愛と生命を育み
――あの時、想は輝一のところへ行っていた。[1/3] 決戦! バラの明星オファニモン救出作戦 トレイルモンから下車して駅舎に俺がいた時。拓也たちはそこにいたが、想の姿だけはそこにはなかった。それからトレイルモンが発車してから、隣の車両に輝一と想、パタモンがいるのが見えた。 きっと、あいつはあいつなりに輝一を励まそうとしていたのだろう。――想は、優しい。きっと、輝一ともすぐに打ち解けることができる。 気付けば、セフィロトモンから出てきてからまともに想と向き合って話をしていなかった。俺が想と望という友達に起こったことを聞いたのは、拓也からだった。 俺が想に輝一のことを相談したら、あいつはなんと答えるだろうか。どうして、輝一のところには行ったのに俺には何も言わないんだ。 想に逢い たいと思っていたのに、いざ共に行動するようになると、そのことばかりが気になっていた。 「……ねえ、輝二くん」 「っ、想」 「どうしたの、急に慌てて?」 想に声を掛けられた。全然、気が付かなかった。想はえへ、と笑って俺を見たが、すぐに悲しそうな表情になった。 「……輝二くんが、怪我してなくてよかった」 想の腕には、すり傷があった。新しい傷のようだった。 想も、輝一がベルグモンだったときに戦ってくれていたから、きっとその時に出来た傷なのだろう。 「その傷……、想、ごめん」 「ううん。無理は、しないでね」 想はそう言って輝一の方を一瞬見た。輝一は気づいていないようだったが、想も俺のことを心配してくれているらしかった。想は、優しい。想の曖昧な笑顔が、痛かった。 * 人間界から戻って来て、わたしは輝二くんにたくさんのことを、お話しようと思っていた。けれど、このバラの明星に向かっている空気では何も話せなかった。 わたしは、輝二くんと、それから少し離れたところにいた輝一くんの背を眺めていた。輝一くんはわたしたちの仲間になったけれど、この重い空気が変わることはなかった。 輝二くんと輝一くんは、今何を考えているんだろうか。もちろん、二人がすぐに打ち解けることができるなんて思っていない。もどかしい、と思った。 歩き続けたた先は崖だった。その先には、岩で出来た不思議な形の山みたいなものがあった。――あれが、バラの明星なのか。そこまで辿り着くと、デジヴァイスから音声が聴こえた。オファニモン様の声だ。 「皆、よくここまで来てくれました。伝説の闘士のスピリットで、ここにいるケルビモンを」 「!? ここに、ケルビモンがいるのかッ!?」 わたしたちはバラの明星を見上げる。その瞬間、辺りからデジコード飛んできて、それが頂上へと吸い込まれていった。ケルビモンは、ずっとここでデータを奪ってきたんだろうか。「デジタル、データを……」オファニモン様の声が聴こえたけれど、最後まで聴き終える前に連絡が途切れてしまった。どうして、あれほどのデータがあそこに集まっているんだろう。 「……輝一さんなら、何か知っているかも」 「そうだ、あいつはダスクモンだったんだ。おい輝二、聞いてみろよ」 純平さんはどうしてそんなことを言うんだろう。 輝二くんは、黙って輝一くんを見た。輝一くんは、独りでバラの明星を見上げている。わたしは、その輝一くんの横顔を切なく思った。もう、輝一くんは、ケルビモンの手に堕ちることはない。でも、きっと彼の心には深い傷跡が残っている。 この会話は輝一くんにしっかり聞こえていたみたいだった。輝一くんは「すまない」と謝って、ケルビモンが大量のデータを集めていることしか知らないと言った。 「とにかく、オファニモンを救い出すのが先だっ!」 「……でも、どうやって行くの?」 「あの岩を伝っていくしか」 「とりあえず、進化しようよ。……シキモンとか飛べないけど、ジャンプしたらいけそう!」 「罠もありそうね」 ネーモンは罠、におびえて、ボコモンは「拓也はんたちなら……!」と言っていた。 それからわたしたちは進化した。 * 頂上まで辿り着いて、そこにあったのは門だった。他に建物はなかった。どうして門しかないのか、辺りの様子を伺っていたら上の方から鉄球が飛んできた。 「な、何だ!?」 「お前たちの魂を……切り裂いてやる!」 そこには、二体のデジモンがいた。ファントモンといって、デジモンの死神らしい。 ブリッツモンはファントモンに攻撃されそうになり、それをヴォルフモンがかばった。でもその攻撃もかわされてしまい、ヴォルフモンが危なくなったとき――レーベモンがファントモンを攻撃した。わたしも戦いながら、その様子に安心した。 「色即是空ッ!」 「トールハンマー!」 「バーニング・サラマンダー!」 攻撃をしても通用せず、それどころかファントモンはどこかへ消えてしまった。 「皆、気をつけろ! あのマントの中は、別次元へ通じているんじゃい!」 「何!?」 「ファントモン! 出てこいでござる!」 シキモンたちは、辺りを歩き、ファントモンを探し始める。――その時、だった。皆から少し離れていたのがいけなかったのか――急に、視界が切り替わってしまった。 白っぽくて不透明な景色だった。いつの間にか、周りには皆がいた。そしてよく見ると視界が曇っていてわかりづらいけれど、レーベモンが外にいた。 NOVEL TOP |