みてるだけしか
[3/4] 「人質がいるのは、この辺りだ」 そう言って、輝二さんは地図の山のひとつを指差す。 一応作戦会議の輪の中に加わってはいるものの、戦えないわたしはそれを受動的に見ているだけだった。 壁にはカラツキヌメモンさんが何匹も張り付いて、その様子を不安気に見ていた。うわーーすごく気持ち悪い。 「大丈夫だって、なんてったって伝説の闘士が五人もいるんだから!」 純平さんがカラツキヌメモンさんに対してそれを言うと、カラツキヌメモンたちはおののき、後ろへ後退する。か、カベに張り付いてるのが下がってく様がめっちゃ気持ち悪い!! で、伝説の闘士が……とかなんとか呟きながら、カタツムリモンは何やら相談をし始めた。 「どうしたのかな?」 「伝説の闘士を目の当たりにして、驚いているのかもな」 「サインせがまれたりしてね!」 それにしてもカラツキヌメモンがやたら焦りまくってるのが気になる。 「し、失礼しました……」 「よっし、それじゃぁさっそく行こうぜ!」 「いや、もうすぐ日も暮れますし、じっくり明日……」 というわけで、わたしたちは今晩は休み、明日戦うことになった。 暗闇の中にはうさぎが一匹、佇んでいた。いや、それを本当にうさぎと呼んでいいのか、わたしに判別はつかないのだけれど――もしかしたら、デジモンかもしれない。でも、頭の中がボンヤリしていて、正しい判断をすることが難しい。 ここがどこかは分からない。真っ暗だから、だ。 「こっちだよ、早く」 誰かの声が、聞こえた。誰かが私を急かしている。わたしはうさぎの元へ走っている。うさぎの横には、いつの間にか男の子が居た。顔はよく見えない。けれど、赤い眼をした、男の子だった。どこかで見たことがある。いや、私はこの子を知っている。どこかで、わたしはこの子を見たことがある。ああ、そうか。この子は―― 「おいこらァ! 起きろ!」 カラツキヌメモンの怒声で眼が覚めた。何か夢を見ていたような気がするのに、その声で途端に思い出せなくなった。見ればなぜか体はロープでくくられていて、辺りを見渡すと下は何もない。――身体がロープで吊り下げられていると理解したのは、すぐだった。 「た、たすけて……っ」 気が失いそうになる。身体を揺らしても、こんな頼りないロープでつないであるのみ。死に急ぐだけに決まっていた。 「おい、どういうワケだ!」 「お前たちと娘たちを、人質交換する!」 い、意味わかんないよう! 「そのためにオレたちを呼んだのかよ!」 「最初は親切な方だと思っただ! それがよりによって伝説の闘士とは――危うくだまされるとこだったわい」 な、なんでっ。伝説の闘士は、古代の世界を救ったデジモンで、拓也君たちはその力を受け継いだ人なんじゃないの!! 「言ってる意味が分かんなぁい!」 「こ、こわいよーっ。まさかわたしがカタツムリきもいとか思ってるのバレたとか!?」 「違うわ! っちゅかそんな風に思われてたんかおらたちは!!」 恐怖のあまり涙がぼろぼろこぼれ出す。どうしてこんなことになっちゃうんだよ! か、カタツムリなんか嫌いなのに。 「ふん、仲間と引き換えならグロットモンも交渉に応じるじゃろ!」 「仲間って、誰と誰がだ!」 「とぼけるな! お前らとグロットモンがだァ!」 「えっ!」 思考停止。ぐ、グロットモンとかいうのって、だからカラツキヌメモンをさらったデジモンじゃないの! 話が通じないよお。 すると今度は、山壁が吹っ飛んで、丸い穴があく。わたしたちが呆気に取られていると、そこから声が聞こえてきた。 「デジコードの場所を教える気になったかァ?」 「誰だ!」 影はゆっくりと近づいてきて――ついにそこからデジモンが現れた。 「バトルやらせりゃ土付かず! 伝説の闘士の一人、土のグロットモンよ!」 ご丁寧に自己紹介付き。土付かず、というわりにはあまり強そうに感じない、背の低くて鼻がモグラみたいなデジモンがそこにはいた。 って、これも伝説の闘士なの……!? 「伝説の闘士に、悪いやつがいたなんて!」 ボコモンの話では、スピリットは、十二あるはず。そのうちの一人が敵、だなんて。もしかしたら他にもいるかもしれない……!! 「グロットモン、こいつらを返して欲しかったら、娘を返すだ!」 そう言うカラツキヌメモンの手には鎌が輝いている。でも肝心のグロットモンは、わたしたちの方を見ても誰だこいつ、というだけだった。わたしたち側としても、こんなやつ初めて会ったのに。 「やだ……!」 鎌を見たことで、わたしは更に涙が止まらなくなってしまった。 「ワケ分からん! そいつらがどうなろうと、オレの知ったことか!」 「お、同じ伝説の闘士だべ!」 「ん? はぁ〜ん? そいつらがスピリットを得た人間ってわけか! 丁度いい、こいつらのスピリット、オレがいただくか!」 やばい。この状況じゃみんなは進化できないし、そもそもわたし、一切戦えない。どうしよう……。 そう思って怯えていると、「くらえェェ!」とグロットモンのハンマーがわたしたち目がけて飛んでくる。 「どういうことっぺが!? 仲間じゃないのか!?」 「最初からそう言ってるのにぃいっ!」 カラツキヌメモン、なんで分かってくれなかったの! 大きなハンマーは、身をよじらせてなんとか全員無事によけられたけれど、あと少しずれてたら……だめだ、怖い。また泣いた。 カラツキヌメモンは上のほうに避難する。その拍子で、鎌は落ちていく。 NOVEL TOP ×
|