生命は其処にあるだけで美しい
[4/4] 「ッ、!」 「想! よせ!」 わたしはロイヤルナイツの元へ走りだしていた。足がもつれて、転びそうになる。視界は涙でにじんでいる。純平さんがわたしを止めたけれど気にしていられない。 それでも、わたしは足を止めなかった。 「もう、やめて!」 「想、っ!」 デュナスモンはわたしを睨む。 わたしは二人を庇うように前に立ちはだかる。涙目な上に、足はがくがく震えている。 「こんなことして何になるっていうの、皆、住む場所もなくなって殺されてるのに……! どうして……ッ!」 「無意味な問いだな。ルーチェモン様に捧げられる為に生命を散らすのだ。美しいではないか」 「そんなこと、わたしは赦さない。……っ、生命は、生きているから美しいんだよ!」 「はっ、たわけたことを」 生きている。わたしも、皆も、デジモンたちも。 こうしてここに立っているだけで、怒りと哀しみがふつふつと沸き上がってくる。それはつまりわたしが生きているからだ。 デュナスモンも、ロードナイトモンも、どうしてこの感情が分からないのか! 「お前たちは面白いな。どうして、自分たちより人の命を護ろうとする」 「お前たちこそ、どうして全てを破壊したいんだ!」 「ルーチェモン様の意志だからだ。力による支配こそ、デジタルワールドに秩序をもたらす」 「お前たちこそ、自分の意志よりルーチェモンの意志で動いているじゃないか!」 「何……? まだ減らず口を叩ける余裕があるようだな。全員、まとめてトドメを差してやる」 「ブレス・オブ・ワイーバン!」 デュナスモンの技が放たれた。「これまでなのか?」拓也くんがつぶやく。 結局、わたしたちは、ここで、死ぬの、か。――その時、背後からたくさんのシャボン玉が現れた。 振り返ると、そこには、タマゴから孵った幼年期デジモンの皆がいた。皆が、泡で立ち向かっていた。 「みんな、……!」 プニモンやバブモンが、一生懸命泡で立ち向かおうとしている。 それと同じくして、泉ちゃんとトレイルモンがやって来た。皆がトレイルモンに、タマゴを運んでいく姿が見える。 デュナスモンの技も、泡に消された。 「小賢しい真似を」 「まとめて再びタマゴに戻してやる」 「やめろ!」 「この子たちに手を出すな!」 「そんなこと、させない!」 「死ね!」 デュナスモンとロードナイトモンが近付く。 またしても追い詰められた時、今度は泉ちゃんたちが駆けていく方からタマゴが飛んできた。 それと同じくして、輝二くんと拓也くんのデジヴァイスが光りだして、そして悪の闘士だった彼らが現れる。 ラーナモンも、グロットモンも、メルキューレモンも、アルボルモンもいる。そして、もちろんヤタガラモンも。 「オレたちを……」 「助けてくれるのか……?」 「もしかして、闘士の力をすべて合わせれば!」 「そうよ!」 「よし、進化だ! スピリット・エボリューション!」 「アグニモン!」 「ヴォルフモン!」 「レーベモン!」 「フェアリモン!」 「ブリッツモン!」 「チャックモン!」 「シキモン!」 そうして、わたしも皆も人型の闘士になった。 シキモンたちは、ロイヤルナイツを取り囲む。――すべての闘士が、揃ったんだ。 「行くぞ! バーニング・サラマンダー!」 アグニモンの掛け声にはじまり、皆必殺技を放つ。 「色即是空!」 「甕布都神!」 シキモンも攻撃し終え、一番最後にヤタガラモンが必殺技をロイヤルナイツに喰らわせた。 すべての闘士の力がぶつかり、虹色になる。ロイヤルナイツは、空に飛んで攻撃を避けてしまった。 「仕方ない、ここは退くほうが利口だな」 「チッ、手ぶらで帰れるかッ!!」 デュナスモンが空中で手をかざす。辺りは、すべてコードになってしまった。そして、デュナスモンはコードをスキャンしていく。 「ルーチェモン様の元へ……トランスミッション!」 「はじまりの街が……!」 結局、はじまりの街は奪われてしまった。 それでも、タマゴは全て守りぬくことができたんだ――。 「タマゴは守り切ったぞい……っ」 「これも、ラーナモンたちのお陰ね」 「ヤタガラモン……、」 わたしはヤタガラモンを見た。彼は、笑ってくれているような気がした。 そうして、かつての悪の闘士と世の闘士は消えて、輝二くんたちのデジヴァイスへ戻っていく。 「何だったんだ、今の……」 「奇跡だよ、きっと」 「お礼くらい言いたかったなあ……」 「俺たちを守ってくれたんだもんな」 「敵として戦ってたのにな」 「生まれ変わるのさ……、人も、デジモンも」 何度も傷付けられ、倒されそうになった。でも、その彼らが結果としてわたしたちを助けてくれた。 人間界に帰ったら、望ちゃんにこのことを教えようと思った。 終わりがなければ、始まりはないんだ。 トレイルモンが次々に出発していく。 スワンモンさんはどうしたんだろう、と思っていると、トレイルモンの一台がわたしたちの目の前で止まった。スワンモンさんはそこに乗車していた。 「私も行きます……今まで本当にありがとうございました」 「お礼なんて、いいよ」 「元気でね、バブモン」 「ばぶーっ」 スワンモンさんはバブモンとプニモンを抱えていた。 わたしは、そこに近づいた。 「プニモン、ばいばい。……スワンモンさん、わたしこそありがとうございました」 「ぷー! ぷー!」 そこで、トレイルモンは走りだしてしまう。プニモンも、バブモンは大泣きで、スワンモンさんも静かに泣いている。 わたしも、同じくらい泣きたい気持ちだった。失われつつある世界で希望の光を見ることが出来たから、なんだろう。 「早く取り戻してやらないとな……。デジモンたちが、安心して生まれることが出来る、場所を。……それと、想が泣かなくてもいいように」 「え」 わたしは、拓也くんを見た。拓也くんは苦笑していた。私を心配してくれていたんだ。 ふと輝二くんの方を見ると、彼は俯いていた。どういう表情をしているのか、分からなかった。 「ありがとう。わたしには何も出来ないから、二人には頑張ってデジタルワールドを救ってほしいよ」 「ああ、心配すんなって! なあ、輝二?」 「あ、ああ。そう、だな」 突然に話題を振られたからなのか、輝二くんは驚いていた。 わたしは戦えないから、こうして二人に頼むだけしか出来ない。それがもどかしい。 「ねえ、皆」 けれど、ロイヤルナイツを倒す前にわたしは、彼に会いたい。 「……わたしは、デュークモンさんに会いたいの」 彼岸の先にいる、彼に。 131104 やっとこさ更新できました〜 NOVEL TOP |