勝者の歴史
[3/3]

 それぞれデジモンになったわたしたちは、ロイヤルナイツの二体を止めようと彼らに向かっていく。

「お前たち……」
「人間か進化した十闘士と……色の闘士か」
「文句でもあるのでござるか!?」


 ロードナイトモンがシキモンを見る。何だか嫌な気持ちになったので、シキモンは思いっきり彼に睨みつけた。
 シキモンたちは飛び交い、二体に語り掛ける。――何故、コードを奪おうとするのかを。


「この混沌たる世界を治めるため」
「そう、秩序ある統一こそ美しい」

「それが出来るのは、ルーチェモン様のみ!」

 その声が重なる。やたらとこの二体の声は重なる。今のわたしには、それが憎らしく感じられる。
 ブリッツモンが痺れを切らし、デュナスモンとロードナイトモンに向かっていった。他の皆もそれに続いて、シキモンも彼らに向かって拳を構えた。

「色即――、ウッ!?」
「色の闘士。お前が世のスピリットも持っているのだろう」
「そ、それが、何……っ、」


 シキモンがデュナスモンに必殺技を放とうとしたところ、逆に攻撃をされてしまい、シキモンの身体はデュナスモンに掴まれていた。
 痛みと苦しさで、シキモンはうまくしゃべることが出来ない。わたしも、全身が痛かった。


「さあ、世のスピリットを渡してもらおうか。それとも、お前を生贄としてルーチェモン様に捧げようか」
「シキモンを離せ!」

 ベオウルフモンがデュナスモンに飛び出し、他の皆もそれに続こうとした。

「ふん。ロードナイトモン! 俺一人で十分だ! 先にデータを集めるんだ!」
「……分かった。ハアッ!」
「ッ!」


 デュナスモンはロードナイトモンにそう言うと、ロードナイトモンはチャックモンたち皆の攻撃を易々とかわし反撃する。
 美しい時を無駄には出来ないのでな――、とかキザなことを言いながら、ロードナイトモンはバラの花びらを撒いた。いい香りがしたけれど、枯れた世界に咲いた花は不気味だった。
 皆は、その花に打たれる。そしてロードナイトモンはまたデータを奪いに行こうとした。
 デュナスモンは、絶えずシキモンを掴んでいる。

「グッ……、」
「そもそも、世の闘士という存在が理解できん。何故、この世のすべての象徴であるというのに、ルーチェモン様を封印したのか」
「シキモン!」

 アルダモンとベオウルフモンがデュナスモンに刃を向け、シキモンを解放しようとする。
 一方、大地に向かうロードナイトモンにはレーベモンたちが向かって必殺技を放っていた。その時、デュナスモンは手を広げた。
 そうして掴まれていた身体がいきなり宙に浮いたシキモンの手を、ベオウルフモンが取る。

「俺たちの……邪魔を、するな! ドラゴンズ・ロア!」
「ウワアアアアッ!」

 手から放たれた衝撃波が、螺旋を描いてレーベモンたちに襲いかかる。


「皆!」


 レーベモンたちが落ちていく。――このままでは、負けてしまう!
 わたしは振り返ってデュナスモンを睨む。こうなったら、またカイゼルグレイモンとマグナガルルモンになってもらうしか――っ! アルダモンとベオウルフモンは、デュナスモンに攻撃した。でも、デュナスモンはさっきレーベモンたちにやった技と同じものを放った。
 そして、アルダモンもベオウルフモンも落ちていく。


「さて、残るはお前だけになったな。フッ」
「ウガアッ!」


 最後に残ったシキモンも、地面へと叩き落とされた。そうこうしている間にも、ロードナイトモンはこの地のデータを奪い去ろうとしている。
 レーベモンたちがスライド進化する。けれど、シキモンは、わたしは動けずにいた。全身の痛みで身体が言うことを聞かない。


「スパイラル・マスカレード!」
「おのれ、ロードナイトモン……!」


 しかしそれでもわたしは奴を睨むだけで、何も、出来ない。身体ががちがち震えてばかりいる。

「思ったより、手ごわいぞ」
「迂闊な戦いはできないな」


 わたしは、進化を解く。他の皆は、既に攻撃にやられて進化が解けてしまっていたようだった。
 そして、デジヴァイスを取り出した。わたしたちが想うのは、スピリットを輝二くんと拓也くんに託すことだった。


「色は世に、世はすべてに――」


 デジヴァイスから虹色の光が溢れ出して、輝二くんと拓也くんのデジヴァイスにのびていく。わたしはそれを見届けると、足に力が入らなくなってその場に座り込む。


「ふん、面白い。これで我らも本気を出せる」
「美しき汗、流させてもらおう」


 ロードナイトモンはやたらと美しさにこだわるような気がする。――世界をこんなにしている時点で、美しいとは言いがたいけれど。


「到底、敵う相手ではないのだ……」


 バロモンさんはそう言った。けれど、わたしはあの二人を信じていた。現に、進化した二人はどんどんデュナスモンとロードナイトモンを追い詰めていく。
 二人の必殺技で、目の前が火の海となった。――これなら、きっとデュナスモンもロードナイトモンも戦闘不能になるだろう。そう、思った。


「フハハハハ」
「い、いかん!」
「なんで……!?」

 火の海から、デュナスモンとロードナイトモンが現れた。彼らは飛んで、デュナスモンはまた手に衝撃波を貯めていた。

「ドラゴンズ・ロア!」
「アージェントフィアー!」


 逃げて、と言おうにも間に合わない! 「速い!」「馬鹿な!」攻撃に撃たれ、焦る二人の叫びが響く。――見てるだけしか、出来ないなんて。


「カイゼルグレイモン、マグナガルルモン!」


 負けるはずがないと思っていた二人が、負けようとしている。信じていたい、それなのに目の前に広がる光景は絶望だった。


「大宇宙の精霊たちよ、力を……! メテオ・ダンス!」

 バロモンさんが叫び、赤い隕石を放つ。けれど、それすらもあっという間に蹴散らされてしまう。
 それどころか、デュナスモンとロードナイトモンがぶつけてきた衝撃波が、わたしたちに襲いかかってきた。泉ちゃんとわたしは、互いの身を守るように身を寄せ合った。に、逃げられない!


「精霊たちよ、子どもたちを守り給え――!」
「バロモンさ……っ!」
「ガアアアアッ!」

 バロモンさんはわたしたちの前に出て、マントをひるがえした。純平さんは友樹くんを抱えてかがみ、皆も同じよに伏せた。わたしは、動けずにいた。
 まさか、と思った次の瞬間にバロモンさんの断末魔の叫びがした。バロモンさんは、――わたしたちの目の前で亡くなったのだ。
 彼が粒子となって消えていくのを、わたしは見ていた。
 何も考えられなくなっていた。バロモンさんが亡くなり、気付けばわたしは大地に倒れていた。皆もそうだった。わたしの身体にはデジコードが浮いていて、――だから、わたしはもう死ぬのかもしれない、けれど、それも考えることが難しかった、近くで倒れていた輝一くんにはデジコードが浮かんでいなかったけれど、それはダメージが浅かったからなの

 ――闇に意識が落ちていくなかで、わたしはそんなことをおもった。



130926
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