壊れかけた星で
[2/4] 「クソッ! 閉じ込められた……!」 「あいつら、ルーチェモンの手下のロイヤルナイツだよ」 「キーって、一体なんのことだ? 想も、大丈夫かよ」 「……あ、うん、わたしは平気、へいき」 勝春くんに心配されたので、わたしは笑ってみせた。彼が気になったのはわたしとロイヤルナイツとのやり取りのことなんだろうけれど、説明する気にはなれなかった。 「……! おお、勝春!」 後ろから声がした。振り返ると、そこにはマメモンさんの大群がいた。 彼の名前を呼んだのは、長老みたいな、ひげの生えたマメモンさんだった。 「マメモン!」 「皆傷だらけ……」 「長老、何があった!?」 「ロイヤルナイツが、人間たちがキーの在り処を知ってると思い込んでるんじゃ!」 「何でオレたちが……!?」 「キーって?」 千晶ちゃんが尋ねると、マメモンの長老さんは語り始めた。 「マメモン一族に伝わる言い伝えがあるんじゃ。『大いなる豆の樹が光を宿し、村に豊かな実りを約束する!』」 マメモン一族は、放浪の末この地にたどり着いた。生活は苦しく、蓄えも底をついた。 その時、勝春くんたちがたまたまここを通りがかり、マメモンさんたちは最後の豆を彼らにもてなした。 「そして、別れ際に勝春たちが広場に植えた豆が、みるみるうちに成長して豊かな実りを、村にもたらしたんじゃ」 「え!? オレたちの植えた豆が!?」 「お陰で生活は楽になり、村は豊かになった。そこに、ロイヤルナイツがやって来たんじゃ」 ロイヤルナイツはデジタルワールドの大地をデータ化していったけれど、この一帯だけは、豆の木が根を張っていたからロックされていた。 「大いなる豆の樹が光を宿し、村に豊かな実りを約束する。そのキーを摘むとき、大地は再び眠りにつくだろう」 その言い伝えをロイヤルナイツが聞きつけて、キーを探し始めたらしい。 でも、勝春くんたちもそのキーとやらに心当たりはなかった。 「とにかく、何とかしてここを脱出しないと……」 友樹くんが、上の方にある鉄格子を見つめた。 そこからは、地上の光が差し込んでいた。 「進化して壊せばいいかな……?」 「それなら僕に任せて! スマイリーボム!」 「わあ、ありがとう!」 わたしが進化しようと思ってデジヴァイスを取り出した時、マメモンの一匹が飛び出した。 鉄格子に向かって必殺技を放つ。何度かそれを繰り返していると、鉄格子が壊れた。 「やったあ!」 「さあ、今のうちに……うッ!?」 「長老!」 先に出ていた長老さんが、ロードナイトモンのリボンに絡め取られ、そして投げられてデュナスモンに捕まってしまう。 デュナスモンは片手で長老さんを人質に取る。 「まだ逃げ出す元気が残っていたとはな……」 「長老さんを、返して! スピリット、」 「ふん」 わたしはデジヴァイスを手にかざした。その時、ロードナイトモンのリボンにわたしも捕まってしまい、地面に投げ出された。手も拘束されてしまって、身動きが取れない。 「は、放して……ッ!」 「二人を放せ!」 「……さあ、キーの在り処を言え」 「し、知らないって、言ってるじゃない!」 わたしがそう叫んでも、聞き耳持たずといった様子だった。 どうしてわたしは何も出来ないのか。わたしと同じように捕まった長老さんは、ワシのことはどうなっても良い――! と言い出した。そんなこと言わないで、もう誰も死なせたくはないのに。 世界を守りたいとか、思っていることは壮大なくせに、わたしは非力だった。 「どうして、こんなことするの。デュークモンさんならきっと……!」 こんなことはしないはずだ。そう言おうとしたとき、デュナスモンがわたしをきっ、と睨んだ。 デュナスモンは、長老さんを掴んでいない方の手で、わたしを掴む。ああっ! と友樹くん、勝春くんたちが声を上げる。 「まだ、その名を言うか。……いいか、デュークモンはお前が思っているような奴ではない。あいつは、逃げたのだ」 「逃げた、って何から……」 「すべてから」 デュナスモンはそういうと、わたしの腕をつかんだ。ぎり、と力を加えられる。泣きそうなくらい、痛い。 皆の方を見れば、友樹くんはポケットに手を入れる。進化しようとしているみたいだった。 「想さ……、わああ!」 「友樹!」 ――それを、先ほどわたしがされたのと同じように、ロードナイトモンがリボンで締め上げる。 友樹くんは地面に投げ出され、――わたしも勝春くんたちも見ているだけしか、出来なかった。 「ッ、友樹くんを、放して……!!」 痛みで呼吸が上手く出来ない。わたしはデュナスモンに叫ぶ。 「……何故、お前が世のスピリットを持つのか」 「……っ」 くるしい、いたい。 デュナスモンからは、明らかな憎しみが感じられた。 「その辺にしておけ、デュナスモン」 「ロードナイトモン……。しかし、このガキは世と色のスピリットを持っている」 「――我らは、人間界へ向かうのだろう」 ロードナイトモンは、淡々と言った。その瞬間、デュナスモンの呼吸が、止まったように感じられた。 「……ふん、」 デュナスモンがその一言に何を思ったのかは分からない。けれど、デュナスモンはわたしを解放した。 そして、まるでモノみたいに地面に落とされる。 「想、さん……」 「想まで、こんな目に遭って……!!」 「ご、ごめんね、頼りなくって……」 皆がわたしを心配してくれていた。 わたしはなんだかぐったりして、もう起き上がることができなかった。 でも、わたしが解放されても長老さんは捕まったまま。デュナスモンは、長老さんを握っていた手をわたしたちに突き出した。 「長老を離せ! どうしてこんなにひどいことをするんだ!」 「お前たちがキーの在り処を言わないからだ」 「――どうして、お前たち人間が、デジモンを庇うような真似をするんだ」 「マメモンは……お腹が空いていたオレたちに、豆のスープをご馳走してくれた。初めて会ったオレたちの為に、大切な村の蓄えを犠牲にしてまで――。マメモンは、オレたちの友達なんだ!」 鉄平くんたちや、マメモンさんもその勝春くんの言葉に続いた。 ロードナイトモンが、手をかざす。すると、勝春くんにデジコードが浮かび上がった……! 「何だ、これ……!?」 「人間のデジコード。美しい……。スキャンしたら人間もタマゴになるのかな」 「スキャン? タマゴ……?」 「やめろおおっ!」 友樹くんの叫びも無視して、ロードナイトモンは勝春くんに向かって歩く。わたしも、手を伸ばす。けれど、届かない。また、何も出来ないまま、終わるのか。 ――どうしてわたしは何も出来ないの――ッ! NOVEL TOP ×
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