わたしはよわい
「作戦決行は夜。泉がここで騒ぎを起こす。分かったな?」[3/3] 「大丈夫よ」 「オレたちはその隙に工場の中枢部を破壊しに行く!」 みんなが話し合いをしている最中、わたしはどうすればいいのか分からずその様子を見ているだけだった。同じ進化できない組の純平さんはどうするんだろう。 「……オレは行かない!」 「えぇ?」 「そりゃ、いいよな! お前たちは進化できるんだから!」 拓也君が何拗ねてんだとか言ったけど、そういう問題じゃない。戦えない身じゃあわざわざ死ににいくようなものなのに、挑むなんてことはできない。 「わ、わたしも、行かない……」 「なっ、想まで!」 俯いたままつぶやくと、驚いた拓也君の声が耳に入ったけど、わたしは顔を上げることはできなかった。だって正直わたしが行ったところで何か使えるわけない、もん。また純平さんと拓也君は言い争っていて、コクワモンがそれを止める。 「全てのものが、拓也さんのような強い心の持ち主ではないのです」 逃げても、全然問題ないと思うわたしは間違ってるんだろうか。 夜になった。普通ならひとつしかないはずの衛星は三つあって、それが空にわずかな光をもたらしている。その三つの月のお陰で、改めてここが異世界であるということを痛感してしまう。純平さん、戦闘組でないコクワモンたちと、そしてわたしは遠くに避難することになった。 丘をのぼり、上を目指す。道はでこぼこだし、急斜面で歩きづらくて吐く息も荒くなってくる。みんな、無事かな――。 ふと純平さんの方をみると、純平さんは工場がある方向を見つめていた。 「じゅ、純平さん……?」 「みんな、戦っている。けど……オレは」 そんなとき、だった。コクワモンの群れのいちばんちっちゃな子が、戦いに向かおうとしていた。 「いや、ぼくもたたかう!」 長老には当たり前のように止められる。それでもコクワモンのこどもは、頑なにそれを拒否していて。わたしだったら絶対思えないようなことを考えているコクワモンの子がすごくて、わたしは自分が情けなくなった。 「オレ、行くよ。ごめん、想ちゃん。みんなを連れて逃げてくれ!!」 「そ、そんな!」 「……お兄ちゃん、がんばって!」 純平さんは丘を一気に下り、工場に向かって駆けていった。取り残されたわたしは、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。どうしてそんな危ないことができるの。……やっぱりわたしが臆病なだけ、なの? その後、純平さんは雷のスピリットを得て、“ブリッツモン”というデジモンになることができ、敵もあっという間に倒してしまったらしい。そうか、きっと選ばれた人だから戦えない身なのに工場にいくことができたんだ。 純平さんはわたしみたいに戦うのを拒否していたから、わたしと似ていると思った。けれど違うんだね。じゃあわたしはなんでここにいるんだろう――。 ともかく、これでコクワモンたちは森へ帰れることになったらしい。 「想ちゃん、何ボーッとしてるんだよ?」 「あ……ごめん、今いく」 呼ばれて、みんなのあとを追う。これで闘士は、ここにいない輝二さんを含めて五人。わたしも純平さんのように勇気を持って戦える日が、くるのかなんて、到底思えなかった。 110429 NOVEL TOP ×
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