何故ならそこに答えがあるから。
ケルビモンの笑い声が、デジタルワールドにこだました。不気味だった。まさか……とボコモンが呟く。[4/4] 「だ、大丈夫よ! あの二人が、負けるわけないじゃない……!」 「泉ちゃんの、言うとおりだ!」 「……きっと、無事に帰ってくるよ!」 「……信じよう」 「うん」 そして、わたしたちは再び祈るように空を見上げる。 しばらくすると、紫色とピンクを混ぜたみたいなエネルギーの光が見えた。二体はそのなかをくぐり抜け、そしてマグナガルルモンが先立ってケルビモンに向かった。けれど、彼は攻撃にやられて落ちていく。ああっ、と思ったが、それも作戦だったのかカイゼルグレイモンが飛び出していった。 わたしは、輝二くんと拓也くんにすべてを託した。そして、今拓也くん一人がケルビモンに立ち向かっている。お願い、拓也くん――、どうか、デジタルワールドの平和を取り戻してっ! それから、カイゼルグレイモンは剣をケルビモンに突き立てた。ケルビモンがコードに包まれ、そして浄化された善のケルビモンが現れる。 「浄化、されたんだ」 「……またね、ケルビモン」 わたしの腕の中にいたパタモンが、そう呟いた。これで、道を誤った善であるはずの彼が、ようやく救われるのだ。ケルビモンは涙を流して、けれど笑っていた。 しばらくすると、拓也くんが輝二くんをおぶって歩いてきた。――よかった、二人とも無事だったんだ。 「二人とも、ありがとう……っ!」 気付いたら、わたしはまた泣いていた。 * 「……おかしいな。何故だ」 「どうした」 「失われた大地を蘇らせたのに、デジタルワールドは虫食いのままだ」 ケルビモンを倒すことができ、想たちは喜んでいた。だが、ただ一人輝二だけは大地を睨み、そしてそんなことを言った。 輝二の言うことはもっともだった。大地のあちこちには、クレーターのような深い穴がある。何故、デジタルワールドが元に戻らないのか。 「データが元に戻れば、虫食いのデータは戻るはずなのに」 「ふむ、ひとまず辺りを調査するんじゃはら!」 そして、ボコモンのその一声で想たちは、辺りを調べ始めることにした。 輝二と想が、虫食いの原因を探っていた。皆は少し離れたところで、それぞれ大地を調べている。辺りには輝二と想の二人しかいなかった。 「……っ、やっぱり、きついな」 「わ、輝二くん無理しないで……!」 輝二が身体を抑えて言う。まだ身体が痛むようだった。 想は、輝二の横顔を見上げる。出逢った当初と顔つきは変わっていないのに、何故だか男の子らしくなったんじゃないかと思った。――少し、緊張しちゃうなあ、って、そんなこと言ってる場合じゃないけど。 「想」 「う、うん……?」 輝二が口を開いたかと思えば、彼は突然に想の腕を取った。想は顔を赤らめたが、輝二は気にしないふりをした。 想の腕には、傷跡があった。闇の闘士に攻撃することに踏ん切りが付かずにいた輝二。想は、あの時必死にベルグモンを抑えようとしていた。 その傷跡を見ていると、輝二は、途端に自分が情けない存在だと思いつめてしまう。想は華奢で、いつでも一生懸命だ。だからこそ、想に負担をかけてしまった自分に苛立った。 「お前は、いつも傷だらけだ」 「今の輝二くんに言われると、変なかんじ。……そうでもないよ?」 「いや、痛いだろ」 「もう平気だよ」 想は無邪気に笑った。想は、本当に傷のことを気にしていなかった。だから、輝二は余計にその笑顔が痛い。どうして、なんだ。 「……どうして、想は俺のためにここまでしてくれるんだ?」 「そんなの……輝二くんだから、だよ。……輝二くんは、わたしに色んな気持ちをくれた人、だから」 この世界に迷いこんで早々、助けてくれたのは彼だった。自分にとって、輝二は大きな存在だった。輝二が、想に勇気ややすらぎ、ときめきを教えてくれた。だから、自分が彼のために動くのは当たり前だと思っていた。 「だから、今度はわたしが輝二くんのために行動しなきゃって……、そう思ったから」 そして、想は一拍おいて、また語り始める。 「わたしは、渋谷駅で気を失って、気付いたらこの世界に来たでしょ、そしたらいきなり輝二くんにお前は帰れ、みたいなこと言われて」 「ん、そうだったか……!?」 「忘れたの!? ひどいよ。で、その時わたしは輝二くんにすっごいムカついてたんだけど、そのわりに輝二くんは助けてくれたり、……泣いてるわたしの傍にいてくれたり、したよね」 今までの出来事が、よみがえる。そうだ、輝二が想を気にかけるようになったのは、あのテレビの森での夜だった。今でも、月光に照らされた想の姿が頭にこびりついていた。想が普通に振舞っていても、彼女はあの頃のように変わらないのではないか。そんな気がして、そのたびに輝二は後悔の念に駆られる。 「俺は、ずっと独りでいいって思ってた。けど、お前たちに逢って変われたんだ」 「わたしも、望ちゃんのことがあってから、ずっと人が怖かったけれど――わたしも、皆に逢って、変われたよ」 二人とも変わったなんて、なんだか嬉しいね。想が笑ったので、輝二もつられて笑う。 まだ、互いに知らない面がある。だが、それはこれから知っていけばいい。俺たちは信頼しあっているのだから――。後悔したくない。もう二度と、この笑顔を曇らせたくないと思った。 そして、輝二は息を飲んで想を見つめる。 「想。俺はお前が悲しんだりしてると、俺まで悲しくなるんだ。……だから、これからは全部、俺にお前を守らせてくれ。……人間界に戻ってからも、ずっと」 「……こ、こーじ、くん」 予想外の輝二の言葉に、想の顔が赤くなる。輝二が、そう言ってくれるのはとても嬉しかった。自分にとっても、輝二はとても大切な人だと思っていたからだ。故に、想は思う。自分は守られているだけでいいのか、と。 「じゃあ、こ、輝二くんに、その言葉そっくりそのまま返します。わたしだって、輝二くんが悲しいと、悲しいもん」 そう言って、想は顔を横にそらす。恥ずかしくて、まともに輝二の顔が見られなかった上に、言葉遣いもめちゃめちゃだ。 彼女は顔をそらし、俯いて口を開いた。 「わたし……輝二くんに出逢えて、よかった」 「……ああ、俺もだよ。想が、ずっと俺の支えになってたんだ」 二人とも、同じ気持ちだった。想はちらりと顔を上げ、輝二を見た。ああ、どうしてこの人はこんなにも真っ直ぐに言葉をくれるんだろう。 「手……、握っても、いい?」 「わざわざ、聞くなよ」 想が動くよりも前に、輝二は、想の手に自分の手を重ねた。想ははにかみ笑う。 想は、以前輝二に手を握られるも、逃げ出してしまったことを思い出す。あの時は、好意を持たれたあとに失望されることを恐れていた。だが、今は、輝二には自分の善い面も悪い面も、すべて知ってほしいと思っていた。 てのひらがあたたかい。あの時感じられなかった互いの熱が、じんわりと伝わる。二人は、しばらくそうしたままだった。 だから、新たな脅威が迫ってきていることなど、今の二人には気付きようもなかった。 130915 ケルビモン編終わりましたやったー!がんばった! 本来ならばケルビモン倒してすぐ、輝二くんは異変に気付いてその後にまた動きがありますが、ここでは流れを変えました。すみません…。 NOVEL TOP |