未知に満ちて月
[3/3] 「おーい皆ー! 完成したよー!」 (ボルグモンの)努力の末、ついに設計図が完成した。あ、イナバモンは応援してたよ! だから、設計図を持って皆のところへ向かった。その皆は、というと、大きなクレーターの底を眺めている。 クレーターに刺さっていたのは、ロケットだった。 「仲間たちが実験で使った、ロケットの一つです」 「使えるのか?」 「はい」 バーガーモンさんが答えた。これを再利用すればいいんだ。――ボルグモンの努力は一体とか思ったけど、何も言わないほうがいい、よね。 それから、月の基地に住むデジモンさんたちに協力してもらって、その突き刺さったロケットを引っこ抜いた。改めて抜いてみると、ロケットにはけっこうな大きさがあった。ロケットはどうにかなったとして、問題は打ち上げだ。 「皆ー! ロケットを飛ばす、いい考えがあったよ!」 「チャックモン! どうするんだ?」 それから、スターモンさん、インセキモンさんたちに手伝ってもらってキャタピラを繋いでいく。チャックモンはこうして、大きなパチンコを作ってロケットを飛ばそうとしたみたい。 「電磁ストリームの流れに乗れば帰れるってワケさ! チャンスは一度きり、失敗は許されない! 頑張るんだぜ!?」 スーパースターモンさんがロケットを指さして言った。――失敗は許されないとか、さりげなく怖いことを言わないでほしかった。 「皆、どうもありがとう!」 「あなた達が頼りです、どうぞデジタルワールドの危機を救ってください!」 「もちろん」 バーガーモンさんの言葉に、輝二くんも頷く。 そしてたくさんのデジモンさんたちに見送られ、わたしたちはロケットに搭乗する。ありがとう、お世話になりました。そう心のなかで呟いて、わたしは座席に座った。 黄色と赤の月が重なる。――始まった。心臓がどきどきする。そして、月がまた離れ始める。その次の瞬間、ドン、と衝撃があった。 「わあああああっ」 飛行機の離陸よりも激しく揺れて、重力に逆らっている感じ。身体は下に引っ張られているのに、ロケットは上昇していく。く、くるしい。 それが段々ましになってきたかと思うと、今度は警告音が流れてロケットが落ち始めた。 「どうしたんじゃい!」 「加速が足りないんだ!」 「ようし、オレが行く! スピリット・エボリューション!」 拓也くんが飛び出し、ヴリトラモンになってロケットを下から支えた。そのおかげでロケットは、再び起動に乗ることが出来た。 「やった!」 「……電磁ストリームに突入!」 「うまくいったわ!」 「……いや」 輝一くんが指差す方には、たくさんの小惑星があった。 「うわあああ!」 痛い、ばりばりする、じりじりする。わたしは固く目を閉じて痛みに耐える。し、死にそう。その衝撃も少し耐えるとなくなった。けれど、これだけでもう一杯いっぱいだから、わたしは拓也くんたちが一生懸命小惑星を避けてくれているのを見ているだけしかできなかった。 「面舵一杯!」 「ウワアアアアッ!」 舵を取っても、どうしても近づいてきた小惑星にぶつかる。 そして、ロケットは電磁ストリームの軌道から外れてしまった。ロケットが宇宙空間に投げ出されて、わたしたちもロケットのなかで浮遊する。 「あはっ、楽しい!」 「すごい面白いけどスカートがーっ!」 何もしてなくても身体が浮いちゃって、泉ちゃんもわたしもスカートを抑えなきゃならない。友樹くんみたいに無邪気に喜べなかった。 「……俺たちこのまま、宇宙の藻屑となるのか?」 「やだやだそんなのヤダー! クズになんか、なりたくなーい!」 「やだよー! 何で輝二くんはそんなに冷静なんだよーうっ!」 怖いよ。何で輝二くんはこんなときに冷静でいられるんだ。よく見ると輝一くんも不思議そうに周りを見ているだけだし、この双子おかしいよ。 「どうすればいいんだ?」 「どうすれば……、って」 そのとき、ロケットに衝撃があった。何かと思って後ろを見ると、そこにいたのはトレイルモンのモール。 ロケットは運良くトレイルモンが新しく作った線路の上に留まったみたいだった。 「ねえ、お願い! あたしたちを地上まで押してって!」 泉ちゃんが窓ガラスをとんとん叩いてトレイルモンに言った。彼女は「押すの〜?」とか嫌がっていたけれど、しぶしぶ承諾してくれた。よ、よかった。 それから、トレイルモンはわたしたちをずっと押してくれたのだった。 トレイルモンに押していってもらっている間にも、デジタルワールドの大地は奪われていった。 「ルーチェモン、ロイヤルナイツ……。お前たちの好き勝手にはさせない!」 拓也くんが決心する。わたしも心のなかで頷いて、そして欠けていく世界を見つめていた。 131001 イナバモンはチャックモンより一回り大きいくらいのサイズな感じです。ビーストデジモンだと一番ちっさい。 NOVEL TOP |