遍在しつづける眼で
[2/4] 「色のおねえちゃん、こっちです〜」 「え? パタモン、どこいくの!」 パタモンはふわふわ飛んで、そしてトレイルモンの中へ入っていった。 パタモンの背中を追いかけていると、わたしはお兄さんのいる車両にたどり着いた。 「パタモン、待って……あ、」 「……」 彼は一度わたしに目を合わせたけれど、すぐにそむけて俯いてしまった。パタモンは、彼に会わせるためにわたしを連れてきたのか。 わたしは、車両のドアを閉めた。ぎい、という音が静かな空間に響く。 「……どうも。わ、わたし、比沢想っていいます。色の、スピリットの」 「色……、俺、君にもひどいことをしたよね。謝ってすまされるとは思っていない。けれど、ごめん」 わたしは勇気を出してお兄さんに声を掛けた。お兄さんは気まずそうにわたしを見て、そしてごめんと頭を下げた。 「あ。それは、もう過ぎたことだからいいんだけど、あのね、その、『償う』って気持ちが大事なんだと、思うの」 「……」 彼は黙っているままだった。 「わたしも、事故だったんだけど友達――あ、ハクジャモンだった子なんだけど――昔、その子を突き落としたことがあって。ずっと、罪悪感があったの」 それが、その子とデジタルワールドで再会して、分かり合うことができた。もちろん、わたしはその子に対する償いの気持ちがある。 前にエレキモンさんの村で純平さんと話したけれど、この償う姿勢ということがとても大事なのだと思う。それは当たり前だけれどとても大切な一歩だ。 「だけど――すごく時間が経ったけど、わたしはその子と分かり合えることができたよ。輝二くんも、輝二くんなりに受け止めようとして悩んでるみたい」 「――でも、何で君は俺を責めないんだ。君を、君の仲間を殺そうとしたのに」 その時、トレイルモンが再び動き出した。ごお、という音が車内にこだます。 わたしは彼を見る。夢で会ったときと同じ、寂しい目をしていた。 「……あなたはちゃんと罪の意識があるから」 お兄さんは、もちろんいけないことをしてしまった。だけれど彼がこうなってしまった原因は、ケルビモンにあるし、彼は今その罪を受け入れて悩んでいる。だから、わたしは彼を責める気にはなれない。 一歩間違えればわたしも彼と同じように闇にとらわれていたかもしれない身だ。だからこそ、余計にわたしはそれ以上言えなかった。 「光と闇はきょうだいです。光のあるところに、闇はあるです。だから、闇だったことを悔いることはないです」 「そう、か。元々はお前は天使型デジモンだったよな。俺みたいな、一度闇に染まったやつにでも……ありがとう。えっと、比沢さんも」 わたしの頭の上に乗っていたパタモンが、そう言った。そうだ、光と闇は、正反対だけれど常にそこにあるものだ。 「あ、想でいいよ」 「……想、ちゃん。ねえ、俺たち――どこかで」 「な、何かくるです!!」 彼が言ったときだった。パタモンが急に身震いをして――それから、トレイルモンが急停車した。 「わっ」 トレイルモンの車両ごとひっくり返って、トレイルモンは線路沿いの大地に倒れてしまった。 わたしは窓から外を覗いた――そこには、巨大なウサギがいた。間違いなく、あれはわたしは以前夢でみたウサギだった。輝二くんが「ケルビモンだ!」と叫ぶ。――あれが、ケルビモン。とても冷たくて、こわい目をしていた。 「ウワァッ」 「トレイルモン!」 ケルビモンがトレイルモンを蹴り、トレイルモンはどこかへ飛んでいってしまっていた。 「進化だ!」 「――スピリット・エボリューション!」 「ダブルスピリット・エボリューション!」 わたしたちは、それぞれアルダモン、ベオウルフモン、ブリッツモン、シューツモン、ブリザーモン、そしてイナバモンになった。 全員で必殺技をケルビモンに与えるけれど、大した効果はなかった。 「びくともしない……」 「そりゃ大ボスだからな。いくぞ、ブリザーモン! 二人で考えたコンボ技……!」 「おう!」 「待て!」 アルダモンが止めようとしても、二体は準備を進めていた。 「プラズマ・ダブルトマホーク!」 そしてブリザーモンは吹雪を発生させ、オノを投げた。ブリッツモンはそれを手に取り、雷鳴とともにそれをぶつけた。しかし、ケルビモンはそれを跳ね返し、ブリッツモンにオノをぶつけようとした。間一髪で、アルダモンがそれをはじいた。 「あ、ありがとう!」 「いつもの敵とは違うんだ。いいか、俺とベオウルフモンがいくから、お前たちは後方支援を頼んだ!」 「お、おう……!」 そして、アルダモンとベオウルフモンが先陣に立ち攻撃を仕掛けた――でも、それも通用しない。 NOVEL TOP ×
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