勝者の歴史
[2/3] 「そして……! これが、デジタルワールドの現在!」 穴だらけの大地。枯れてしまった湖。今まさに、消えていく山。二体のデジモンが、山のデジコードを吸っていた。 バロモンさんいわく、ケルビモン様が亡くなってから、デジコードを奪っていくのは彼らだそうだった。きっと、バロモンさんに会う前に消えた山も、あの二体のデジモンの仕業なんだろう。 「ルーチェモンが復活する前に、デジタルワールドのすべてのデータを手にいれなければ、ルーチェモンは復活してしまうのだアァ!!」 バロモンさんの声がむなしく響く。 「予言する! デジタルワールドの終末を……!」 デジタルワールドがビックバンみたいに爆発し、閃光する映像。わたしは、眩しくて瞳を閉じてしまいそうになった。そして、その場に手をついて倒れこむ。 先ほど閉まっていた扉が開き、空間に光の筋が射しこむ。 「お前たちは人間だ、今からでも遅くはない。人間界へ戻るのだ!」 「……オレたちは帰らない!」 拓也くんが言った。そうだ、ここまで来て、帰れるわけがない。 わたしたちは、人間でありデジモンだ。デジタルワールドは、第二のわたしの故郷だった。 ルーチェモンのせいで禍いが起きるならば、わたしたちが、かつての闘士がしてきたようにルーチェモンを封印すれば良いだけのことだ。 「今まではオファニモンやセラフィモンの力でここまで来た。でも、これからはオレたちの力でデジタルワールドを護らなければならない!」 「お、お前たち……」 拓也くんが立ち上がったのを皮切りに、わたしたちは、みんな同じ気持ちで立ち上がる。 「オレたちは伝説の闘士のスピリットを受け継いでいる!」 「あたしたちの手で、ルーチェモンの復活を止めてみせるわ!」 「無駄だ、予言は外れない! ルーチェモンは復活する」 「だったら、ルーチェモンを倒すよ!」 「そうだよ。また、封印すればいいんだよ」 頑ななバロモンさんに、友樹くんとわたしは語りかけた。 「そうだ、オレたちはやるしかないんだ! ……そりゃ、オレたちは人間だ。でも、もう半分はデジモンなんだ!」 わたしも、デジモンに進化して、自分なりに一生懸命戦ってきたつもりだ。 わたしは皆の戦う背中に、勇気をもらえた。そして、シキモンやイナバモンとめぐり合うことができた。その二体のためにも、この世界に住まうデジモンたち皆のためにも、わたしは最後まで戦うことを諦めたくない。 バロモンさんはわたしたちがそんなことを言うなんて思ってもいなかったのか、とても驚いた表情だった。 「駄目だ、予言が……、デジタルワールドは崩壊するのだ!」 その時、開かれていた窓から強烈な光が差し込んだ。 眩しさに目を細めながら後ろを振り返ると、さっきのデジコードをスキャンしているデジモンたち二体の姿が見えた。 あいつら――! と拓也くんが怒りの声をあげる。その時、辺りが揺れだした。 「外へ!」 なんとかわたしたちは外へ脱出することができた。けれど、わたしたちは全員、脱出した直後に崩れた岩に埋もれてしまった。 何とかその中から身を起こして、皆の様子を伺う。――輝二くんも拓也くんも、戦ったばかりで本調子じゃないのに。 「皆、大丈夫!?」 そう言うわたしも、身体を打ちつけてしまった為とても痛かった。 皆は頷いたけれど、それでも痛そうだった。わたしも、きっと同じような表情なんだろう。 それから、急に笑い声が聞こえ出した。笑っているのは、わたしたちではない。声は、煙幕の先から聞こえてくる。二つの影が近づいてくるのが見えた。 「お前たち、何者だ!?」 「ルーチェモン様の正義の為」 「美しき正義の為」 「我らはロイヤルナイツ」 「ロ、ロイヤルナイツ……!?」 その名がここで出てくるなんて。 ロイヤルナイツっていうのは、デュークモンさんが所属しているはずの、集団のことだ。わたしはびっくりしたけれど、彼らはそのまま言葉を続ける。 「情熱の闘士! デュナスモン!」 「孤高の闘士。ロードナイトモン!」 「我らはルーチェモン様の命により、デジタルワールドのデータを集めている」 白い龍みたいな鎧のデュナスモンと、細身でピンク色の鎧のロードナイトモン。彼ら二人の声が重なる。 彼らは目的を告げたけれど、わたしには信じられなかった。ロイヤルナイツって、皆そんなことをしているんだろうか。優しそうに見えたデュークモンさんも、彼らの仲間なんだろうか。 「何故だ……!? 正しき心を持つロイヤルナイツが、何故ルーチェモンに手助けする!?」 「そうだよ……、デュークモンさんも、あなたたちの仲間なの!?」 バロモンさんの動揺する言葉でわたしは思考を止め、直接彼らに訊ねる。 「この世は乱れている」 「それを正せるのはルーチェモン様だけ」 「ああ、乱れているのはデュークモンとて同じことなのだよ、お嬢さん」 「お、おじょ……!?」 ロードナイトモンはそう言ってバラを口元に当てた。こんなデジモンに紳士ぶられても、鳥肌が立つだけだ。 「奴は……、ルーチェモン様の正義からは逸脱している。仲間などではない!」 デュナスモンは何か一瞬言いよどんだような気がしたけれど、大きな声で叫んだ。 ……何だかよく分からないけど、ロイヤルナイツでもデュークモンは彼らの仲間ではないみたいだった。よ、よかった。 「奴にはルーチェモン様の崇高な目的が理解できないのだ!」 「このエリアのデータ、もらった!」 「やめろぉー!」 拓也くんが駆けだす。わたしたちも同じように駆けだす。そして、デジヴァイスを空に掲げた。 「ダブルスピリット・エボリューション!」 「スピリット・エボリューション!」 NOVEL TOP ×
|