輝くことができたなら
それから、しばらく歩いていると、わたしがずっと逢いたかった人の背中が見えた。[3/3] 「……、こ、輝二、くん!」 先頭を走る拓也くんを追い抜かして、わたしはあの人目がけて走っていく。ここまで速く走ることができるなんて、初めてかもしれない。 わたしの声に気付いた輝二くんは、ゆっくりと振り返る。そして、わたしは彼に抱きついた。自然と、身体が動いていた。 「輝二くーん!」 「想!?」 泣きそうだったけれど、わたしは必死に涙を抑えて輝二くんのジャージを掴んだ。 「……ずっと、逢いたかったよ、輝二くん。無事で良かった……」 「想も、無事だったんだな……」 それから輝二くんは眉間にシワを寄せながら、困ったように笑った。輝二くんは抱きついたままだったわたしを離した。わたしの腕に触れていた手が、かすかに震えていた。一体何があったのだろう。 わたしは輝二くんの、夜みたいな色をした瞳を見上げた。輝二くんは、戸惑っているように見えた。 「ダスクモンは……どうだったの」 「……っ」 輝二くんの瞳が揺れた。 もしかして、ダスクモンの中にいる彼、に気付いたんだろうか。もしそうなら、わたしが現実世界で体験したことを話さなければいけなかった。 だからわたしは「あのね、」と口を開きかけた。けれど、輝二くんがわたしの声をさえぎる。 「想。俺は……」 俺は、の先は何もなかった。何かを言おうとしたけれど、決心が付かなかったみたいな、そういう沈黙だった。 「……なあ、さっきのやつって何だったんだ?」 「ベルグモン。ケルビモンの力を借り、ダスクモンがビースト進化したんだ」 「さすが輝二はん! そのベルグモンと互角に戦うなんてなかなかできん!」 互角か、とつぶやいて輝二くんはまた考えこむ。輝二くんは今、何を考えているんだろう。悩んでいる顔が切なかった。 「こんにちは〜」 「わっ……何だ、おまえ」 「パタモンです」 パタモンが輝二くんのところへ飛んできた。 それから皆がパタモンのことを説明した。 「輝二がベオウルフモンに進化できたのはこの子のお陰、ってわけ!」 「あと、想さんのデジヴァイスが光ったんだよ!」 「わ、わたしは何もしてないけど、スピリットがね、光ったから……!」 「そうだったのか……二人とも、ありがとう」 「これで輝二はんもそろって、全員合流じゃな!」 嬉しくて泣きそうになる。 これで、皆でベルグモンを助けられる。だからわたしは、輝二くんそっくりの男の子のことを話そうと思った。けれど、輝二くんが何か遠くの方を見つめていたことに気付いて――。 「……謎の全て」 「えっ?」 「想、悪い。確かめなきゃいけないんだ」 「こ、こーじくん!」 輝二くんはそういうと、すぐに走りだしてしまっていた。 待ってと背中に呼びかけても、輝二くんはとても速く駆けていってしまっている。わたしが走っても、追いつけないくらいに速かった。それでも。 「輝二くん、待って!」 意味が無いことだと分かっていても。わたしには輝二くんを追いかけることしかできない。輝二くんを、ダスクモンのあの子を救い出したい。 わたしの背中のほうで「想まで!」と言っているみんなの声が聞こえたけれど、わたしの足が止まることはなかった。 130812 NOVEL TOP ×
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