり、みんな深い谷底へと落ちていく。 アグニモン、ヴォルフモン、チャックモンが一緒に、フェアリモン、ブリッツモン、ボコモン、ネーモンがそれぞれ一緒に落ちていくのがみえた。 山が崩れてしまったから、落ちていくのはわたしも同じだった。雨に強く打たれ、更に落ちるスピードが加速していくような感覚までする。 みんなは誰かしら一緒にいる。でも、わたしだけ、これじゃあ一人ぼっちだよ。どうすればいいの、こわいよ。落ちたら死んじゃうよ。 「こ、こわいようっ!」 深いふかい谷へ落ちていくなかで、わたしの意識はぷつりと切れた。 110505 NOVEL TOP ×
|