遍在しつづける眼で
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新たなる闇の闘士! レーベモン&カイザーレオモン
 ついにダスクモンのデータをスキャンし、彼を救うことができた。その彼――輝二くんのお兄さんは、気を失って倒れていた。わたしたちは、ただどうしていいのか分からずに彼の方を見ていた。
すると、彼ははっ、と意識を取り戻し身体を起き上がらせた。


「……俺は……一体、何をしてたんだ」
「こ、こいつは……」
「……オレ、こいつ見たことある!」

 それから拓也くんは、自分が人間界に戻った時のことを語る。

「――わたしも、あなたのことは知ってた。渋谷駅で、わたしの夢の中で現れたから」

 お兄さんは何も言わなかった。俯いて、じっと地面を見つめていた。輝二くんが、彼に不安げに近づいていった。

「本当に……そうなのか、今の拓也や想の話――いや、それよりも俺と君が兄弟だって、母さんが生きてるって話!!」
「……っ」

 お兄さんは頭をかかえて、うめいた。輝二くんが「何か言ってくれよ!」と言っても、彼は黙ったままだった。

「本当、だ」

 そして、彼はゆっくりと言葉を絞り出すように言った。おばあちゃんが亡くなるとき、輝二くんの存在を教えてもらったこと。それから、自分で輝二くんのことを調べるようになったこと。声をかけようと思っても、できずにいたこと。自分のお母さんが苦労している姿を、ずっと見ていたこと。


「それがあの日、渋谷に向かう電車で君を見かけて――」
「……それじゃあ、やっぱり、あれは君だったんだね。あれから君も、地下のトレイルモンに乗って、デジタルワールドに?」
「……それが、よく覚えていないんだ。次に気付いたときには――、最初は不思議だった。ここは死後の世界で、俺は魂になってさまよっているんじゃないかって」


 お兄さんは、気付けば不思議な空間にいたそうだった。暗い、闇に満ちた世界で、孤独だった。そんな彼に――ケルビモンが現れた。そして彼は、闇のスピリットを植え付けられ、ダスクモンとして目覚めたのだった――。
 わたしは、何も言えなかった。もちろん、輝二くんと拓也くんもそうだった。ひゅう、と冷たい風が吹き抜ける。
 しばらくして、泉ちゃんたちが乗ったトレイルモンがやってきたから、わたしたちは乗車した。皆が揃っても、この重い空気が変わることはがなかった。

*


 わたしは彼にぶつかって倒れていた。けれど、本人はどうやってデジタルワールドに来たのか分からないと言っている。もしかしたら、彼もわたしみたいに“選んで”やってきたわけではないのかもしれない。
 望ちゃんなら、こういうときどうするだろう。望ちゃんと同じように、ケルビモンに闇の力を引き出された彼。――でも、きっとケルビモンの影響力が強かったのはダスクモンのほうだ。だから、最後まで悪の闘士として在ったんだ。


「しっかし、もーすぐだな! あの城の下にバラの明星が」
「オファニモンが待ってるです」

 そう、そこにオファニモン様はいるらしい。だからトレイルモンはそこに向かって移動している。でも今のわたしには、そういうことよりもお兄さんのことが気になった。

「いよいよか……って、何だよ! 盛り上がろうぜ!」
「だって……」
「まさかダスクモンが輝二のお兄さんだったなんて……」

 わたしたちは、同じ車両の少し離れたところにいる輝二くん、そして隣の車両に一人でいるお兄さんを見やる。二人とも、きっとすごく苦しんでいる、悩んでいる。今、二人にどういう言葉をかけるのが適切なのか。わたしは考えていた。
 ターミナルについて、トレイルモンが止まった。輝二くんは駅舎の中に入っていって、わたしたちはトレイルモンから下車して相談する。


「どうにかして、輝二さんと輝二さんのお兄さん、仲良くさせること、できないかな」
「うーん……」
「ほっとけほっとけ!」
「純平、あんたね……!」
「他人のプライベートな問題に首をつっこむのはどうかと思うね。おれだったら放っておいてもらいたい」
「確かに。それも、そうなんだよね……」


 純平さんの言うことはもっともだった。どうやったって、わたしたちがあの二人の苦しみを真に理解することはできない。昔のわたしだったら、こういうことに直面したとき何もせずにいただろう。――それでも、今は違う。少しでも、支えになることはできる。


「でも……」

 そして、拓也くんは駅舎をのドアを開けて輝二くんのところへ向かった。全員が駅舎に入っていって、わたしもその後に続こうとした。すると、パタモンが飛んできてわたしを呼ぶ。

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