やさしく夜を包むように
みんなはおびえて、洞窟を暴れる。雷と雪があたりに轟いた。[3/3] 「やめて!」 「落ち着け、落ち着くんだ!」 「ハハハハッ! 怖いだろう、恐ろしいだろう、闇の世界は!!」 ブリッツモンがまた暴れだそうとして、アルダモンがそれを止める。 「……お前はいいよ! ダブルスピリット進化できたんだからな」 「ボクたちより強いもん」 「……そうだ、闇はお前たちの心のなかにもある。お前たちの心には、深い底なし沼のような闇がある」 「何であたしたちこんな目に合わなきゃなんないの」 みんなは言い争いを始めてしまった。アルダモンが止めようとしても何も効かない。 ――ここが暗いのなら、光で照らし出せばいいんじゃないか。わたしはそう思って、シキモンの腕を天に掲げた。 「可視光拳!」 けれど、七色に輝くはずの拳は何の色ももたらさない。そもそも、技が出ない。 「無駄だ。お前の可視光拳は、光と闇が揃わないと意味がない」 「そんな……」 「シキモン! きっと何か他に方法があるはずだ」 「しょ、承知!」 「二人ともうるさいな! どっか行ってよ!」 目の前で、風と雪がぶつかり合う。二人ともすっかり気が動転してしまっている。そして「怖い……」とつぶやく。 アルダモンは、尻尾で地を叩いて、恐怖する三人に語った。 「怖がるな、光が見えた。オレたちは勝てる。相手は一体だ」 「その一体にやられっぱなしじゃんか!」 「目を閉じろ」 アルダモンの策は分からなかったけれど、シキモンも言われたとおりに瞳を閉じた。 ――オレたちは今デジモンなんだ。人間のときよりも感覚が鋭くなっている。感じるんだ―― 瞳を閉じて、真っ暗闇のなかでアルダモンが囁く。アルダモンの言うとおり、今のわたしは比沢想ではなく、色の闘士シキモンだ。 「感じる……色んな気配が」 「本当だ、水の音も、風の音も――、」 「みえる。彼奴の居所が感じられる」 「……ああ」 「――それに、オレたちは一人じゃない。五人も仲間がいるんだ」 ずっと一人じゃない。みんなは、ここにいる。当たり前のことだけれど、わたしは泣きそうになっていた。 「ダブルスピリット進化はできなかったけど――皆の力を融合させるんだ」 うん、と頷く。 そこでセフィロトモンが再び光り「フィナーレだ!」と叫ぶ。シキモンたちは互いに顔を見合わせる。 「プレッザ・ペタロ!」 「スノーボンバー!」 つよい雪風がセフィロトモンを打つ。セフィロトモンは慌てていたけれど、データにないなんて当たり前だった。 「ミョルニル・サンダー!」 「可視光拳!」 雷鳴の上に乗って、虹の拳がきらめいた。 それから次々にもみんなと一緒に協力して、新しい技をセフィロトモンにぶつけていく。 「オレたちはそれぞれの技を合わせて、新しい技を生み出したんだ!」 「ぐっ……」 「オレたちのデータはコピーできても、オレたちの成長はコピーできなかったようだな!」 ――わたしたちは成長していった。仲間と、ともに。だから、一人のセフィロトモンには勝てるんだ。 「まさか……俺がお前たちごときに負けるわけがない!」 セフィロトモンはめちゃくちゃに技を放つ。アルダモンはその技すべてをかわして「逃げるもんか――」と言った。 「逃げなければ、闇の中に光が見える! ――皆、セフィロトモンの動きを止めてくれ」 アルダモンはセフィロトモンの弱点を発見したらしく、シキモンたちにそう呼びかける。だからその言葉にしたがって、みんなセフィロトモンに必殺技を放った。四つの技が重なって、セフィロトモンが打たれる。そして動きが鈍くなった所で、 「ブラフマストラ!」 「ウガアアア!」 「穢れた悪の魂を、このデジヴァイスが浄化する。デジコード・スキャン!」 アルダモンが炎をぶつけ、そしてデータをロードした。みんなの力で、セフィロトモンを倒せた。 望ちゃん。わたし――、強くなれたよ。 * 「みんながいたら、闇の中もこわくない」 「うん……よかった、仲間がいて」 「……あと、もう一人いる」 わたしたちは互いに顔を見合わせて、頷いた。輝二くん。はやく、逢いたいよ。 セフィロトモンによってはぐれてしまったとき、最後にわたしの手を取ろうとしてくれたのは輝二くんだった。 それから逢えなかったあいだ、こんなことがあった、とか。そういうのも全て話したい。仲間、だけれど、輝二くんはわたしにとって大切な人なんだ。 130608 NOVEL TOP ×
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