未知に満ちて月
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 それから、わたしたちは進化して月面に立っていた。わたしはイナバモンになった。
 最初に、拓也くんの案で片っ端から必殺技を放った。けれど、当然それが届くことはなかった。


「何も起こらないぞ」
「一体、何がしたかったんだ?」
「いや、全員の必殺技で月自体を動かせないかと思って……。うまくいかないモンだねぇ。アハ、ハハハハ!」
「……ああ。もっと現実的な手立てを考えるべきだね」
「……戻りましょう」
「そうだねえ」


 イナバモンのわたしが冷たく言って、フェアリモンはイナバモンの腕を掴んで基地に戻って行く。さすがに月自体が動くなんてことは、ないと思うよ!? 皆もがっくりきていた。やっちゃったねえ、とか笑ってたけど拓也くんってば……!

 それから、わたしたちはどうしたらいいのか考える。チャックモンが一つ案を閃いたみたいだったので、イナバモンはそれを見届ける。
 チャックモンは助走をつけてジャンプをし、デジタルワールドに飛ぼうとしていた。けれど、地面に戻ってしまう。


「うん、私がぶん投げればいいんじゃないかい?」

 何故だか分からないけど、イナバモンもシキモンもやたらと怪力だ。わたしとはえらい違いだ。

「え、本当、イナバモン!」
「やってみよう、それっ」

「ちっちゃくて白いのが頑張ってるー! カワイー」
「ほんとだガンバレー!」
「イ、イナバモン! 外野がすごいよ……!?」

 わたしたちの行いに興味しんしんなのか、いつの間にやらデジモンさんたちがいっぱい集まってきていた。あ、あと白いのはインセキモンも同じだと思うよ!?
 そして、イナバモンのわたしは、チャックモンを掴んで彼を思いっきり投げる。――と、そこにフェアリモンがやって来て「チャックモンが可哀相でしょ!」と叱咤する。思いっきり怒られて、わたしはショックだった。いい案だと思ってたのに!?
 アグニモンが近づいてきて、彼もまた、もうよせと言った。


「イナバモン。ここは俺に任せろ……!」
「ガ、ガルムモン……!」


 ぱああ、っとイナバモンの耳が動く。目もきっときらきら輝いてるイナバモンはどうやら相当感情が表に出やすいタイプのデジモンだったみたい。単純で何だか恥ずかしくなるけれど、わたし(と友樹くん)輝二くんがそんなことを言ってくれる、それだけで何だか嬉しくなってしまったのだった。うう、単純?
 ガルムモンは果敢にデジタルワールドに向かって飛んでいった。あっという間に見えなくなったから、成功したかと思われたけれど、突然にデジタルワールド近くで光が瞬いた。それから、稲妻が走ってガルムモンはびりびり電流に撃たれた。


「ウワアアアアァ!」
「ガ、ガルムモン!!」


 そして、ガルムモンは月面に叩き落とされた。
 俺に任せろ! なんて言ってたそばからこんなことになるなんて。……こ、輝二くん!
 あれに撃たれたガルムモンは、進化が解けてどこかに流されそうになったらしい。えっ、それなのにわたしは何も知らずにチャックモンをそこに投げようとしていたのか。また、ショックになった。


「あれはね、電磁ストリーム」


 すると、インセキモンという、いつか村で見たゴツモンさんを真っ白にしたみたいなデジモンさんたちが電流の正体について教えてくれた。
 どうやら、三つの月の引力によって引き起こされるものらしい。


「生身でアレを超えるのは、まず無理だね!」
「先ほどチャックモンが飛んでいたときに、教えてくれればよかったものを……!」
「あー、あれはあれでかわいいし面白かったしぃ」


 あははー、とインセキモンたちは笑った。い、いや笑い事じゃないと思うよひどいよ。
 生身で超えるのは無理。それなのにわたしたちが月に来れたのは、ロイヤルナイツの攻撃で出来た空間の歪みを通り抜けてきたからだそうだった。


「お星様……お願い! あたしたちを、帰して!」
「フェアリモン急にキャラ変わったなあ」
「イナバモン!」


 素直な感想を述べると、フェアリモンには思いっきり睨まれた。もちろん、ボルグモンにも。うん、何だかイナバモンになっているとやたら思ったことを口にしてしまうみたいだった。

 月に住むバーガモンさんたちも、デジタルワールドにいる仲間のことを心配していた。
 空には欠けたデジタルワールドが浮かんでいる。見えているのに、気軽に行くことはできない。ゴマ島で悩んでいたゴマモンたちみたいだと思った。


「皆、無事かな……」
「……」


 こうしている間にも、データが一つ欠ける。現に今、どこかの大陸の、半島が欠けてしまった。わたしが出逢ったエレキモンさんのいた場所のデータも……、奪われてしまったかもしれない。それに、あそこは崖の先には海が広がっていた。ちょうど、今失われた半島みたいに。確証はないけど、あそこはエレキモンさんの集落なんじゃないかと思ってしまった。
 ――はやく、帰らなきゃ。焦燥に駆られたのか、アグニモンも辺りの岩を殴った。「落ち着け」「落ち着いていられっか!」本当にそのとおりだった。


「ちょっと待って。あなたたちの仲間って、どうやってここまで来たの?」
「弾丸ロケットを使ったんだよ」
「それだ!」


 ボルグモンは、それで閃いたみたいだった。そしてわたしにもイナバモンにもちんぷんかんぷんな数式を、月面に書き始めた。よ、読めない。
 でも、何だか計算しているボルグモンはいきいきしていた。――人間界に戻って、勉強分かんなかったら純平さんに教えてもらおう――。なんて、よこしまな事を思った。


「……おい、これで本当にいいんだよな?」
「ああ! 発射各部よーし、5、4、3、2、1、発射!」
「たーまやー……って、あら」


 ボルグモンはアグニモンを砲口にセットして、彼自体をロケットにして飛ばそうとした。けれど、結果はむなしくアグニモンは月面にダイブしていった。
 ボルグモンはまたうんうん悩んで計算を始める。皆も呆れて、ボルグモンから離れていった。


「イ、イナバモン! お前なら分かってくれるだろ!? 頼むよ!!」
「えー……」


 ボルグモンがきらきらした瞳でイナバモンを見つめる。何だか断りきれなくて、結局ボルグモンと共にロケット計画について考えることになった。数学も理科もそんなに良くないわたしがお手伝い出来ることなんて、部品集めくらいしかなかったけど。
 でも、さすが純平さん、といった具合にロケットは着々と成功し始めている。


「待ってろよ……。俺が必ず皆を連れて帰る!」
「……フェアリモンがここにいたら惚れてたねえ」
「マジで!? フェアリモン呼んできてくれ!」
「えー」


 一生懸命設計図を書いていくボルグモンがかっこよくて、そう言ったら途端にテンションが変わった。いや、でも泉ちゃんの目の前ででこういうこと言ったらいいのに! とか思っちゃうよ。
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