夕陽の約束
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故郷消滅! 地獄の使者スカルサタモン
 既に陽は沈みかかっている。わたしたちは、そのオレンジの中にいた。
 わたしがおもうのは、デュークモンさんのこと。


「……彼は、同じ、ロイヤルナイツなのに、デュナスモンたちみたいにコードを奪ったりしていない。けれど、わたしたちに味方してくれている訳でもない」
「ふうむ。一体、何を考えとるのかのう」
「そう、だからわたしはそれが知りたいと思ったの」


 どうして、ここまで追い詰められているのに。デュークモンさんだってきっと強いはずだ、それなのに彼はデュナスモンたちを止めようとは思わないんだろうか。
 どうして、色の闘士であるわたしの前に姿を現したのか。


「でも、デュナスモンもロードナイトモンも、デュークモンのことは知っていたんだろ」
「うん。……なんだか、デュークモンさんを憎んでいるみたいだった」

 輝一くんの言葉に、わたしは頷いた。
 デュナスモンがわたしを締めた手からは、とてつもない負の力が感じ取れた、ような気がした。

「……何でだろう、な。……結局、はじまりの街もスキャンされたし」
「デジタマを守るのに精一杯だったわ」
「そうだな、」
「負けたも同じだ」
「……うん、何も出来なかった」

 そうだ。
 いくらデジタマを守れても、エリアは守れないままだった。

「何を言っとるんじゃい! あんたさんたちは、スピリットを受け継いどるんじゃ! 昔の伝説のように、この世界を救えるんじゃはら!」
「昔と今は違うと思うよ」

 ボコモンは、ネーモンをゴムパッチンする。
 ボコモンはわたしたちを励ましてくれた。わたしは、デジヴァイスを見た。確かに、シキモンたちはここにいる。
 ――シキモン、わたしはどうしたらいいんだろうね。

 
「……感じる。伝説の闘士のスピリットは、ここに生きている。皆で協力すれば、勝てる可能性はある」
「ああ、俺も感じる」

 拓也くんと輝二くんがそう言ったところで、ポヨモンというデジモンさんたちがいっぱい飛んできた。

「ポヨモン、どうしたんじゃい! 泣いてちゃ分からんぞい!」
「ほのおのまちが! けされちゃうよう!」
「なんじゃって!」

 ボコモンの故郷が、そこらしい。
 炎の街の近くの森もスキャンされそうになって、それは怖いデジモンがやって来たからだとか。きっと、デュナスモンたちのせいだ。
 ポヨモンたちはそれだけわたしたちに教えると、空を飛んで逃げていった。ボコモンは、ショックのあまりよろける。


「あの、炎の街が……」
「俺が初めて、デジモンになった森が……」

 わたしには分からないけれど、二人にとっても、思い入れのある街らしい。

「……その怖いデジモン、って」
「ロイヤルナイツに違いないぜ!!」

 わたしと同じことを、友樹くんと純平さんも思っていたみたいだった。

「消滅なんかさせるか!」
「そうよ、皆で守るのよ!」


 輝二くんと拓也くんの声が重なり、泉ちゃんも戦う意志を示す。
 その時、タイミングよくトレイルモンのアングラーがやって来た。



*

 そうして、わたしたちはトレイルモンに揺られて夜を過ごす。がたんごとん、と音が聞こえるたびに、わたしは不安になった。
 皆は既に寝ている。わたしはといえば、一人だけで違う車両に移り窓の外を見ていた。
 壊れかけの世界を、もっと知らなくちゃいけない。わたしは弱いから、こうでもしなきゃまた逃げてしまう。


「……想」
「あ、輝二くん」

 輝二くんが、車両のドアを開けた。彼がこうしてかなしそうにわたしを呼ぶのは、何度めだろう。輝二くんはわたしを心配してくれている。それにも関わらずわたしは一人で考えている。
 輝二くんは、わたしの隣に腰を下ろした。


「なあ。……俺、ケルビモンを倒した時、お前を守るなんて言ったろ」
「う、うん。覚えてるよ」
「けど……、今の俺は、何も出来ていない」
「そんなことないよ。一生懸命戦ってるし、」
「違う……、今のままではダメだ。ロイヤルナイツだって、あんなに強いし、想を不安にさせている」


 輝二くんはわたしの言葉を打ち消すように言った。
 そんなことを言われても、もちろん輝二くんは悪くない。一人じゃ何もできないくせに、わたしが勝手なことを思っているだけだ。


「……そんなの、わたしが弱いからだよ。輝二くんは頑張ってるもん」
「いや、想……、ごめん」
「わたしも、輝二くんに心配ばかりかけてる、ね。強くならなきゃいけないのに。……いまは、すべてがこわい」


 恐怖のぜんぶが夜の空に溶けて、消えてしまえたらいいのに。
 わたしは、今のわたしが嫌だったし、ロイヤルナイツが、失われていく大地が怖かった。

「想……、大丈夫だよ」

 輝二くん、そんなにかなしそうな顔をしないでよ。
 それを言いたいのに、わたしは「ありがとう」と頷くことしかできなかった。

 ――あなたがかなしいと、わたしもかなしいよ。
 でも、あなたがかなしいのは、わたしのせいだね。
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