生命は其処にあるだけで美しい
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「ッ、!」
「想! よせ!」

 わたしはロイヤルナイツの元へ走りだしていた。足がもつれて、転びそうになる。視界は涙でにじんでいる。純平さんがわたしを止めたけれど気にしていられない。
 それでも、わたしは足を止めなかった。


「もう、やめて!」
「想、っ!」

 デュナスモンはわたしを睨む。
 わたしは二人を庇うように前に立ちはだかる。涙目な上に、足はがくがく震えている。


「こんなことして何になるっていうの、皆、住む場所もなくなって殺されてるのに……! どうして……ッ!」
「無意味な問いだな。ルーチェモン様に捧げられる為に生命を散らすのだ。美しいではないか」
「そんなこと、わたしは赦さない。……っ、生命は、生きているから美しいんだよ!」
「はっ、たわけたことを」


 生きている。わたしも、皆も、デジモンたちも。
 こうしてここに立っているだけで、怒りと哀しみがふつふつと沸き上がってくる。それはつまりわたしが生きているからだ。
 デュナスモンも、ロードナイトモンも、どうしてこの感情が分からないのか!


「お前たちは面白いな。どうして、自分たちより人の命を護ろうとする」
「お前たちこそ、どうして全てを破壊したいんだ!」
「ルーチェモン様の意志だからだ。力による支配こそ、デジタルワールドに秩序をもたらす」
「お前たちこそ、自分の意志よりルーチェモンの意志で動いているじゃないか!」
「何……? まだ減らず口を叩ける余裕があるようだな。全員、まとめてトドメを差してやる」


「ブレス・オブ・ワイーバン!」

 デュナスモンの技が放たれた。「これまでなのか?」拓也くんがつぶやく。
 結局、わたしたちは、ここで、死ぬの、か。――その時、背後からたくさんのシャボン玉が現れた。
 振り返ると、そこには、タマゴから孵った幼年期デジモンの皆がいた。皆が、泡で立ち向かっていた。


「みんな、……!」


 プニモンやバブモンが、一生懸命泡で立ち向かおうとしている。
 それと同じくして、泉ちゃんとトレイルモンがやって来た。皆がトレイルモンに、タマゴを運んでいく姿が見える。
 デュナスモンの技も、泡に消された。

「小賢しい真似を」
「まとめて再びタマゴに戻してやる」

「やめろ!」
「この子たちに手を出すな!」
「そんなこと、させない!」

「死ね!」


 デュナスモンとロードナイトモンが近付く。
 またしても追い詰められた時、今度は泉ちゃんたちが駆けていく方からタマゴが飛んできた。
 それと同じくして、輝二くんと拓也くんのデジヴァイスが光りだして、そして悪の闘士だった彼らが現れる。
 ラーナモンも、グロットモンも、メルキューレモンも、アルボルモンもいる。そして、もちろんヤタガラモンも。

「オレたちを……」
「助けてくれるのか……?」
「もしかして、闘士の力をすべて合わせれば!」
「そうよ!」
「よし、進化だ! スピリット・エボリューション!」

「アグニモン!」
「ヴォルフモン!」
「レーベモン!」

「フェアリモン!」
「ブリッツモン!」
「チャックモン!」
「シキモン!」

 そうして、わたしも皆も人型の闘士になった。
 シキモンたちは、ロイヤルナイツを取り囲む。――すべての闘士が、揃ったんだ。

「行くぞ! バーニング・サラマンダー!」

 アグニモンの掛け声にはじまり、皆必殺技を放つ。

「色即是空!」
「甕布都神!」

 シキモンも攻撃し終え、一番最後にヤタガラモンが必殺技をロイヤルナイツに喰らわせた。
 すべての闘士の力がぶつかり、虹色になる。ロイヤルナイツは、空に飛んで攻撃を避けてしまった。

「仕方ない、ここは退くほうが利口だな」
「チッ、手ぶらで帰れるかッ!!」


 デュナスモンが空中で手をかざす。辺りは、すべてコードになってしまった。そして、デュナスモンはコードをスキャンしていく。

「ルーチェモン様の元へ……トランスミッション!」
「はじまりの街が……!」

 結局、はじまりの街は奪われてしまった。
 それでも、タマゴは全て守りぬくことができたんだ――。

「タマゴは守り切ったぞい……っ」
「これも、ラーナモンたちのお陰ね」
「ヤタガラモン……、」

 わたしはヤタガラモンを見た。彼は、笑ってくれているような気がした。
 そうして、かつての悪の闘士と世の闘士は消えて、輝二くんたちのデジヴァイスへ戻っていく。


「何だったんだ、今の……」
「奇跡だよ、きっと」
「お礼くらい言いたかったなあ……」
「俺たちを守ってくれたんだもんな」
「敵として戦ってたのにな」
「生まれ変わるのさ……、人も、デジモンも」


 何度も傷付けられ、倒されそうになった。でも、その彼らが結果としてわたしたちを助けてくれた。
 人間界に帰ったら、望ちゃんにこのことを教えようと思った。
 終わりがなければ、始まりはないんだ。

 トレイルモンが次々に出発していく。
 スワンモンさんはどうしたんだろう、と思っていると、トレイルモンの一台がわたしたちの目の前で止まった。スワンモンさんはそこに乗車していた。


「私も行きます……今まで本当にありがとうございました」
「お礼なんて、いいよ」
「元気でね、バブモン」
「ばぶーっ」

 スワンモンさんはバブモンとプニモンを抱えていた。
 わたしは、そこに近づいた。

「プニモン、ばいばい。……スワンモンさん、わたしこそありがとうございました」
「ぷー! ぷー!」

 そこで、トレイルモンは走りだしてしまう。プニモンも、バブモンは大泣きで、スワンモンさんも静かに泣いている。
 わたしも、同じくらい泣きたい気持ちだった。失われつつある世界で希望の光を見ることが出来たから、なんだろう。


「早く取り戻してやらないとな……。デジモンたちが、安心して生まれることが出来る、場所を。……それと、想が泣かなくてもいいように」
「え」

 わたしは、拓也くんを見た。拓也くんは苦笑していた。私を心配してくれていたんだ。
ふと輝二くんの方を見ると、彼は俯いていた。どういう表情をしているのか、分からなかった。

「ありがとう。わたしには何も出来ないから、二人には頑張ってデジタルワールドを救ってほしいよ」
「ああ、心配すんなって! なあ、輝二?」
「あ、ああ。そう、だな」

 突然に話題を振られたからなのか、輝二くんは驚いていた。
 わたしは戦えないから、こうして二人に頼むだけしか出来ない。それがもどかしい。

「ねえ、皆」

 けれど、ロイヤルナイツを倒す前にわたしは、彼に会いたい。

「……わたしは、デュークモンさんに会いたいの」


 彼岸の先にいる、彼に。



131104
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