みてるだけしか
依頼主はカラツキヌメモンさんとかいう、カタツムリみたいなデジモン。虫とかそういうたぐいがニガテなわたしにとっては、もちろんカタツムリなんかもニガテの対象だった。き、気持ち悪いからあんま視界に入れないでおこう。[2/4] 「ちょっと、想大丈夫? 顔真っ青よ」 「あ、ありがと、い、泉ちゃん」 さすがにここでカタツムリキモいとか言ったらKYすぎるよね……黙っとかなきゃ。ううつらい。 カラツキヌメモンはトレイルモンの一番後ろにトロッコをロープで取り付けた。それと同時にトロッコは走り出す。揺れて揺れて乗り心地は悪い。でもそれが何回か繰り返されてようやっとトロッコのゆれが穏やかになった。 「平和なおらたちの村に、あるときグロットモンっちゅーやつが来たんじゃ」 「グロットモンは、おらたちにデジコードのありかを教えろっちゅーが、おらたちはそんなもん知らねーだ!」 そんなカラツキヌメモンの山は富士山とかエベレストとか目じゃないってくらい、たっかーい山の上。えっあそこまでこんなよわっちートロッコで行くの……。 「ちょっと、想顔が灰色……」 「た、耐えるよ!」 もー、死にそうだけど。 「山の中のデジコードって、どういうこと?」 「まえにも話したじゃろ、デジタルワールドのエネルギーの源はデータじゃ! 山にも川にも街にもデジコードがあって、それが目に見えない場合もある、ということじゃ!」 へえ。どんなものにも必ずあるのか。じゃあ、外部からやってきたわたしたちの身体にはデジコードってのはあるのかな。 「グロットモンは人質だといって、村の娘たちをさらっていっただ!」 「日本昔ばなしみたい……いまどき」 「想、的はずれだぞ」 「それで娘さんたちを助けるために助っ人を募っていたのね……」 田舎?っぽいところだからこんな話があるのか。それにしてもこんなカタツムリにもオスメスの概念があるんだ……意外だな。 トロッコはどんどん進んでいって、物理的にありえないようなジェットコースターみたいな線路が目に映った。えっあんなところを行くのか。落ちたら死ぬよ。 「うわああっ!」 みんなの悲鳴が聞こえる。な、なんかカラツキヌメモンまで驚いてるんですけど……わたしはといえば悲鳴すら出ない。と、いうか、目の前が真っ暗に……。 「想さあん! 手離したら死んじゃうよお!」 も、だめ、限界、だ。 視界が暗くて、とおくのほうにいく感覚がして、わたしの思考は深くへ沈んでいった。 むかし、親友と遊園地に行ってジェットコースターに乗ったことがある。本当はいちばん大きくて動きの激しいやつに乗りたかったんだけど、ぎりぎりわたしの背丈が足りなくって、結局ちっちゃくて、制限のゆるいおもちゃみたいなジェットコースターに乗った。それでも、ジェットコースターなんて乗ったのはそれがはじめてで、楽しかった。――今乗ったトロッコで思い出してしまった。 意識が戻って目の前にあったのはいろんな色のキャベツと、それを食べる輝二さんの姿だった。 「ま、丸かじりしてる……しかも輝二さんおいしくなさそーに食べて 「想!! 目を覚ましたのね! よかった」 輝二さんの姿を確認したかと思えば、泉ちゃんが飛び込んでくる。起き上がってみてみると、どうやらここはカラツキヌメモンの家らしく、拓也君たちも少し離れたところでキャベツを手にしながら、わたしに「、よかった!」と笑いかけてくる。み、みんな一応心配してくれてたんだ……わたしみたいな人でも。 あれ。でもなんでブアイソー極まりない輝二さんが傍にいるんだろう。輝二さんのほうを見たら、なんか目が合って気まずかった。 「気を失った想を、拓也が背負って連れてきたんだけどね。そしたらこの家に助っ人に来てた輝二くんがいきなり拓也を棒で殴って」 「えっ意味分かんない!」 泉ちゃんがこっそりわたしに耳打ちをする。わたしが意味分かんない、と大声を立てたので泉ちゃんは顔をしかめた。え、というか輝二さんって普通に嫌な人じゃないそれ。だけども、泉ちゃんに「まあ聞いてなさいよ」って言われたから、おとなしくそれに従う。 「輝二くんは腕試しのつもりで棒を使ったらしいのよ。まあ、棒は想にはぎりぎり当たらなかったんだけど……それで輝二くん、悪いな、って思ったみたいで、想の近くにいてくれたのよ」 「……ええええ」 なんか腑に落ちない。だったら、もうちょっとニコニコしてくれたらいいのに。 暗いよ。で、でもお礼言っとこ。もちろん、拓也君にも。 「拓也君、ありがと!」 「平気か? 輝二もひでーよな、いきなりぶっ叩いたんだぜ」 わたしは拓也君の目の前に言って、お礼を言う。ちょっと、緊張するのはひみつだ。 拓也君はピンピンしてるけども、殴られたであろうほっぺたをさする。わたしは輝二さんのとこへ戻った。 「こ、こーじさん、ありがとう?」 本音を言うと、人にありがとうと言うのはニガテだ。人はこわいし、ありがとうと言ったところでこいつ今言うべきじゃないだろう、とか思われたら――とか変に被害妄想が働いてしまう。だからだめなんだ、わたしは。 「……俺も、この間は悪かったな」 「え、何のこと、」 「俺が、先に行っただろ」 それは、そよかぜ村でのことなんだろうか。確かに、輝二さんはわたしが呼んでも、先に行ってしまっていた。いやでも、わたしはそのあと泉ちゃんに腕をつかまえられて、一緒に行動することになった。だから、ちっともそんなこと気にしてなかった。 ――そんなことを謝ってくれるなんて、全く考えつかなかった。 一応、輝二さんはいい人なんだ――表現の仕方が不器用なだけで。 NOVEL TOP ×
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