輝くことができたなら
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 それから、しばらく歩いていると、わたしがずっと逢いたかった人の背中が見えた。


「……、こ、輝二、くん!」
 先頭を走る拓也くんを追い抜かして、わたしはあの人目がけて走っていく。ここまで速く走ることができるなんて、初めてかもしれない。
 わたしの声に気付いた輝二くんは、ゆっくりと振り返る。そして、わたしは彼に抱きついた。自然と、身体が動いていた。


「輝二くーん!」
「想!?」

 泣きそうだったけれど、わたしは必死に涙を抑えて輝二くんのジャージを掴んだ。

「……ずっと、逢いたかったよ、輝二くん。無事で良かった……」
「想も、無事だったんだな……」


 それから輝二くんは眉間にシワを寄せながら、困ったように笑った。輝二くんは抱きついたままだったわたしを離した。わたしの腕に触れていた手が、かすかに震えていた。一体何があったのだろう。
 わたしは輝二くんの、夜みたいな色をした瞳を見上げた。輝二くんは、戸惑っているように見えた。


「ダスクモンは……どうだったの」
「……っ」


 輝二くんの瞳が揺れた。
 もしかして、ダスクモンの中にいる彼、に気付いたんだろうか。もしそうなら、わたしが現実世界で体験したことを話さなければいけなかった。
 だからわたしは「あのね、」と口を開きかけた。けれど、輝二くんがわたしの声をさえぎる。


「想。俺は……」


 俺は、の先は何もなかった。何かを言おうとしたけれど、決心が付かなかったみたいな、そういう沈黙だった。


「……なあ、さっきのやつって何だったんだ?」
「ベルグモン。ケルビモンの力を借り、ダスクモンがビースト進化したんだ」
「さすが輝二はん! そのベルグモンと互角に戦うなんてなかなかできん!」

 互角か、とつぶやいて輝二くんはまた考えこむ。輝二くんは今、何を考えているんだろう。悩んでいる顔が切なかった。

「こんにちは〜」
「わっ……何だ、おまえ」
「パタモンです」

 パタモンが輝二くんのところへ飛んできた。
 それから皆がパタモンのことを説明した。

「輝二がベオウルフモンに進化できたのはこの子のお陰、ってわけ!」
「あと、想さんのデジヴァイスが光ったんだよ!」
「わ、わたしは何もしてないけど、スピリットがね、光ったから……!」
「そうだったのか……二人とも、ありがとう」
「これで輝二はんもそろって、全員合流じゃな!」

 嬉しくて泣きそうになる。
 これで、皆でベルグモンを助けられる。だからわたしは、輝二くんそっくりの男の子のことを話そうと思った。けれど、輝二くんが何か遠くの方を見つめていたことに気付いて――。

「……謎の全て」
「えっ?」
「想、悪い。確かめなきゃいけないんだ」
「こ、こーじくん!」

 輝二くんはそういうと、すぐに走りだしてしまっていた。
 待ってと背中に呼びかけても、輝二くんはとても速く駆けていってしまっている。わたしが走っても、追いつけないくらいに速かった。それでも。


「輝二くん、待って!」


 意味が無いことだと分かっていても。わたしには輝二くんを追いかけることしかできない。輝二くんを、ダスクモンのあの子を救い出したい。
 わたしの背中のほうで「想まで!」と言っているみんなの声が聞こえたけれど、わたしの足が止まることはなかった。

130812
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